九十八章 獄炎の魔女と魔眼の王
「竜だな……」
「竜ですね……」
「めっちゃでっかいな……」
「大きいですね……」
翠輝く巨竜となったテンペストを遠くから見やり、茫然自失と呟くファティエルとアルストロメリアの二人。轟音とどろく閃光が空の彼方へと消え失せた後に訪れるのは耳が痛いほどの静寂であった。
遠く離れていても鳥肌を立たせる絶大な圧力と重圧。魔王すらも及ばない領域に住まう化け物だと、二人の生存本能が警報を鳴らし続けている。人類では決して対抗できない天蓋の生物なのだと、姿を見るだけで誰もが理解してしまえる―――下位や中位の竜種など比べるのもおこがましい正真正銘の竜であった。四肢で大地をしっかりと踏みつけ首をもたげている姿は、まさに地上の王者が如き風格を漂わせている。
「……まさか、文献にある竜人? 人と竜種の間にうまれるという希少種。幻想大陸では確認されていない、種族なのか? いや、だが……」
神聖エレクシル帝国の保有する大図書館の内容を殆ど調べつくした女皇が、数多の推測を脳裏に浮かべながら、ぶつぶつと小さく口にだしつつ内容を整理する。
竜人―――竜種と人類がまぐわった末に産まれるハーフ。もっとも、人類、竜種どちらが女性であろうとも異なる種族同士で子を為すなど珍しいことだ。人に姿が近い巨人種と人類ならばまだ可能性はあるが、竜種と人類では姿形が異なりすぎている。それ故に、幻想大陸には竜人などというハーフはおらず、あくまでも文献にしか登場しない存在である。
「……なぁ、アルストロメリア。あの竜……? いや、女性か? まぁ、どっちでもいいか。とにかくどう思う?」
「……そうですね。恐らくは竜人ではないでしょう。確かに伝承にあるあの種族ならば他人類とは隔絶たる差を持っているはずです。ですが、流石に魔王を圧倒するなどありえません」
「まぁ、確かにそうだな」
部下の台詞をあっさりと肯定する。
そもそも下位や中位竜種は人類にとっては脅威であるものの、魔王からすれば雑魚同然。高位竜種であったとしても苦戦を強いられることはないだろう。それほどの差があるのに、その竜種と人類のハーフが魔王を打ち倒すことが出来るとは思えない。
「と、なれば考えられる候補は一つだけです。ファティエル様もその結論に達していると思いますが……」
「あぁ……てっか、もうそれくらいしか選択肢はないしなぁ……」
「高位竜種のさらに上。即ち―――竜王。女性であることを考慮すれば、恐らくは竜女王テンペスト=テンペシア。それが彼女の正体でしょう。ですが何故竜女王がキョウ殿の味方をするかまではわかりませんが」
「そこまでわかったらすげーよ。でもまぁ……竜女王ってところまではお前も同じ推測かよ」
アルストロメリアもまた自身と同様の結論に達したことに、ファティエルは深く嘆息した。証拠など何もない。ただの二人の予想ではあるが、それが間違っていないことに確信を持っている。
そもそも魔王を倒した時点でその候補は超越存在のみに絞られるのだから、テンペストの正体へと辿りつくのは当然とも言えた。
「かつて竜園を踏破しようとした英雄王アルベルトの時代の者達が書き残した歴史書には、竜王は人語を解したとありました。流石に人化できるとは思いませんでしたが……」
「まさか、だよな。世の中よくわからんもんだぜ……あの竜女王があんな美人さんだとは。オレ様もそれなりに可愛いと自負してたけど、あれには適わん。てか、おっぱいもでっけーぞ。少しはオレ様にもわけてくれよ」
「……」
「まー。オレ様もまだまだ成長期だから後二、三年もすればボンキュッボンになってるんだろうけどさ」
ファティエルは自身の小さな胸を見てもう一度嘆息する。
