3話
「その子は今、生まれてどれくらい経つんだ?」
「9ヶ月よ。でもこの子、9ヶ月と思えないくらい大人しいのよ」
そういうと、母親は背中でおぶっている俺を胸の前に持ってくる。
「おいおい、親バカか?……でも確かに、私と会っても物怖じしないな」
「貴方、子どもによく泣かれているものね。」
……ああ、確かにガラが悪そうな…もとい、元気で力が強そうな女性だ。人生1周目だったら俺も泣いていたかもしれない。
「うるせえな。私は悪くねえ。私で泣く奴が弱っちいだけだ」
何故かそう誇らしげに言う龍崎夫人。なるほど、この人は結構、“自分”というものを持っているのかもしれない。だとすると、他人の評価なんて気にせず、自分の突き進む道を選ぶタイプなのだろう。
「そんなことを言わないの、」
「あーあーうるせえ、うるせえ。女なのにってか?私は愛嬌とかそういうのが嫌いなんだよ」
「ごろつきみたいな顔しているのに」
「誰がごろつきだ、こらおい!」
「まあ、怖いこと。司、こういう大人になっちゃ駄目よ?」
「なんて、失礼な女だ」
俺の母、息子に初めて、微毒めいた会話を聞かせる。このようにちょっかいを出す会話をするということは随分と、このカナさんと仲が良いようだ。
「最近調子はどう?春雄くんは。もう2歳になるわよね?」
「私ながら、親バカだとは思うがな、天才だよ。もう龍眼の片鱗が見える」
龍眼だと?
「あら、凄いわね。カナさんも得意だものね。やはり親子ね。出産後のあなたの体調はどう?」
「万全も万全、大万全よ。産後1年くらいで、勘もすぐに戻ってきた。根津夫人も瞬転を使えるようになってんじゃねえか。なんだ、まだ勘が戻っていない奥義でもあるのか?」
「他の奥義はあまり試してないけど……実は瞬転ね、印を結ぶのにちょっと時間がかかるのよ、龍眼で視てもらえるかしら?」
「良いぜ、いつでも」
カナさんはそういうと、眼をかっ開く。対して母親は先ほどここに来たとき同様、二本指を立て印を結び出す。印を結び終わると同時、視界が瞬時にずれた。どうやら、1メートルほど移動したようだ。
「んー、気がまとまるのに時間がかかってるな。私も春雄を産んで1年くらいはそんな感じだったぞ。あんまり気にしなくても良いと思うぜ」
「そう?なら良いけれど。ありがとう、確認してくれて」
この後も他愛もないような会話が続いていった。なんともまあ、女性というのは会話が長いこと長いこと(偏見)。話が一族の話からそれぞれの子どもの話、そして何でもない世間話が続く。
会話の後半、眠くなってきて話を聴いていなかったが、会話からいくつか新情報が推測される。
まず1つ目、ここに来たときに母親がした術?奥義?は瞬転というらしい。特定の印を結んで行うようだが、ただ印を結ぶだけでなく、気をまとめ?ながらしなければならないようだ。
そして2つ目、龍崎家の奥義である龍眼は相手の気を見ることができる、ことが本質ではなく、龍の眼と同等な能力が使えることだという。その結果、動体視力を向上させたり、気を視認することができる。ただし、他にも龍眼には能力はある気がする。
そして最後3つ目、今日は家で寝ているようだが、春雄という2歳になる子が龍崎家にはいるようだ。今後、おそらくこの子とも交流があるだろう。出来れば、仲良くしておきたい。
「じゃあ、私は司と一緒に他の人にも挨拶にまわるから」
「おう。じゃあな」
母親の挨拶で長話が終わったようだ。すると先ほどまでの眠気がどこかに行ってしまった。どうやら、他の場所にも挨拶回りに行くらしい。
さて、今回の訪問で少し疑問に思うことが出来た。それは俺が12神からもらったスキルについてだ。12神それぞれからスキルをもらったわけだが、俺はある神からは龍眼と同様なスキルを貰っている。
俺のもらったスキルの内容は視界にいる敵の攻撃を認識出来るといったものだが、先ほど母親たちが話している間、こっそりと発動してみた。するとどうだろう、母親たちはスーパースローの動画のごとく、のーんびり話し始めた。
また、遅くなったと同時、何か煙のようなモヤみたいなものが、視界に入る全ての物質に纏わりついていた。俺は抱かれている姿勢であるため、母親のオーラみたいなモヤ、もとい気をきちんと視ることが出来なかった。しかしカナさんを見ると、カナさんを纏っている気は陽炎のようにゆらゆら揺れているのではなく、カナさんの大きめの輪郭に沿うように保たれていた。なるほど、これが気が安定しているということなのだろうか。
転生前の神との会話を思い出してみるか。
「我からのスキルはこれだ。多くの敵の攻撃を視認出来る。スキルの名は「リュウガン」という。まあ、細かいことは自分で使用して確かめよ。説明するより、使った方が早い」
え?もう少しスキルの詳細を教えてくれよ。困るよ。
「大丈夫だ。よく分からなかったとしても、いずれ分かる。我の庇護にある者に聴けば教えてくれるだろう」
他にもその、リュウガンってスキル使える人いるの?もしかして俺は今、神たちから貰っているスキルってレアすぎるというわけじゃなくて、よくある一般スキルなのか?
