姫と現実と私
姫と現実と私
ホテルのラウンジ。暖かな日差しの中、友人と私はお茶をしていた。優雅というより、完全な現実逃避だと思っていただいて構わない。
私がゆっくりお茶を飲むと、友人の有子が急に言いだした。
「あたし、白雪姫って嫌いなんだよね。」
「なによ、突然。」
私は目を丸くした。
「この間、姪につきあわされてテレビで見ていたんだけど、綺麗、美人ってだけで、寝ているだけで王子がやってくるなんて、ずるいわ。」
「寝てるだけって……。何回も殺されかけるのに?」
「でも助かるじゃないの!美人だから。」
「まぁ、美人かどうかは別としても、主人公が死んだら元も子もないしね。」
「まぁね。」
「王子様が迎えにやってくる、それがいつの時代でも女の子の夢ってもんでしょ。それに、何だっけ?小人?の世話ができるんだから、掃除や家事もできる設定でしょ。そんなこと言ったら、眠れる森の美女も一緒じゃないの。」
有子はケーキをざっくりと刺した。
「あれは目覚めるまでに年数があるからいいの。ジェネーションギャップに起きてから苦労しそうだし。」
「つまり、苦労があればいいわけだ。」
私は、苦笑いをするしかない。
「美女と野獣はね、野獣を愛することができる姫に感動するから良いのよ。人魚姫は基本手には悲劇だから別よ。」
有子の持論はまだまだ続く。
「シンデレラとか今の時代にいたら楽だよね。」
有子はまだ話を続けた。
「なんで?」
「継母とかお姉さま方に苛められてもさ、自動掃除機はあるし、洗濯機はあるし、ミシンはあるし食器洗い機はあるし。ほら、姫だしお金はあるでしょ。」
自分で言って、自分でうなづいている。私は、ちょっと考えた。
「うん、お金はあると思うけど……。いやいやいや、ドレスとか洗濯機は無理でしょ。シルクとかレースとか。それこそクリーニングの機械とか技術とかないと。自動掃除機は城の広さに途中で電気がなくなって行き倒れるだろうし。階段も多そうだしね。自動じゃないにしても、コードレスじゃないと大変でしょ。」
私は、ちょっとお茶を飲んだ。
「ミシンはあっても裁縫はできたほうがいいだろうし。食器洗い機で洗いのこしなんかあったら、機械ごと継母に壊されるよ。庭も広そうだから、草むしりとか機械でも大変だよ。ほかにも馬の世話とかしようものなら、近隣から苦情とか来そうだし。城でも、税金とかガッツリ持って行かれそうじゃない?」
有子はじっと私を見た。
「なに?」
「シンデレラの現在だけで税金まで考える?」
「いや、有子が現代に来たらって言うからさ。楽な姫って……竹取物語くらい?」
私はケーキをほおばった。有子の紅茶を持つ手が止まった。しばらく考えて。
「日本の話?」
「かぐや姫よ!」
「ああ!……そうかぁ、美貌で貢がせて、最終的にはドロンだもんねぇ。やっぱり美人は得よねぇ……。」
「最終結論はそこ!?」
「そこよ!この間来た家庭科の先生、綺麗なのよー。若いし!国語の先生も算数の先生もにこにこしてるのよー。」
ちなみに有子は理科を教えている。数学ではなく、算数の先生なのは小学校だからだ。どうやら、童話がどうのこうのということではなく、美人が得だという話をしたかったようだ。
「別に姫は関係ないじゃん!」
「でも美人なの!もーさー、綺麗で若くって家庭科って何?」
「何って言われても……。」
「あたしと同じ白衣でも保健室の先生の方が人気はあるし。」
「小学生に?」
私は目を丸くした。
「可愛いおばあちゃんみたいな人なんだもん。昔は絶対に美人よ。」
「いや、だから美人でも年をとるし。」
「美人じゃなくても、年はとるのよ!もー。」
有子はそういって残りのケーキを刺した。
美人と一言にまとめても、時代によっても国によっても違うだろうし、王子側の好みもあるだろう。ようするに、有子が気にしているのは、国語の先生王子だけだ。私はため息をついた。