2話
状況を整理したい。えっと、あのネロとかいう神は俺に魔王討伐を勧めてきたような。ということは魔王がいる世界にきたと思っていたのだが……司?俺の名前が司だと?日本人みたいな名前じゃないか。あと、日本語を話している気がするし、やっぱりここ日本だよな……?
にしても、ここは病院になるんだろうか。大きい部屋にいることは把握はできたが、窓からは青い空しか見ることが出来ないため、これ以上の情報は分からない……
ベッドや照明に高級感がなんとなく感じられるのは、この病院ではこれが普通なのか、俺が生まれた家が裕福ということなのか。
いや、待てよ、さっき俺の父親らしき人に“旦那様”という呼び方をしている人がいた気がする。するとそう呼んだ女性はお手伝いさん的な人なのか?だとすると、後者の可能性が高いか。
ただ、それにしては、どうにも雰囲気が古いというかなんというか……この部屋を見る限り、この建物は木造建築に見えるし、父親らしき人もお手伝いさんも和服を着ている感じがするし……
ここは日本だとして、俺が過ごしてた21世紀ではなく、もっと前の時代ということになるのか?ということは…
俺が21世紀で…培った知識…が……使え……
眠い………
「あらあら、気持ちさそうに寝ているわ。かわいいわね」
「ああ、愛おしい存在だ。もちろん、お前もな。出産ご苦労だった。お前もゆっくり休むと良い」
「ありがとう。これから健やかに、立派に育っていって欲しいわね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ああ、ネの神にお頼み申す。この子が根津家などの家柄関係なく、平穏に生きることが出来ますように。
赤ん坊の身体では体力の限界が来るのが早いようで、生活の中で気がつけば意識がなくなり、気がつけば目が覚めるといったことが続いていた。おそらく、前世でも経験していることなのだろうが、いかんせん、記憶がないため新鮮な経験であった。
ただ、そんな生活を過ごしてきて分かったことがいくつかある。まず、俺には名字がある。根津というようだ。女中さんがいたり、時代背景を考えると、俺はこの地域の裕福な家庭に生まれたのだろう。
忙しい立場なのだろう、父親は滅多に家に帰ってきてないように思える。少なくとも5日に一度帰ってくるか、といった頻度だ。
そしてこの家、かなり信心深い。朝に一度、女中さんを含めた家族みんなででかい神棚?仏壇?的なところで1分ほどお祈りの時間がある。朝に一度のお祈り?祈祷?くらい、宗教的には少ない方なのかもしれない。しかし前世で俺は、どこかしらの宗教を信仰しているわけではなかったから、こういう毎日のルーティンは新鮮な気分だ。ただ気になるのは神様の名前?かは分からないが、ネノカミ?ネの神?と神棚に向けて言っていたことだ。俺が転生するときに立ち会った神の名前はネロと名乗っていたが、関係あるのだろうか?ネロのネだったりするのか?だが、こんな時代に、そんな西洋にいそうな名前の神を信仰するとは思えない。だとすると、ネロとネノカミとやらは関係がない可能性が考えられる。
じゃあ、この世界は一体なんなんだろうか。生まれて数ヶ月で中学生が考えそうな、“世界そのもの”について考えるなんて思わなかった。おそらく生まれてきて、世界とは何かなんて考えたのは世界最速だろう。…この世界で。両親は誇っていいぞ、こんな俺を。生まれてきて、すぐにこんなことを考えられるなんて将来有望だろう?まぁ、俺が親なら、そんなことを考える子ども、誇るどころか逆に怖いけどな。前世の知識をひけらかすことなんてもちろん出来ない。知識どころか、魔王がいなそうなこの世界では、神からもらったスキルなんて手品にしか使えないだろう。手品なんて前世で趣味としてやっていたんだから、前世でこそ欲しかったものだ。まぁ、今世でもどう手品として使うかは考えものではあるが…。
「さあ、ご飯を食べましょうね〜」
ご飯もとい、お乳になるのだが、二十数年ぶりとなる乳房とのご対面である。当たり前と言えば当たり前かもしれないが、欲情もわかず、なんとも思わないものである。胸自体も食事をする上での食器としてしか感じない。はたして、男という存在は、いつからこの人間についている食器を卑猥な目で見始めるのだろうか。
「この子は泣かないからご飯の頃合いが分かりづらいわね」
「泣かないということは、辛抱強いということなのでしょう。将来が有望ですね」
「そうかもしれないわね。でもね、有望になる分には構わないけど、私個人としては、有望にならなくても良くて、あまり一族のこととか気にせずに生きていくのが良いのかなとは思うのよ」
一族?ちょっとニュアンスに違和感を感じる。一族という言い方をするということは、この家はそこまで由緒正しい家だったというのか。
「有望に越したことはないのではないですか?」
「私としては、魔王を討伐しないといけないとかいう使命なんてほっぽり出して、この子には楽しく穏やかに生きて欲しいの」
魔王!?日本にどの時代でも魔王なんていなかったろ!?第六天魔王的な存在がこの時代にいるというのか? そんで、討伐?革命的なものを起こそうとしているのか!?
