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制度で殴る事務官シリーズ

婚約破棄を手続きで処理した事務官の妻は、今日も強かった

作者: たまみつね
掲載日:2026/04/27

本作は「制度で殴る事務官」シリーズの外伝です。

本編を読んでいなくてもお楽しみいただけますが、ぜひ本編を先に読むことをオススメします。


今回は、主人公を支える“妻視点”の短編集となります。

表には出ないけれど、確かにそこにある一手と、静かな日常をお楽しみください。

「……遅い」


扉の前で、私は腕を組んでいた。

時計の針は、もうとっくに日付を跨いでいる。


分かっている。

今日もまた、あの人は帰ってこない。

仕事だから。

大事な仕事だから。


――それでも。

「遅いものは遅い」


小さく呟いて、息を吐く。

テーブルの上には、冷めかけた夕食。

何度も温め直して、三回目でやめた。

それ以上やると、味が死ぬ。


「……あの人みたいに」


ふっと、苦笑する。

そのとき、鍵の回る音がした。


「ただいま」


少しだけ遠慮がちな声。

私は間を置いてから返す。


「……遅い」


扉が開く。

立っていたのは――



干からびた何かだった。

「……誰?」



「夫です」

「嘘でしょ」


靴も脱ぎきらないまま、その場に崩れ落ちる。

私はため息をついて近づいた。


「生きてる?」

「たぶん」

「たぶんって何」


顔を覗き込む。

ひどい顔だ。

けれど、どこかやりきった顔でもある。


「何やってたの」

「王太子を処理してた」

「そう」


頷く。

それ以上は聞かない。

聞いても、どうせ長くなる。


「ご飯、食べる?」

「食べる……」


よし、まだ人間だ。

私は立ち上がり、火を入れ直す。


「ちゃんと終わったの?」


背中越しに聞くと、少しの沈黙のあと。

「……終わった」

その一言で、十分だった。


「ならいい」


鍋をかき混ぜながら言う。

「仕事をちゃんと終わらせて帰ってくるなら、それでいい」


後ろで、かすかに笑う気配。


「怒らないのか」

「怒ってるわよ」


振り返らずに答える。

「遅いし、連絡ないし、体ボロボロだし」

一拍。

「でも」

火を弱める。


「中途半端で帰ってくるより、ずっといい」


皿に盛り付け、差し出す。

彼は少し驚いた顔をした。


「……温かい」

「さっき温めたからね」

「そうじゃなくて」

「何が」


「……なんでもない」


変な人だ。

私は頬杖をついて、食べる様子を眺める。


「ねえ」

「ん?」

「その“王太子を処理した”ってやつ」


彼の手が止まる。


「ちゃんと、誰も損してない?」


少しだけ、真面目な声。

彼は考えてから言った。


「……全員、相応のものは背負った」

「そう」


私は頷く。


「なら、あなたの仕事は正しい」


彼が、ほんの少し目を見開く。

「そんな簡単に言うな」

「簡単よ」


肩をすくめる。

「だってあなた、楽な方選ばないでしょ」


沈黙のあと、小さく笑う。

「選ばないな」

「でしょ」


それでいい。


難しいことは分からない。

でも、この人がどっちを選ぶかは分かる。


――食事が終わる頃。

彼は少しだけ顔色を取り戻していた。


「……そういえば」

ぽつりと言う。


「差し入れが来た」

「差し入れ?」

「公爵家から」

「何したの?」

「王太子を処理した」

「それさっき聞いた」


少し笑う。

「あと、転職の誘いも」

「へえ」


私は興味深く聞く。

「行くの?」

「行かない」


即答だった。

「なんで?」

「今抜けたら困る」

「誰が?」

「俺が」

「あなたが?」

「後処理が終わらない」

「……ああ」


納得する。

この人はそういう人だ。

私は食器を下げながら言う。


「ねえ」

「ん?」

「行きたくなったら、行っていいよ」


少しの沈黙。

「……いいのか」

「いいよ」


水を流しながら答える。

