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渇望の聖母マリアンヌ~私は今世で異世界の神となる~  作者: ししのこ


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第十五章:聖誕祭の惨劇

聖誕祭当日。

王都の広場は、私を崇める愚民どもで埋め尽くされていた。

私の私室――神殿の屋上のバルコニーに立つと、地響きのような歓声が上がる。

ああ、いい気分だ。

この数万の魂が、今から全て私のものになる。

私は、白と金で装飾された聖女の衣装に身を包んでいた。頭には、宝石を散りばめた冠。まるで女王のようだ。いや、女王以上だ。私は、この国の真の支配者なのだから。

「さあ、祈りなさい。私に全てを捧げなさい」

私が両手を広げ、儀式を開始しようとしたその時。

異変が起きた。

神殿地下の魂の貯蔵庫で、激しい魔力の乱れを感知した。

「――何?」

すぐに理解した。

侵入者だ。にえだ。

あの子は、何らかの方法で、直接、地下の貯蔵庫に転移してきた。

「ふん、私を止められると思って……?」

私は一瞬驚いたものの、恐怖は感じなかった。すでに配置済みの神官騎士団の精鋭たちが命じなくとも命を懸けて私を守るのだから。

何より、石と一体化し始めている私に不可能などない。

しかし、一つだけ誤算が――私が遺跡から持ち出し、従属させたはずの守護者が、彼女の側についているのが、石の力を通して肌で感じる。

生意気な。神になる私の邪魔をするなど、万死に値する。

「まぁいいわ……あの美しい魂も文字通り私という神の贄にしてあげましょう」

金で装飾された部屋の扉が蹴破られ、にえ、エリス、ガレンがなだれ込んでくる。

「……お待ちしておりましたわ、裏切り者のネズミたち」

「まさか、あの古代の番人を、手懐けるとは。あなた、本当に、面白いオモチャですわね」

私は動じない。私には、命を捧げてくれる群衆がついている。美しい魂を目の前にして、マリアンヌは恍惚を覚えた。


私は親衛隊である洗脳した神官騎士たちをけしかけた。

だが、仲間たちに守られたにえは止まらない。まっすぐにこちらに向かってくる。狙いはコア制御室か?マリアンヌにはそれが用意した罠に飛び込んでくる愚鈍な獲物にしか見えなかった。バカめ、自分から飛び込んでくるとは。

「どこへ行くのかしら?」

マリアンヌが、指を鳴らす。すると、壁の蔓薔薇が、生命を宿したかのように動き出し、無数の鋭い棘を持つ触手となって、にえの行く手を阻んだ。

にえは、白銀の短剣で、その触手を切り裂いていく。だが、切っても、切っても、薔薇はすぐに再生し、キリがない。

「無駄ですわ。この神殿に満ちる、人々の祈りが、私に無限の力を与えてくれるのですから」

無駄なあがきほど私を喜ばせるものはない。人が必死にあがけばあがくほど、そしてそれが無駄だったと分かり私に屈することに至上の喜びを感じることができるのだから。

マリアンヌは、余裕の笑みを浮かべていた。

「あなたも、もう、諦めて、私の『子供』になりなさい。私が、あなたに、本当の『愛』と『安らぎ』を与えてあげますわ」。

彼女は、思わず目の前のにえとラムを重ねて言葉を選んでいた。

その瞬間、何も読み取れない目をしていたにえが一瞬動揺し動きが鈍くなった。私の精神攻撃は確実に効いている。マリアンヌの確信は石の力と深く結びつきながら彼女の言霊をさらに強力なものにした。弱々しくうなだれていくにえを見て、彼女の力は喜びでますます増大した。

「そうよ。あなたは、良い子。ただ、私の言うことだけを聞いていれば、幸せになれるの」

マリアンヌが、ゆっくりと、にえに近づく。

何のことはない。こいつもまた他の子どもと同じく支配できる。――彼女がそう思ったその時、にえが手にしている白銀の武器がきらりと光った。それは、守護者から受け取った、古代の王の『真理の刃』だ。その真っ白な煌めきがあのラムの最後に見た、私の嘘も欺瞞もすべてを見透かしているような色の薄い、冷たい瞳を思い出させた。

「……気持ち悪い」

私は、本能的な嫌悪感を抱いた。

あれは魔法ではない。もっと泥臭く、おぞましい、生存本能の塊だ。

まるで、何度も殺されかけ、そのたびに蘇ってきたゴキブリのようなしぶとさ。

嫌悪感は潜在的な恐怖となった。

「さあ、その剣を、お捨てなさい」

にえの腕から、力が抜けていく。白銀の短剣が、カラン、と音を立てて床に落ちた。


勝った!――マリアンヌが勝利を確信したとき――、

「にえ!」

エリスの、悲痛な叫び声が響いたかと思うと、にえの身体からこれまでとは比較にならないほどの、凄まじい光が、溢れ出した。


「――(いや)だ」


声というよりはすべてを吹き飛ばす爆発的な振動のようなものが、その場を支配していたマリアンヌの言霊の力を消し去った。

「なっ……!?」

ばかな、ありえない。マリアンヌの自己の支配力に対する確信がゆらぐ。

彼女は慌ててにえのほうを見たが、かつての色のない瞳は、幾千本の磨き抜かれた刀が波のように勢いよくぶつかり合っているようなまばゆいばかりのきらめきで埋め尽くされていた。その刀の一本一本がマリアンヌの罪を責め立てているように彼女には感じられた。