なるほど。確かに彼女の胸部は、些か膨らみが小さく女性的な魅力に欠けていた。
あけすけな女皇の発言に、何の反応もしないアルストロメリアであったが―――そこはかとなく心の底からの同意をする。
―――成長が止まって早百数十年。もはや私は手遅れですね。女皇陛下もそんな発言はフラグっていうものだと思いますけど。
女性としては随分と高身長であり長身痩躯なアルストロメリアではあるが、スレンダーな体型故にファティエルと同様に胸の大きさに悩みを抱えていた。遥か昔に諦めたとはいえ、すぐ傍で女皇の悩みを聞かされた彼女はかつての己のことを思い出しふっとアンニュイな表情で溜息をつく。そんな彼女の姿に気づかないファティエルが視線を動かし今度は気になっていた狐の幼女へと注目して、瞠目した。
そちらで行われていたのは彼女の目にも留まらない速度で行われる高速戦闘。響き渡るのはヤクシャの哄笑と肉を打つ音。時折思い出したかのように動きをとめて互いに殴り合っている二人の戦闘が視界に映る。
「……す、すげぇ」
ファティエルはそう呟いた。
それ以外の感想など思い浮かばなかった。あのヤクシャを相手にして一歩も退かない勇気と力。それはある種の感動さえ覚える戦いであった。
だが、その戦いは突如として終わりを告げる。
向かい合っている二人が何やら会話をしており―――そして膨れ上がる膨大な獣圧。テンペストが放っている圧力にも負けず劣らずの力の解放。空気が波打ち、震動のように遠く離れたファティエルの身体を押し流す。その圧力に目を閉じたのは一瞬であったが、開いた瞬間瞳に映ったのは、巨大な狐の姿。金毛に全身が覆われた、九つの尾を靡かせる魔獣の王がそこに在った。
「ちょっ、な、ななななんだありゃ!? きききき、狐ぇぇえ!? 今度は狐かよぉ!?」
もはや何度目になるかわからない女皇の驚愕の声が響き渡った。
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獄炎の魔女と魔眼の王の戦いは、ナインテールとヤクシャの闘争とは正反対なものであった。人の枠組みを超えた身体能力を誇った二体の戦いとは別で、彼女達には激しい動きは見られない。だからといって、幻獣王と暴虐の悪鬼の争いよりレベルが低いとは言えなかった。この二人の闘争もまた、人の理解を遥かに超えていたのだから。
パチリっと大気中を漂うマナが音を立てて弾け飛ぶ。
ディーティニアとデッドエンドアイの両者が放つ魔力は絶大で、こと魔力という点でいえば他の魔王すらも遥かに超えている。ただ相対しているだけだというのに、互いの魔力が渦巻き周囲に砂塵を巻き起こした。他の超越存在と等しく、直下から揺らすような大地震が起き、あらゆる場所にて地割れが出現し、大地の崩壊を連想させた。れは人類と魔族の最終決戦が始まってから幾たびも行われた超越存在による死闘の影響が齎した結果。大陸そのものが震えを起こし、周囲に散らばった大小様々な岩石が罅割れ砕け散っていく。
次々と魔王が倒されていく中、不安など微塵も見せないデッドエンドアイが自身の周囲に紫炎を顕現させる。時を同じくしてディーティニアもまた真紅に燃え上がる獄炎を身に纏う。遠く離れている観客の肌すらチリチリと焼いてくる膨大な熱量を秘めた熱波が周囲を紫と赤色に染め上げた。
煉獄の魔王が片手をディーティニアへとツイっと向けると周囲の紫炎が圧縮され紫炎の玉へと変化する。その十にも及ぶ炎玉が勢いよく放たれるが、魔女はそれら全てを同等の威力と魔力を込めた獄炎の炎で打ち落とす。言葉にすれば簡単なことだが、それを出来る存在が果たして幻想大陸にどれだけいるだろうか。
