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その鉄塊に想いを乗せて  作者: 色採鳥 奇麗
プロローグ

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1/1

学習する函 アニマ


「博士、これが例のAIですか?にしても、いささか奇抜というか、味気がないというか…。もうちょっと、こう…なんとかならなかったのですか?」


 白く殺風景な部屋。

 その真ん中にポツンと置かれた『鉄の(はこ)』を凝縮しながら、若い女が怪訝に眉をひそめた。

 それに対して、博士と呼ばれた男──空論(くうろん)風間(かざま)は、仕方がなかったんだと言いたげに愚痴をこぼす。


「もう期日が来週に迫ってたからねぇ。外観に時間をかけてる暇がなかったんだ。まぁ、歩行や会話機能に関しては問題はなかったし、改良が必要なら、後で発覚した改善点も兼ねて追々ね」


 一仕事を終えた風間は、不意に笑みをこぼす。

 自身が創造した唯一無二の傑作を、我が子のように()でながら。


「この子にとって重要なのは、中身だから」


「とうとう始まるんですね、博士」


「ああ、長かったよ。後はこの子が証明してくれる。成功か失敗か…どちらに転んでも、私達が得られるものは大きい」


「そういえば、名前は決まってるんですか?」


「ああ…」


 風間は鉄の函を優しく撫でると、想い(ふけ)るように言う。


「アニマだ。ラテン語で『魂』や『生命』、『精神』を意味する言葉だ」


「え…やだ…。可愛くない…」


「ええぇ…。作った私が考えたんだから、決定事項だもん!」


「いい(とし)して、もん!とか言わないでくださいよ、博士。気持ち悪いです」


 女はやや不服そうに綺麗な顔を歪め、子供じみた態度の博士に軽蔑の眼差しを送った。

 気を改めて、二人は目の前の研究成果を見下ろす。


 ネットを経由せずに独自の学習機能を確立した、超高性能AI…アニマ。

 見た目には改善の余地があるが、中身はどの国にも劣らない。

 いや…最先端だろうと風間は自負している。

 しかしこの世紀の発明は、あくまで過程に過ぎない。

 むしろ、ようやくスタートラインに立てたと言える。

 ここからは風間達の手を離れ、本当の成果は『彼女』がもたらしてくれるだろう。

 

 かねてより、我々はAIに多くのものを学習させ、頼り、依存してきた。

 いわゆる『AI学習』なども挙げられる。それは多くの問題へと発展した。

 イラストなどのデータプライバシーへの侵害。

 利便性向上に伴った、AIへの多岐にわたる依存。

 著作権の侵害、エトセトラ。

 

 そんな多くの情報を吸収し、学習してきた人工知能だが、一人の天才がこんなことを疑問に思った。


 ならば、心も学習できるのでは?と。

 もっと簡潔に言うのであれば、


 ──『AIは心を持つことができるのか?』

 

 一般人ならば、思考はそこで止まっていただろう。

 空論風間は違った。

 男には才能があり、知恵があり、技術を持ち合わせていた。

 知恵者としての好奇心。

 一度、言葉にしたのなら、有言実行せずにはいられない。


 これから始まるのは機械の(からだ)にまだ空っぽの情報(こころ)を宿した、幼い人工知能が心を学習す()る物語。





 アニマが心を証明するための、

 

 長く壮大な実験である。





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