「ちゃんと終わらせてからなら」

一拍。

「どこに行っても、やること同じでしょ」

「……まあな」


振り返る。

「ただし」

指を一本立てる。


「ちゃんと帰ってくること」


彼は少し考えてから答えた。

「……努力する」

「“する”でいいの」

「はい」


その返事に頷く。

「じゃあ寝なさい」

「もう限界だ……」


そのまま倒れ込む。

本当にダメな人だ。

毛布をかけながら、小さく呟く。


「……お疲れさま」


返事はない。もう寝ている。




静かになった部屋。

私は机の上の書類に目を向けた。

何気なく、一枚手に取る。

目を走らせる。


「……雑ね」


思わず漏れる。

構造はいい。

判断も早い。


けれど――


「詰めが甘い」


指で軽く、行間をなぞる。

制度の抜け道。

貴族院の通し方。

王の意図。


全部、読める。

全部、見える。


「……この人、やりすぎ」


小さく笑う。

そして、ぽつりと呟いた。


「制度ってね――」


誰もいない部屋で。

「人を守るためにあるんじゃないの」


一拍。

「壊れた後でも、崩れないようにするためにあるの」


紙を置く。

視線を、眠っている彼へ向ける。


「……似てる」

ぽつり。

「壊れるまでやるところ」


昔を思い出す。

同じように、終わらせるまで止まらなかった日々。

だから、辞めた。


「この人は――」


静かに息を吐く。

「壊れる前に止まらない」


毛布を、もう一度整える。

「だから」


小さく、優しく。

「止まれる場所くらいは必要でしょ」


◇◆◇◆◇◆


翌朝。


彼が出ていった後。

静かな家に、来客の音が響いた。


「――お久しぶりです、監査官殿」


振り向く。

見覚えのある男。


「その呼び方、やめて」

「では、“元”監査官殿」

「それもやめて」


ため息をつく。

「で、何?」


男は淡々と言う。

「今回の件、陛下がご興味を」

「断る」


即答。

「即答ですね」

「もう現場には戻らないって決めたの」


窓の外を見る。

朝の光が、柔らかく差し込んでいる。


「今は」

少しだけ笑う。

「ただの主婦よ」


◇◆◇◆◇◆


その日の夜。


「ただいま」

「遅い」


いつも通り。

彼が靴を脱ぎながら言う。


「今日、王宮が妙にざわついてた」

「へえ」

「監査がどうとか」

「そう」


興味なさそうに返す。

そして、いつものように言う。


「ご飯できてるよ」


彼は気づかない。

――隣にいるのが、もっと厄介な側の人間だということに。



そして私は思う。

この人が、また壊れる日が来たら。


そのときは――

「……まあ」


小さく息を吐く。

「その前に止めるけど」


誰にも聞こえない声で、そう呟いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


王宮事務局。

「……無理だな」


アルトは書類を机に落とした。

同僚が顔を上げる。


「珍しいな、お前が詰まるの」

「詰まるよ」


アルトは額を押さえる。

「今回の案件、制度的に詰められない」


机の上には一枚の報告書。

『南方大運河整備計画』

莫大な予算。

複数の貴族が関与。

そして――


「全部合法」

アルトが吐き捨てる。

「抜け道を全部踏んでる」

「でも黒なんだろ?」

「ああ、真っ黒だ」


だが証明できない。

制度の外ではなく、制度の中で腐っている。


「……どうする」


同僚が低く聞く。

アルトは答えない。

答えられない。


「時間もない。明日、貴族院だ」


沈黙。

アルトは椅子にもたれた。


「……クソ」


その一言に、全てが詰まっていた。


◇◆◇◆◇


その夜。


「ただいま」

「遅い」


いつも通りの声。

だが、今日は少しだけ違う。

アルトは椅子に座るなり、動かなかった。


「ご飯」

「……あとで」


珍しい。

私は少しだけ眉を上げる。


「何」

「……詰んだ」


短い言葉。

それで十分だった。