息をつかせる暇もなく瞬時に練り上げた紫紺の大炎がまるで津波のように小さな魔女へと降りかかる。ディーティニアを飲み込み焼き尽くそうとする大波。それに向かって両手をかざすと、召喚されるのは大波を呑み込む巨大な炎龍。顎を開いた炎龍が紫炎の波と激突し、ぷすぷすと白い煙をあげながら拮抗する。数秒も互いの炎が激突していただろうか、打ち勝ったのは獄炎の魔女の終焉の終炎で、炎波を打ち抜きそのままの勢いで魔眼の王へと襲い掛かった。
迫り来る熱波と炎龍の圧力を真正面から浴びながらも、デッドエンドアイは微塵も表情を変化させることなく右手を天へとかざす。クンっとかざしていた手を勢いよく炎龍へと振り下ろすと、圧縮された膨大な紫炎が破壊の鉄槌となって自分へと迫ってきていた獄炎を叩き潰した。超高熱の魔法同士が激突し相殺された結果、二人の視界を満たすのは水蒸気にも似た白い煙。
その悪い視界を切り裂いて飛翔してくるのは紫炎の閃光であった。
魔導師としては動ける部類に入るディーティニアだが、音速に近い速度で飛来する炎閃を見てからかわすなど不可能だ。いや、そもそも視認してから避けるなど人類にとっては難しい。故に、彼女がその炎閃から逃れられたのは既にその場から動いていた結果だ。数多の死線を踏破することによって得られた第六感。それが鳴らした警鐘に従って、咄嗟に横へと転がるように飛んだ直後には今の今まで彼女がいた場所を炎閃が貫いていった。
回避すると同時に右手に狂炎の剣が出現。それが長大化し、その炎の剣の切っ先が離れたデッドエンドアイへと切り上げられる。逆袈裟の流れで振るわれた炎剣を、鼻で笑った魔王は片手で軽々と掴み取ると、あっさりと握りつぶした。
僅かな火傷も負っていない魔王の姿に、その実力の高さを否が応でも認識する。戦う前に感じた狂気染みた殺意を身に受けて以前の魔王ではない、と理解していたつもりであったが―――あくまでもつもりでしかなかったことを再認した。かつて退けた相手だった、ということもあったのだろう。随分と変わった宿敵に、改めて気を引き締めなおす。間違いなく、目の前にいる魔王を名乗る何かは、テンペストにも匹敵する絶対強者だ。
遥か遠くで何やら巨人と巨大狐の怪獣大決戦をやっているせいか、時折大地震が地面を揺らす。鼓膜を震わせる激突音が盛大に響き渡る。そんな中でも、ディーティニアは自分の呼吸の音と、心臓の鼓動だけは嫌と言うほどに聞こえていて、それを聞きながら彼女は不吉な予感に襲われていた。
この類の予感は過去何度か経験したことがある。それは女神と戦った時やテンペストと戦った時。
つまりは、自分が死ぬかもしれないという可能性。それを感じさせるほどに突き抜けた敵。
ツゥっと頬を流れる一滴の汗。
彼女は、ディーティニアは強い。怖ろしいほどに強い。それは間違いなく誰もが認める事実。
しかし、彼女は強すぎた。魔法使いとしてあまりにも隔絶過ぎた。獄炎の魔女とまともに打ち合える魔法使いなど存在しなかった。戦いと言えば全てが格下相手ばかり。生死をかけた戦いなど、数えられる限り。巨人王や不死王は少し異なっているし、正確に言えば以前のデッドエンドアイとテンペスト、それにユルルングルくらいであろうか。千年近くの人生の中で、戦えばどちらに勝敗が転がるかわからないほどに拮抗した死闘は僅か三度。
キョウ=スメラギとはそこが決定的な違いである。
彼は自分よりも強い相手を知っている。その化け物染みた女性に育て上げられ、最強の頂の高さをその目で見ていた。七つの人災と呼ばれる化け物達と常に鎬を削ってきていた。故にキョウは慢心することなど決してない。
