6話
主人公視点に戻ります。
何かの拍子で寝てしまい、しばらく時間が経って目が覚めたときの感覚を覚えている人はいるだろうか。
例えば高校生を謳歌していたあの時期、数学の授業を受けていた。あの頃は部活なり、体育なり、はたまた少し家から遠い学校に登校することなどが疲労の要因となるもので、その疲労というものは日々の睡眠では解消しきれないものであった。
授業中、こちらとしては授業を受けようと必死に目を開けようと努力していた記憶がある。でも、瞼は俺の意思よりも脳から出される休息の命令を優先させた。その結果、意識が朦朧としていた中、こちらとしては目をなんとか開けているつもりでも、はたから見たら授業中に寝ている高校生が完成するのである。
起きていて、目をつぶっている意識はあるものの、事実上目をつぶっている。そのため、先生が近づいてきて、黒板に書くために使うはずの、でかいコンパスを俺の頭の上で振り上げたことは、俺の頭に衝撃が来るまで気づかなかった。
あの大きなコンパスで叩かれた直後、一瞬思考がフリーズするが、自分が寝ていたことを思い出させてくれる。そのとき、大人が飲み会でお酒を浴びるように飲んだ結果、次の朝何も覚えていないなんていうような、はてさて今何をしていたんだっけな、と記憶が飛ぶことはない。
ああ、俺は今寝ていたんだな。案外起きた直後でも理解できる。そしていまどういう状況にいるかも案外すぐに分かるものだ。授業中は同じ場所、同じ姿勢、そしてお馴染みの面子で過ごすためだろう。これらの環境は寝ている間に変わることはない。
さてさて、なんで俺がこんなことをふと考えたのか。それは、授業中のコンパスどころではない衝撃が俺の背中にきたところで俺は目が覚めたことから始まる。
この世界に生まれ落ちて、寝落ちすることはよくあったものだが、こんなに寝る前と起きたあとで周りの環境が違ったことはない。精々母親の背中で寝ていたと思ったら、布団の上に移動させられていたくらいだ。
だから……俺は今、この状況が全然理解出来ない。
まず、何故俺は地面にいるのか。何故母親が居ないのか。何故この女の人(名前を忘れた)はボロボロなのか。そして何故、悪魔みたいな奴がいるのか、見当がつかない。寝る前と起きた後で環境が変わり過ぎているからだ。
「どうやら、赤子は起きたみたいだな。といってもまあ、最後の目覚めになるだろうがな」
え、そうなんすか?
「何、ふざけたこと言ってんのよ!そんなこと、絶対にさせないわ!あんたなんか、遠くまでぶっ飛ばしてやるんだから」
あ、そうなんすか。それは良かった。……いやいや、無理そうな雰囲気ですねえ。
うーん、うっすら状況が分かってきたような、そうじゃないような。
この悪魔?がこの女の人を、いや俺もか。この女の人と俺を殺そうとしていて、この女の人は必死に抵抗しているんだけど、このままだと負けそうって流れね。
やばいじゃん。やばいやばいやばい。つか、うちの母親はどこに行ったんや。もしかして、殺された?いや、痕跡が無い。多分瞬転を使って逃げきれたんかね。……俺たちも連れて行ってよ……
……ちょっと、覚悟を決めた顔で俺を地面に寝かすんじゃ無いよ。死ぬ覚悟してんじゃん。やめてよ。
「やってみろ」
なにをだっけ?
「奥義 鏡芸!」
そうだった、この人にはこの悪魔をぶっ飛ばす算段があるんだった。その、鏡芸とはどういう効果があるんだ?
「……ほう。我が奥義、混沌領域を打ち消したか。……いや……違うな。貴様も我と同じような領域を出すことで、我の奥義を相殺したか」
あ、あなたもなにか奥義を出していたんですね。それを女の人も似たようなものを出して、悪魔が出した領域を打ち消しあっているってことか。
よく分からんな。ちょっと気を見てみるか。
龍眼!
