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Genuin  作者: 麻友里
6/7

confution


部屋に着き、私たちは離れて座った。


最初に彼が口を開いた。


「・・樹里・・・元気だった?家族は元気?」

「・・・」

「・・・ずっと電話したんだ。メールも送った。でもキミからは返事がなかった・・。」

「・・・」


お互いに黙ったまま時間が過ぎていく。

遠くで子供の泣く声と自動車の低い音が聞こえてくる。


彼はあの女性と2.3度関係を持ったという。



友人の紹介で知り合って、1年ほど前から友達だったが、ある日、彼女が仕事で落ち込んだ日、

彼女のうちを尋ねると、彼女のほうからそういう関係をはじめた。


でも彼はあの女性に対して、一度も恋愛感情をもったことはなかったという。

向うもそういう感情を見せなかった。


だからただ、「enjoy」したかっただけだと思ったから、自分もそうした。


軽率だった・・・。



でも、私と出会ってからあの女性との関係を続ける事はできなかった。

そうすればするほど、向かうは引きとめようとした。


そして、私に愛を伝える前、すでに関係は終わっていた。



そんな、都合のいい話をなんども聞いた。


頭の中で、彼が、薄情な、最低な男だと思った。

結局、自分の欲しいものだけ手に入れて、それでどれだけ関わった人が悲しんだり

傷ついているか、わかっていない。


実際、彼が愛しているという、私もどれだけ傷ついているかなんて、

わかっていない気がした。



「・・・だから僕は、諦めようとした・・何度も何度も自分の過去を悔やんだ。」


「・・・・」


「僕は・・樹里を傷つけた・・そして信頼を裏切った・・・。樹里は僕のことを嫌いになったよね。」


「・・・」


「だから僕は自分を責めて、樹里が望むように諦めるよう努力した・・受け入れようとした・・・でもダメだった・・・どうしてもだめなんだ・・」



うつむいてこぶしを両手で握り締めながら彼は自分の頭をたたく。



「sorry・・sorry ・・。」




何度もごめんと呟く彼を見ていると私も苦しくなって、声を上げて泣いた。


わからない・・・わからない・・・

私はただ彼を好きになって、少し特殊な環境で愛を育てた。


旗からみたら、おかしな関係だということも理解している。

二人の感じている「何か」が、愛だと言えば笑われてしまうだろう。


実際、私にもわからない。

「何か」は、今までに感じたことのない、初めてのもので、愛や恋や、そんなものより

はるかに根強く私の中に存在している。



・・・運命・・?


ばかばかしい・・?


私は泣きながらも頭の片隅で、この男との間に存在するものについて

なんとか答えを見出そうとしていた。


::::::::::::::::



ようやく落ち着いてきた私は訥々と、彼に言いたかったことを話し始めた。


「あなたをせめてはいない・・・」


「・・・じゃあ何故」


「だけど、信じる事が出来ない自分が嫌なの・・嫌いとか、許せないとか・・そいうのじゃなくって・・あなたをこれから信じる事が出来ない自分が嫌なの・・」


「信じなくてもいい・・樹里が信じたくなったら信じればいい・・」


「・・・信じたくなるかなんてわからない・・なにもかも、わからないの・・」


「・・僕が何度、愛していると君に伝えても、信じなくてもいい。でも僕は自分を信じている。だから僕は樹里を愛する」


「・・・わからない」


「樹里・・わからなくてもいい、友達だと思ってもいい。でも、僕のことを嫌いにならないでくれ。樹里の声が聞けなくなって、気が狂いそうだった・・」



悲しみに浸りながらも、彼の言葉は私を喜ばせ続けた。


わかってる・・・

わかってる・・・


私もそうだよ・・



でも、その反面、余計に不信感も募っていった。


毎回こんなことをやっているのかもしれない・・

そして結局、私を手に入れたら、いつかはあの女性のように、

いつかは奥さんのように・・・


捨てられる・・・?



ただ、ただ、この先が何も見えない。



目の前にいるこの男を疑いながらもひとつだけ、はっきりしていることがある。


私は彼が欲しい。



「・・・でも・・あなたには奥さんも息子もいる・・」


「・・わかってる・・樹里の言いたいことはわかってる・・信じてくれなくてもいい・・でも僕はやり遂げる。」


私たちの気持ちの答えは見つからないまま、ただ時間が過ぎた。


茶番劇の一幕かと思うほど、滑稽な会話だった。


実際、どれだけ彼が私を愛していると言ったところで、彼を信じる事はできないだろう。


でも彼の言うように自分の心は信じられる。


私は彼を愛している。

この先、いつか、もっともっと悲しい現実があるかもしれない。


それでも、私が彼を愛しているのなら、愛すればいい・・そう思った。

どんな形であれ、彼を愛せるだけ、愛したいとおもった。



シンプルなことだった。




そして私は確信した。


私たちには答えなど存在しないと言う事・・


ただ、現実があるだけで、二人の気持ちが同じ方向を向いている間は、そのままでいいのではないか・・


辛い悲しい事、嬉しい幸せな事、どれも二人の気持ちが寄り添って同じ方向に進むのなら、

その流れに流されていくほうが、我慢して、離れて苦しみもがくより耐えられると思った。




私はながい沈黙を破った


「・・・ねぇ・・私はあなたを愛するよ」



そういって、彼の横に座り、首に両手をまわした。



二人で長い間、ハグをした。



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