強者であるが故の絶対的な経験値不足。
獄炎の魔女ディーティニアにとって唯一の弱点はそこであるともいえた。
「……お主に一つ聞きたいことがある」
「……」
内心のことなど外見に全く出さないディーティニアは冷静沈着そのもので、デッドエンドアイへと言葉を飛ばす。返事はしないものの、攻撃の手が止まったことに続きを促しているのだと判断し続きとなる台詞を紡いでいく。
「お主がワシをそこまで憎む理由を知りたい。お主の言うことは……はっきり言ってワシには理解できんことばかりじゃ。ルー=クルワッハ? お主が? デッドエンドアイ……それがお主の名前ではなかったのかのぅ?」
「……」
沈黙を保つ魔王の姿に、油断はせずに次なる行動を如何に取るべきか組み立てていく。幸いにも時間を稼ぐことが出来たことに安堵しつつ、それでも少しでも時間稼ぎをしようと更なる質問を浴びせていった。
「混沌……箱庭? 七つの天災じゃと? お主の最愛の友とは一体誰のことじゃ?」
また先程のように狂った殺意が燃え上がるかもしれないが、それでも今は一分一秒を稼ぐことが重要。そう考えて、デッドエンドアイの台詞から断片的にだが言葉を拾い出して問い掛ける。
「……お前に説明しても理解など出来るものか」
返答を期待できないと考えていただけに、デッドエンドアイの言葉は意外ともいえた。
いや、正しく言うならば彼女が反応したのは、最愛の友という部分だということにディーティニアは気づく。
「そうとも限らぬ。それに何故ワシが殺されるのか。憎まれるのか。せめて冥土の餞に聞かせて欲しいというのも当然じゃろう?」
「何度も言わせるな。お前にそれを語ったとしても理解できるものか」
操るのは燃え盛る煉獄の炎だというのに、表情には凍える冷たさを湛えている。
ディーティニアの台詞をあっさりと斬って捨てるデッドエンドアイではあったが―――突如として目を閉じ頭を何度か左右に振る。
「……いや、そうだな。お前の罪を想い出させる。それも悪くはないか」
目を開き、紫炎を消し去ると両腕を組む。
その瞳の冷たさに、身震いを一度。それは恐怖か、畏怖か。
「昔話をしてやる。遠い遠い、遥かなる過去の話だ。一人の男の物語。世界を救いながらも……混沌によって全てを狂わされた男の話だ」
デッドエンドアイは、深い深い溜息を吐く。
そこには絶望があった。そこには憎悪があった。そこには怨嗟があった。そこには後悔があり、無念があり、嫉妬があり―――永遠を生き、友の死を見続けた女の空虚があった。
▼
世界とは異なる異世界。
広大で巨大なその世界は、幻想大陸と似たような環境だった。巨大なドーナツ型の大陸の中央の海にポツンと存在した人類の楽園。そこに住まう人類は、外の世界のことなど知らずに生活していた。
人類など歯牙にもかけないとてつもない化け物達が大陸の外を闊歩していることを一部の人間しか知らなかった。
ある日突如としてその平穏は破られる。外世界の北部を支配下に置いている、魔狼達が人類の大陸に進撃を開始した。人類の大陸に住んでいる魔獣など比べ物にならない圧倒的な力を持つ魔狼によって瞬く間に国が潰されていったという。
そしてそこでようやく人類の上層部達は情報を開示し、連合を組んだ。当然反発はあったが、それでも生き残る為に各国は協力した。だが魔狼に対抗できる者などそうはおらず劣勢が続くなか、人類の救世主ともいえる存在が現れた。
最強の十人の魔導師と特異能者。彼らの手によって局所的には勝利をおさめることが出来たが、そもそもが数の桁が違う。徐々に押されていく人類は、起死回生の一手を取ることとなった。