悪魔と女の人を中心に気が渦巻いている感じがするな。無茶苦茶気が乱れている。少なくとも、さっき龍崎家で見たように、気がモノの輪郭に沿って纏っていない。モノの形によらずにぐにゃぐにゃ動いている。
そういえば、さっき龍崎夫人がうまく瞬転が出来ていない母親に、その原因は気をうまく練れていないことだって言っていたっけな。
なるほど、ということは、うちの母親は俺ごと瞬転をしようと思ってけれど、上手くいかずに自分だけ移動してしまった。そして、抱えられていた場所、空中に取り残された俺は地面に落ちて、目が覚めたってことかな。
まあ、この悪魔がなんで来たかはよく分からないが、この悪魔が色々なことの原因ということで良いんだろうな。
さてさて、俺が持っているスキルは大体の場合、俺が肉体的に成長しないと使えないようなものばかりだ。赤さんの俺が使ったところであまり意味がない。とりあえず、何か女の人が喋り出したので、龍眼を解除する。
「私は奥義を使うより、こっちを使う方が得意なのよ!覚悟しなさい」
女の人は腰からどっかで見たことのある道具を取り出した。
「なんだ?それは。爆弾か?そうだとしてたら、外したときに、詰んでしまうな。まぁ、良い。早く攻撃するが良い」
いや、それは爆弾というより……
「後悔しても遅いんだから……!」
手品で使うアレみたいだな。
予想通り、女の人は道具の留め具を離し、持っていた道具はたちまち一本の長い棒になる。
でも、それだけじゃ、戦えないんじゃない?って思ったつかのま、アレに気が込められていく。これで戦えるようになったということなのか?よく分からんな。
「精々、後悔することね」
「ほう、棒術か。そんなもので我に勝てるとでもいうのか。くだらん」
「やあああ!」
女の人が悪魔に向かって飛び出す。
「愚かな。そんなもので我に攻撃が通るとでも思ってい……」
「たああ!」
お、不意をついて喉につけるか!?
「遅い」
くそ、避けられたか。何度も何度も連撃を繰り返していくけど、ことごとく悪魔に避けられていく。
「遅すぎる。舞踊でもしているのか?」
ブチ切れた女の人は大振りで悪魔に攻撃してしまう。ちょっと、ちょっと…挑発に乗ってしまったら隙ができてしまうぜ。
思った通り、悪魔は女の人の大振りを躱し、蹴りをお腹に打ち込む。女の人は飛ばされてしまったけど、棒が地面に突き刺さることで遠くに飛ばされずに済んだ。あ、その棒って気を込めると硬くなるんですね。
「せっかくだ。お前の目の前でこの赤子を食ってやろう。自分の無力さを噛み締めながら後で死ぬといい」
え?俺、先に殺されるの!?この悪魔、性格悪すぎだろ。この女の人の前で俺を殺して絶望を見るってことだろ?
……こいつ、嫌なやつだな。なんか、逆にこいつを絶望に叩き落とされているとか見たくなる。こう、弱いものいじめをして調子に乗っている奴をボコボコにしてスッキリ、スカッと。……あ、こっちを見た。こっち見んな。
……思いは届いたようで、次は女の人を見る。あ!女の人倒れているやんけ!龍眼で見てみると、気がまだ纏われている。とりあえず、生きていると判断することにする。
「おい。起きろ女」
まずい、悪魔が女の人にとどめを刺そうとしている。まずい。どうしようか。今の俺にはある程度肉体的に成長しないと使えないスキルが多い。精々使えるのは龍眼と……あと三禁くらいか。
三禁は見ざる、言わざる、聞かざるみたいな能力だったよな。えっと、対象の視覚、言葉、聴覚を奪うことができるんだよな。
そして他にも、自分が喋れなくなる代わりに、相手の心を読んで相手に話しかけることが出来るとかもあった。
三禁で足止めは出来たとしても、それ以上は何もできない。どうしよう、持っているスキルでは何もできそうに無い。
考えろ。俺に出来ること。前世の俺が得た技術で使えるもの……
……あるじゃないか。マジックバーで学んだ、アレが。通じるかは分からないが、一か八かでやってみよう。
俺が前世で一番得意だった……
……催眠術を。
主人公は鬼と言われているものを悪魔と捉えたようです。あと、長くなるので、鬼とのシーンを全部書ききれませんでした。すみません。また、来週書きます。
作中に出てきたアレは最寄りのマジシャンに聞いてください。
ブックマーク登録、高評価してくれたらモチベーションになるので、是非よろしくお願いします。