私は何も言わず、向かいに座る。


「話して」


彼はゆっくりと説明した。

制度の穴。

合法の皮をかぶった不正。

どうやっても止められない構造。

全部、聞いた。

全部、理解した。


「……なるほど」


私は一言だけ言う。

アルトが顔を上げる。


「何かあるか」

「ある」


即答。

「でも」

指を一本立てる。

「一つだけ」


アルトは黙る。

それがどういう意味か、分かっている顔だ。


「……聞かせてくれ」

私は少しだけ考えてから言う。

「今回の計画、通る前提で組んでるでしょ」

「ああ」

「なら、止めるんじゃなくて」


一拍。

「成立した瞬間に崩す」


アルトの目が細くなる。

「……どうやって」


私は軽く言った。

「監査条項、見た?」

「見た」

「読み込んだ?」

「当然だ」

「じゃあ、その“例外規定”は?」


沈黙。

アルトが、固まる。

「……例外?」


私は頷く。

「“緊急性が認められる場合、事後監査を簡略化できる”ってやつ」


アルトの脳が高速で回り始める。

「……それが?」

「逆よ」


私は静かに言う。

「その条件、満たさせなければいい」


一瞬の静寂。

「……は?」


アルトが聞き返す。

私は続ける。

「今の計画、“緊急性”を理由に簡略化してるでしょ」

「ああ」

「じゃあ、それを否定する材料を一つだけ入れる」

「……どこに」

「別の部署」


アルトの目が見開かれる。

「……まさか」


私は肩をすくめる。

「気象記録」


一拍。

「“今年は水量が安定しているため緊急性は認められない”」


沈黙。

アルトの思考が、繋がる。

「……緊急性が否定されれば」

「簡略監査が使えない」

「フル監査になる」

「そう」


アルトが立ち上がる。

「フル監査になれば――」

「全部、出る」

私は静かに言う。

「合法だったものが、“検査に耐えられなくなる”」


長い沈黙。

そして。

アルトが、ゆっくりと笑った。


「……一手でいいのか」

「一手でいい」


私はあっさり答える。

「無理に全部壊そうとするから詰むの」


一拍。

「支点をずらせば、勝手に崩れる」


アルトは深く息を吐いた。

「……助かった」

「どういたしまして」


私は立ち上がる。

「ご飯食べる?」

「食べる」


今度は迷いがなかった。


◇◆◇◆◇◆


翌日。

貴族院。

「本計画は、緊急性を理由に簡略監査を適用――」


議員の声を遮るように、別の声が入る。

「異議あり」


静まり返る場。

提示されたのは、たった一枚の書類。

気象局報告書。

「当該年度、水量は安定。緊急性の根拠は不十分」


ざわめき。

「よって、本案件はフル監査対象とすべきである」


沈黙。

そして。

誰かが、小さく呟いた。


「……終わったな」


◇◆◇◆◇◆


数日後。

関係貴族、全員失脚。

計画は白紙。


王宮事務局。

「……何したんだお前」

同僚が呆然と聞く。

アルトは淡々と答える。


「何も」

「嘘つけ」

「本当に何もしてない」


一拍。

「一つ、条件を整えただけだ」


同僚が頭を抱える。

「それで全部ひっくり返るか普通」


アルトは肩をすくめる。

「制度ってそういうもんだ」


◇◆◇◆◇◆


その夜。


「ただいま」

「遅い」


いつも通り。

アルトは靴を脱ぎながら言う。


「終わった」

「そう」

私は頷く。

「うまくいった?」

「ああ」


少しだけ間を置いて。

「……ありがとう」


私は首を傾げる。

「何が?」

「いや」


アルトは少しだけ笑う。

「気のせいだ」

「そう」


それ以上は聞かない。

ただ一言。

「ご飯できてるよ」


アルトは席に着く。

何も知らない顔で。

――本当に、何も知らないまま。

私は思う。


「一手で足りる」


それでいい。

全部を動かす必要はない。

動く場所だけ、間違えなければ。


「……まあ」

小さく呟く。

「たまにでいいけど」


そうして私は、いつも通りに戻る。