唯一と言ってもいい、外大陸の様子を定期的に窺っていた竜人からの情報提供により、魔狼達を統べる存在が明らかとなった。その名を狼皇マーナガルム。外世界の北部の頂点。それを倒せば魔狼達の進撃も止まると予想された。雑魚を蹴散らすのではなく直接彼らの頭を殺りにいく電撃作戦。それを選ぶしかもはや人類に手段は残されていなかった。
選ばれた十人は、ひたすらに北を目指した。
何人たりとも突破できなかった広大な魔境の森を踏破し、外世界へと辿り着いた彼らは魔狼の襲撃を切り抜け、ついにマーナガルムらしき巨躯の魔狼を発見。死闘の末に撃破したらしい。そこに辿り着くまでに半分は脱落し、マーナガルムとの戦いでもう半分が散り、残ったのはただ一人。
だが、それで終わりではなかった。
何故ならば、倒したとそれは狼皇ではなかったのだから。死闘の末に撃破したのはただの配下でしかなかった。絶望が支配するなか、現れた本物のマーナガルムに立ち向かったのは残されたただ一人の男。人類最強の称号を冠する剣士。
結果は―――敗北。
如何に人類最強であってもマーナガルムの壁は厚く高かった。
そして、致命傷を受けもはや余命幾許もない男のもとに―――それはきた。
三千世界を渡り歩き、己の楽しみの為に全てを捻じ曲げる大邪神。
混沌と呼ばれる女が、男に可能性を見出した。興味を持ってしまった。
彼がもしも魔狼の襲撃を知っていたならば、マーナガルムの存在を知っていたならば―――打倒できる領域にまで登りつめる事ができるのではないか、と。ようするに混沌は見たかったのだ。人類など容易く駆逐されると考えていた自分の予想を覆した男の可能性を、彼の歩むであろう道の物語を一人の観客として楽しみたかったのだ。
新たな物語を見る為に混沌は、その男を過去へと送った。
正確に言うならば限りなく近い世界の過去とでもいうべきか。その世界へと送られた彼は、事実を受け止め世界を救おうと動き出す。
地獄の世界を潜り抜けた彼にとって、その世界の強者と呼ばれる存在など子供同然。圧倒的な力を持って、人類最強の座をほしいままにした。未来よりも遥かに強くなった彼ではあったが、それでも理解していた。自分ひとりの力ではどうあがいても外世界からの侵略を止める事は出来ない。それ故に彼は、数多の弟子を育て上げ、数多の強者を探し求めた。人の理を超えている力を持つ化け物達の不条理を覆すために、絶望の未来を切り開く為に。
そして時は過ぎ、外世界からの魔獣達の進撃は開始されたが、それは男と彼が育て上げた弟子たちと―――各国の協力によって押しとどめることに成功した。
北の支配者。狼皇マーナガルム
西の支配者。獅子帝テュポーン。
東の支配者。虎王トウコツ。
男とその弟子達はそれら全てを討伐することに成功する。
そして、大英雄である彼は―――龍祖ソラナキと呼ばれる存在との決戦後行方知れずとなった。
それで終われば良かった。
だが、混沌はそんなに甘い存在ではなく―――彼女は大層喜んだ。三獣王だけでなく、龍祖まで滅ぼした彼の可能性を面白がり、羨ましがり、慈しんだ。それ故に、混沌は男の魂を輪廻の流れに戻さずに、ある世界へと導いた。自身の遊び場である箱庭の世界へとな。
―――それが、この世界だ。
混沌の呪いでこの世界に生を受け、男は絶望に襲われた。
折角全てを終わらせたと思ったら、また新しい世界にいたんだ。それも当然だろう。
そして―――絶望を背負って生きたその男は、ある日一人の少女と魔女に出会った。その少女はとある大帝国の末席とはいえ、皇帝の血を引くが故に多くの者達に命を狙われていた。それでも輝く生き様を示す彼女にかつての弟子達と同じ魂の煌きを見た男は力を貸す事にした。