「たわけ。このスキルは普通の人間には使えん。我の庇護にある一族のみ使える。そして、我の庇護を得るには、我に対する信仰心が必要となる」
俺もあんたに対して信仰心が必要になるわけなのか。
「あんたはやめよ。我の名はタトゥムだ。そして貴様においては信仰心なんぞ一切必要ない」
それは俺がタトゥムの庇護を受けないということなのか?そうとするならば、今もらったスキルって使えない?
「いや、そういう訳ではない。信仰心とは言い方を変えれば、いるかどうか分からぬ存在に対して、強くソレが存在すると信じることだ。我の庇護にある者は我の存在を信じているゆえ、我の力の一端を使えるのだ」
つまり?
「貴様は今、12神全てを認識した。そうとなれば、スキルを使うのに信仰心など必要ない。神の存在を信じるも何も、知 っ て い るからだ」
本来信仰心が強いほど、能力を流暢に使えるが、俺は神の存在を認識してしまったからすごく能力を上手に使いこなせるということか?
「いや、ある程度はそうかもしれぬが、そうとは言い切れぬ。才能を持つ者は我の庇護とその一族の血に相まって、かなり強力にスキルを使えるだろう」
なるほど、つまり本来スキルを使うには、信仰心+血筋(才能)が必要となる訳だ。で、俺は血筋を持ってはいないが、信仰心に相当するステータスがカンスト状態にあるという訳か
「そういうことだ。しかし、一つ勘違いしているぞ。貴様の信仰心はカンストしている訳ではない。これ以上その信仰度が上がることも、下がることもない。ただ、高いところで固定されているだけだ。もし、かなりの才とかなりの信仰心がある者がいれば、スキルの練度次第では貴様より使いこなすことができる者は出てくるだろう」
なるほどね。
「とりあえず、龍眼は使ってみればどういったものか分かる。次の神に回すぞ。おい!俺は終わったぞ!お前さんの番だ!」
肝心のスキルの詳細は分からないままだったが、スキルだけは貰うことができた。
そして、そう、俺のもらったスキルはカナさんがした奥義と同じく龍眼と言ったはず。しかし、どうにも微妙に俺の持つスキル龍眼と、龍崎家の龍眼はスキルが違う気がする。
何がって……ニュアンスが?俺の場合、気を視認出来ることは一緒なのだが、動体視力の向上というより、世界がゆっくりに感じるのだ。もしかしたら、龍崎家も世界がゆっくりになっていることを動体視力の向上と言っているのかもしれないが、そうであるならば、龍眼を発動させた状態で喋ることが出来るものなのだろうか。
先ほど俺が発動させた龍眼では、俺は母親の腕の中にいたため、妙な動きは出来なかった。しかし、動こうと思えば、話そうと思えば、あの引き伸ばされた時間の中で行動が出来たように思える。まばたきのときに瞼は動かせていたからだ。
引き伸ばされたゆっくりとした時間というものは、なかなか退屈なものだ。ゆっくりと口から出る音を一つ一つ認識しながら何を言っているかを確認し、頭の中で文章を紡ぐ。かなり面倒であり退屈である。結果、眠くなってきたため、龍眼を解いた。母親たちの世間話の退屈さだけというわけではなく、龍眼により、引き伸ばされた会話が眠気を誘っていたわけだ。決して女性の会話が退屈なものであるというわけではない(弁明)。
俺は神が送った世界に、正しく送り込まれたのだろうか。転生前に出会った12神は和名っぽくは無く、西洋にいそうな名前だった。しかし、俺が生まれたこの世界は明治、大正あたりの日本っぽい異世界で、神様の存在も15いるときた。
そういった理由があったため、俺は西洋チックなファンタジー異世界に飛ばされるはずが、間違えて違う世界に来てしまったと思ったのだが……俺の持つスキル龍眼と龍崎家奥義の龍眼は非常に共通点がある。しかし、根津家の奥義瞬転に相当するスキルを俺は貰っていない。ただ、根津家には俺の持つスキルのどれかに相当する奥義があるだけで、俺がまだ知らないだけかもしれない。どういうことなのだろうか。俺はやはり、送られるべき世界に来たのだろうか。
さて、母親は挨拶をした後、じゃあね、と振った手をそのまま胸の前に持ってきて、この場所に来たとき同様片手で印を結びだす。するとまた、一瞬で目の前の景色が変わった。
どうやら、次の挨拶先に到着したようだ。
何とか前話から1週間後に投稿できて良かったです。また、1週間後に4話を投稿します。
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