confution
部屋に着き、私たちは離れて座った。
最初に彼が口を開いた。
「・・樹里・・・元気だった?家族は元気?」
「・・・」
「・・・ずっと電話したんだ。メールも送った。でもキミからは返事がなかった・・。」
「・・・」
お互いに黙ったまま時間が過ぎていく。
遠くで子供の泣く声と自動車の低い音が聞こえてくる。
彼はあの女性と2.3度関係を持ったという。
友人の紹介で知り合って、1年ほど前から友達だったが、ある日、彼女が仕事で落ち込んだ日、
彼女のうちを尋ねると、彼女のほうからそういう関係をはじめた。
でも彼はあの女性に対して、一度も恋愛感情をもったことはなかったという。
向うもそういう感情を見せなかった。
だからただ、「enjoy」したかっただけだと思ったから、自分もそうした。
軽率だった・・・。
でも、私と出会ってからあの女性との関係を続ける事はできなかった。
そうすればするほど、向かうは引きとめようとした。
そして、私に愛を伝える前、すでに関係は終わっていた。
そんな、都合のいい話をなんども聞いた。
頭の中で、彼が、薄情な、最低な男だと思った。
結局、自分の欲しいものだけ手に入れて、それでどれだけ関わった人が悲しんだり
傷ついているか、わかっていない。
実際、彼が愛しているという、私もどれだけ傷ついているかなんて、
わかっていない気がした。
「・・・だから僕は、諦めようとした・・何度も何度も自分の過去を悔やんだ。」
「・・・・」
「僕は・・樹里を傷つけた・・そして信頼を裏切った・・・。樹里は僕のことを嫌いになったよね。」
「・・・」
「だから僕は自分を責めて、樹里が望むように諦めるよう努力した・・受け入れようとした・・・でもダメだった・・・どうしてもだめなんだ・・」
うつむいてこぶしを両手で握り締めながら彼は自分の頭をたたく。
「sorry・・sorry ・・。」
何度もごめんと呟く彼を見ていると私も苦しくなって、声を上げて泣いた。
わからない・・・わからない・・・
私はただ彼を好きになって、少し特殊な環境で愛を育てた。
旗からみたら、おかしな関係だということも理解している。
二人の感じている「何か」が、愛だと言えば笑われてしまうだろう。
実際、私にもわからない。
「何か」は、今までに感じたことのない、初めてのもので、愛や恋や、そんなものより
はるかに根強く私の中に存在している。
・・・運命・・?
ばかばかしい・・?
私は泣きながらも頭の片隅で、この男との間に存在するものについて
なんとか答えを見出そうとしていた。
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ようやく落ち着いてきた私は訥々と、彼に言いたかったことを話し始めた。
「あなたをせめてはいない・・・」
「・・・じゃあ何故」
「だけど、信じる事が出来ない自分が嫌なの・・嫌いとか、許せないとか・・そいうのじゃなくって・・あなたをこれから信じる事が出来ない自分が嫌なの・・」
「信じなくてもいい・・樹里が信じたくなったら信じればいい・・」
「・・・信じたくなるかなんてわからない・・なにもかも、わからないの・・」
「・・僕が何度、愛していると君に伝えても、信じなくてもいい。でも僕は自分を信じている。だから僕は樹里を愛する」
「・・・わからない」
「樹里・・わからなくてもいい、友達だと思ってもいい。でも、僕のことを嫌いにならないでくれ。樹里の声が聞けなくなって、気が狂いそうだった・・」
悲しみに浸りながらも、彼の言葉は私を喜ばせ続けた。
わかってる・・・
わかってる・・・
私もそうだよ・・
でも、その反面、余計に不信感も募っていった。
毎回こんなことをやっているのかもしれない・・
そして結局、私を手に入れたら、いつかはあの女性のように、
いつかは奥さんのように・・・
捨てられる・・・?
ただ、ただ、この先が何も見えない。
目の前にいるこの男を疑いながらもひとつだけ、はっきりしていることがある。
私は彼が欲しい。
「・・・でも・・あなたには奥さんも息子もいる・・」
「・・わかってる・・樹里の言いたいことはわかってる・・信じてくれなくてもいい・・でも僕はやり遂げる。」
私たちの気持ちの答えは見つからないまま、ただ時間が過ぎた。
茶番劇の一幕かと思うほど、滑稽な会話だった。
実際、どれだけ彼が私を愛していると言ったところで、彼を信じる事はできないだろう。
でも彼の言うように自分の心は信じられる。
私は彼を愛している。
この先、いつか、もっともっと悲しい現実があるかもしれない。
それでも、私が彼を愛しているのなら、愛すればいい・・そう思った。
どんな形であれ、彼を愛せるだけ、愛したいとおもった。
シンプルなことだった。
そして私は確信した。
私たちには答えなど存在しないと言う事・・
ただ、現実があるだけで、二人の気持ちが同じ方向を向いている間は、そのままでいいのではないか・・
辛い悲しい事、嬉しい幸せな事、どれも二人の気持ちが寄り添って同じ方向に進むのなら、
その流れに流されていくほうが、我慢して、離れて苦しみもがくより耐えられると思った。
私はながい沈黙を破った
「・・・ねぇ・・私はあなたを愛するよ」
そういって、彼の横に座り、首に両手をまわした。
二人で長い間、ハグをした。