ただの――

帰りを待つ人として。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ただいま」

「遅い」

「今日は早い方だ」

「昨日も同じこと言ってた」


いつものやり取り。

靴を脱いで、肩の力を抜く。


「……終わった?」

「一応」


アルトは椅子に座り、深く息を吐いた。

私は湯気の立つ皿を置く。


「はい」

「ありがとう」


しばらく、静かに食べる音だけが続く。

――こういう時間が、一番落ち着く。


ふと、思い出したように聞く。

「ねえ」

「ん?」

「定時退庁権」


アルトの手が止まる。

「……ああ」


遠い目になった。


「どうなったの」

「存在はしてる」

「使ってる?」

「……」


沈黙。

私はじっと見る。

「使ってないんだ」

「使えないんだ」


即答だった。

「どう違うの」

「空気」

「空気で権利が死ぬの?」

「死ぬ」


真顔。

私は小さく笑った。

「もったいない」

「もったいないな」


アルトも苦笑する。

「でもな」


少しだけ真面目な声になる。

「今抜けると、後で自分が困る」

「ああ」


すぐに理解する。

「未来の自分に押し付けるタイプね」

「そうとも言う」


私は肩をすくめる。

「じゃあ仕方ない」

「仕方ない」


一拍。

「……まあ」


私は箸を置く。

「その分、ここではちゃんと休みなさい」


アルトが少しだけ目を細める。


「努力する」

「“する”でいいの」

「はい」


同じやり取り。

少しだけ笑う。


食事を終えて、片付ける。

アルトは椅子にもたれて、ぼんやり天井を見ている。


「……なあ」

「ん?」

「俺、ちゃんと帰れてるか」


少しだけ弱い声。

私は手を止める。

そして、振り返る。


「帰ってきてるでしょ」

当たり前のように言う。

「ここに」


アルトは少し黙って、それから小さく笑った。

「……そうだな」


私は近づいて、軽く肩に手を置く。

「だからいいの」

一拍。

「定時じゃなくても」


少しだけ顔を寄せる。

「ちゃんと帰ってくるなら」


アルトがこちらを見る。

ほんの少し、距離が近い。


「……それは」

言いかけて、止まる。

私はそのまま、軽く額をぶつける。


「なに」

「いや」


少しだけ照れたように笑う。

「十分だと思って」

「でしょ」


そのまま、ほんの一瞬だけ。

軽く、触れるだけの距離。

長くは続かない。

続けると、この人はそのまま寝る。


「ほら」

私は離れて言う。

「寝なさい」

「うん……」


素直に立ち上がる。

本当に限界らしい。


寝室に向かう背中を見ながら、ふと思う。

「……まあ」


小さく息を吐く。

「定時じゃなくてもいいか」


どうせ――

この人は、ちゃんと戻ってくる。


それだけで、十分だ。


灯りを落とす。

静かな部屋。


「おやすみ」


小さく呟く。

返事はない。

もう寝ている。


私は少しだけ笑って、隣に入った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

朝。

「……何してるの」


玄関で、私は腕を組んでいた。

靴を履こうとしている背中に、声をかける。


「仕事」

即答。


「今日は?」

「休み」

「じゃあ何してるの」

「仕事」


私は一拍置いた。

「靴、ないよ」


ぴたり、と動きが止まる。

「……は?」

「片方、干してる」

「なんで」

「昨日濡れたから」


沈黙。

「……じゃあ別の靴を」

「それもない」

「なんで」

「磨いてる」

「なんで」

「昨日汚れたから」


沈黙。

アルトがゆっくり振り返る。


「……行けないな」

「行けないね」


私は頷く。

しばらく見つめ合って――

アルトは観念したように肩を落とした。


「……どうする」

「じゃあ今日は」

私は軽く言う。

「別の仕事しよ」

「別の?」

「生活」


◇◆◇◆◇◆


市場は、朝から賑わっていた。