その世界は今のような人だけの世界ではなかった。人やエルフは当然として、その他の獣人族や竜人などといったハーフが当たり前のように存在した。魔族や魔獣、魔王や魔神。その他の神々すらも数多いた。少女の前には数多くの試練が立ち塞がった。普通では踏破できないような難局ばかりであったが男の助力を得た少女は全てを踏破しやがて時を経て、皇帝となる。その過程で徐々に少女は男に惹かれて行った。それも当然だろうな。少女にとって男はもっとも辛く苦しい時機に傍にいて、文字通り命をかけて自分をたすけてくれたのだから。惹かれるのが当然だ。愛するのが当然だ。
だが男は少女からの寵愛を受けつつも、魔女と愛を育むこととなった。それはかつての世界……前世にて愛した女の面影があったためだろう。やがて男と魔女の間には一人の赤子が産まれ―――そこから運命の歯車が狂い始めた。
混沌によって唆された女皇の嫉妬が原因となり、魔女は命を落とす結果となった。
愛する者を失った男の前に、混沌は現れ、こう告げた。男のように遥かなる時を超えて魔女もまた転生する時が来るかもしれない、と。自分のように生まれ変わることがあるならば、とそれを信じて男は娘とともに長きに渡る時を放浪することとなった。竜族の王の一体を倒し血を浴びた男は不老となっており、可能性があるならばどれだけの時でも生き抜こうという確固たる信念があった。
―――数百年の時を経て、ようやく二人は巡りあう。
そこが男にとっての終着点。
生まれ変わった魔女は記憶など残っていなかったのだ。
それでも男にとってはそれでも十分だったんだ。ともに過ごせることが出来るだけで満足だった。
だが、男は死んだ。殺された。
数多の邪神を打倒し、屠り―――守ったはずの街の人間たちによって殺された。
しかし、男は満足して逝ったんだ。
愛する女を今度は守れることが出来たと喜んで。
そこで魔女は間違えた。ああ、お前が間違えたんだよ、ディーティニア。
お前がそこで願わなければ。お前がそこで請わなければ。お前がそこで彼の死を受け入れていれば。こんな地獄すら生温い輪廻の世界に取り込まれなかったはずなんだ。
一体何度繰り返したことか。一体何度彼の死を見たことか。一体何度この無力な身を呪ったことか。
我ら七つの天災。
全てを為すもの。不滅の到達者。氷結女帝。地を揺らすもの。金毛九尾。創世の竜女王。
そして―――火雷の魔女
それは神殺しを支える者達。それは神殺しに支えられる者達。それは神殺しを殺した人類を憎む者達。それは神殺しを見捨てた世界を呪う者達。それは神殺しを傷つける者を許さぬ者達。それは神殺しと敵対する者を滅ぼす者達。それは神殺しを世界よりも愛する者達
ここまで言ったらもうわかるだろう?
それは、それはなぁ。それはつまり……ディーティニア。お前を誰よりも憎悪し、殺したいと願っている者達だ。
創世の竜女王>>我は別にそこまで魔女のことは嫌いじゃないが。でもとりあえず殺すとしようか。
金毛九尾>>昔馴染みだからさぁ。嫌いじゃないよぉ。でも、会ったら殺そうかな。
地を揺らすもの>>魔女?それよりお腹がすきました!キョウ様ご飯に行きましょう!あ、やっぱりその前に魔女殺していいですか?
不滅の到達者>>ふーん。別にどうでもいいかな。興味はないけどさ……サクっと殺しとこうかな。
全てを為すもの>>絶対に殺す。何があっても殺す。
火雷の魔女>>……昔世話になったよね。でも会ったら殺すよ、ディーテ。
氷結女帝>>……はぁ。ディーテのことより私の学園の生徒達をどうにかして下さい。
結論。ディーティニアに優しいの女帝さんだけ。
今回で物語の内容で満足できるとこまでかけてしまいました。がくっ。