「あの人の代で全てが終われば1番なんだけどね」
……なんとなく、読めてきたような、分からないような。つまり、我が家系は何やら代々、魔王とやらを討伐するような戦闘家系ということなのか?ということは、父親はどこかに戦いに行っているから、家に帰る頻度が数日に一度ペースなのだろうか。でも、この時代で戦うってどういうことをするんだ?少なくとも、父親が家を出るときに武器に相当するものを持っていっている記憶が俺にはないが…
「旦那様は今代において、いえ歴代最強の破魔師でございます。きっと…いえ、本当に旦那様の時代でこの魔王たちとの戦いを終わらせることができるかもしれません」
ほう、俺の父親は最強と言われるのか。出来ることならば、どう戦うのか見たいものだ。
「本当にそうなると良いんだけど…」
母さんや、安心して欲しい。あなたが今抱えている息子はなんと戦いにおけるスキルをお持ちですよ…!しかも、12神全てから一つずつスキルをもらっているので、結構その、魔王討伐?には向いていると思いますよ…!父親が引退しても俺がなんとかするので、大丈夫ですよ!討伐なり、革命なりなんでもこいよ!
「あらあら、この子、まるで僕がみんなを守るぞって言っているように見えるわね」
思いが通じたのか!おおっ!
「生まれたばかりの赤ん坊でも、勇ましく見えます。流石、お二人のご子息ですね」
「ふふ、ありがとう。でも司、あなたには戦ってほしくないの。私たちが全てを終わらせるから、何不自由なく育って欲しいの」
なんて、子ども思いの親なんだ。この親の鏡と言っても過言ではない存在に大いなる尊敬を抱くと共に、おいおい、ひよってんねぇ、俺はスキルもあって、全然戦えるから気にするんじゃねえ、といった、世界最速の反抗期もやってくる。
頼むから、俺ももう少し大きくなったら稽古とかつけてくれよ。強くなりたいし。ほら、護身になるから、強くなるに越したことはないだろう?
「ご飯も食べたし、今日は散歩に出かけましょうか。桜代、家を任せても良いかしら?」
「私がお供しなくてもよろしいのですか?」
「大丈夫よ。もう、私も体力が戻ってきているし、司にも外を見せてあげたいわ」
「かしこまりました。どうぞ、司様との散歩をお楽しみください」
そういえば、女中さんの名前は桜代というらしい。なんともまぁ、ハイカラな名前に感じる。この時代っぽい名前だ(偏見)。
「じゃあ、いってきます。誰か来たら知らせてね」
「はい、承知しました。いってらっしゃいませ」
母の背中におぶされながら、初めての外食となる。外に出ても問題ないと判断したのだろう。もちろん、俺だけでなくこの母親の体調的に。
ところで、携帯電話がないこの時代にどう急な知らせを伝えるのだろうか。
「いくわよ、司」
母が家を出て数歩歩き、俺に言ってきた。子供ながら、言葉の意味を分かっていないであろう赤子にも話しかけてくれるって良いな。きっと俺がこの人の言葉の意味を分かっていなくても安心しただろう。
母親がおもむろに片手で印のようなものを結ぶ。なんだ?家を出るときにも、ネノカミに何かお祈りしないといけないのか?と親の信心深さに驚きつつ、今後の自分の人生で、いちいちこんなことをしないといけないのかとわずらわしさを感じていると、その刹那意味がわからないことが起きた。
先ほどまで、家の前にいたはずなのに、気がつけば、知らない建物の門の前にいた。
は?え?俺、寝落ちかなんかしたのか?
「あら?驚いた?司は初めての経験よね。私たち根津家は瞬間移動が出来る一族なの。この力を使って貴方の父親は今も魔王軍と戦っているのよ」
瞬間移動?何これ、ファンタジーの世界?いやでも、転生をしてること自体ファンタジーだと思うが、え?今日本の明治とか大正時代ってわけじゃないの?魔王ってどっかの圧政をしてるお偉いさんのことじゃないの!?
驚いている俺をよそに母親が目の前のドアを開ける。
「おお!来たか!根津夫人!抱いている子はあいつとの子どもか!」
「ええそうよ。この子も私も体調が良いし、久しぶりに散歩がてら挨拶をしに来たわ。司、この人は15神のうち、タツの神に仕える、龍崎家。その当主の奥さん、カナさんよ」
15神?3人多くね?俺が知っている神は12人しかしなかった気がするんだが……?やっぱ俺、ネロが送る予定だった異世界に生まれていないんじゃね……?
時間があったので、想定より早く書き上がりました。ぜひ、褒めてください。よろしければ、ブックマーク登録、高評価をしてくれたら嬉しいです。励みになります。