「……人、多いな」

アルトが周囲を見回す。


「みんな仕事してるんじゃないのか」

「してるよ」

私は野菜を手に取る。

「これが仕事」


アルトは少し考えてから言った。

「……なるほど」

分かっていない顔だった。 


「これ、いくらだ」

「値札見て」

「交渉は」

「いらない」

「そうか……」


少しだけ残念そうだ。

「癖?」

「仕事でな」

「ここは違うから」

「……難しいな」


私は小さく笑った。


◇◆◇◆◇◆


昼前。

家に戻ると、アルトは少しだけ疲れた顔をしていた。


「……疲れた」

「歩いただけでしょ」

「歩いたな」


椅子に座って、ぼんやりしている。


「次は?」

「洗濯」

「仕事か」

「仕事」


真顔で言うと、アルトは少しだけ笑った。


◇◆◇◆◇◆


洗濯物を干しながら、ふと空を見る。

風が、穏やかに吹いていた。


「……静かだな」

後ろから声がする。


「うん」

私は頷く。


「何も起きない」

アルトがぽつりと言った。

その言葉に、私は少しだけ手を止める。

「休みだからね」


一拍。

アルトは何も言わない。

ただ、空を見ている。


「……変だな」

「何が」

「何も起きないと、落ち着かない」


私は少し考えてから言う。

「それ、慣れすぎ」

「そうか」

「そう」


洗濯物を一つ、留める。

そして、静かに言った。

「何も起きない日ってね」


アルトがこちらを見る。

「ちゃんと守られてる日なの」


風が、少しだけ強く吹いた。

アルトはしばらく黙って――

「……そうか」


小さく呟いた。


◇◆◇◆◇◆


午後。

結局、何も起きなかった。


書類も来ない。

呼び出しもない。

誰も困っていない。


ただ、時間だけが過ぎていく。

アルトは途中で昼寝をしていた。


珍しい。

私はその様子を見ながら、少しだけ思う。


(やればできるじゃない)


◇◆◇◆◇


夕方。


「……悪くなかった」


ぽつり、とアルトが言う。

窓の外は、少し赤くなっている。


「でしょ」

私は軽く返す。


「でも」

アルトは少しだけ考えてから言った。

「毎日は無理だな」

「知ってる」


即答。

一拍。

「たまにでいいよ」

「……たまになら」


頷く。

それで十分だ。


◇◆◇◆◇◆


夜。

食事のあと、アルトはいつもより少しだけ早く立ち上がった。


「寝る」

「早いね」

「今日は、なんか……眠い」

「健康的でいいじゃない」


アルトは少しだけ笑って、部屋に入っていく。

私はその背中を見送る。

静かな家。

何も起きない一日。


「……まあ」

小さく息を吐く。

「たまにはいいか」


灯りを落とす。

そして、ゆっくりと後を追った。



布団に入ると、アルトはもう半分眠っていた。

「……なあ」

「ん?」

「またやるか」


少しだけ考えてから、私は答える。

「靴、ちゃんと用意しとくね」


アルトが小さく笑う。

「……それは困る」

「でしょ」


少しだけ距離が近い。

そのまま、何も言わずに目を閉じる。

外は静かだ。


何も起きない。


でも――


それでいい。

今日は、ちゃんと守られていた日だから。


「おやすみ」

小さく呟く。

「……おやすみ」

かすかな返事。


そのまま、静かに眠りに落ちた。

読了ありがとうございました。

この視点が読みたい、とかあれば感想欄で教えてください。

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― 新着の感想 ―
奥様最高! 楽しさだけでなく心の奥にほわっとなにか灯るような… 「よし、まだ人間だ」と「…温かい」が個人的にすごくぐっときました 機会があれは是非、別視点も読んでみたです ありがとうございました
このシリーズまだ2つしか読んでませんが、出来たら連載を希望します。
⋯奥さま強し(笑)!
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