「……あなたは、間違っている」

にえの声は、もはや、か細くはなかった。それは、凛とした、力強い響きを持っていた。

「愛を語りながら、その実、支配しているだけ。救いを説きながら、魂を喰らっているだけ。あなたは、ただの、空っぽの偽物だ」


その言葉は、マリアンヌの最も触れられたくない核心を、容赦なく抉った。

「だまれ……だまれ、だまれ、だまれぇっ!」

「私こそが、この国を導く、唯一絶対の聖女! 愛されず、誰からも必要とされなかった、お前のような欠陥品に、何が分かる!」


私は、最後の手段として石の魔力を全開放した。

黒い波動が巨大な槍となって、にえへと放たれた。

これならどうだ。潰れろ。死ね。消えろ。

だが、にえは、動じなかった。

彼女は、床に落ちていた『真理の刃』を、再び、その手に取る。

そして、日本語で、静かに、しかし、はっきりと、詠唱した。

「我が魂の形、我が意志のままに――顕現(あらわれろ)


短剣は盾となってマリアンヌの槍と激突した。

うるさいうるさい!マリアンヌにしかわからない言葉でしゃべるにえを見て、彼女の中でにえとラムは完全に重なった。

凄まじい轟音と、衝撃波。

「……ありえない。私の力が、通じない……?」

愕然とするマリアンヌ。

「あなたの力は、偽物だから」

にえは、盾を構えたまま、静かに言った。

「他者から奪った力は、所詮、借り物だ。……でも、私のこの力は、違う」

一騎当千の神官騎士たちを倒した仲間がにえのもとに駆け寄る。

一人ぼっちでいいように虐められていたあの非力な娘が……、すべてを手に入れた私より……まさか、そんなことがあってたまるか!

「これは、私が、私の仲間が、未来を掴むために、魂を燃やして生み出した、本当の力だ!」

にえが叫ぶと、白銀の盾が、その形を一本の長大な「槍」へ変え始めた。

「――これで、終わりにする」


「小賢しい真似を……! 神の器たる私に、傷一つ付けられるものか!」

マリアンヌは残された全ての魔力を解放し、全てを溶かす無数の黒い魔力球を一斉に降り注いだ。

だが、その弾幕の中を、にえはまるで縫うように駆け抜けてくる。魔力が身体をかすめ、衣服を焦がし、肌を焼こうが、まるで意に介さないようにぐんぐんと近づいてくる。


――感じたこともないような明確な恐怖――。


「なぜだ……なぜ、私の力が、当たらない……!」

「あなたの力は、ただの破壊だ。そこには、魂がない」

にえは、マリアンヌの目の前まで、肉薄していた。

「でも、私の槍には、想いが乗っている!」


私が?負ける?――この私が??


「――これで、終わりだ!」

にえが、渾身の力を込めて、槍を突き出す。


私は、必死に魔力で障壁を張った。だが、にえは、白銀の槍に変化した真理の刃でいともたやすくその障壁を破った。

彼女の槍が、私の胸に迫る。

攻撃ではない。貫通だ。私の心臓ではなく、その奥にある石の力の核心を狙った、正確無比な一撃。

「そん……な……」

私が何をしたって言うの?そうだ、私は間違ってない!すべてを手に入れたい!この純粋な思いに一遍の曇りもない!こんなやつに、こんなやつに……!マリアンヌは憤怒し、にえをにらみつけたその瞬間、にえの瞳から涙が零れ落ちたのを彼女は見逃さなかった。

こいつの弱点――自分を痛めつける者さえも攻撃できないこの弱さ、感受性の高さと優しさを最大限に利用する。ここをつけば必ず際限ない罪悪感でがんじがらめにできる……!

彼女は最後の罠を仕掛けた。

武装を解除し、ただの無力な一人の女性として目に涙を浮かべて見せたのだ。前世から磨き抜かれた一世一代の演技。それは、どんな人間でも良心の呵責に苛まれるであろう、完璧に計算され尽くした無言の演技。にえの心が、ほんの一瞬、揺らぐ。


――かかった!


「――その魂をよこせ!」

マリアンヌは叫びながら、隠し持っていた最後の魔力で、にえの魂を直接掴み取ろうと襲い掛かった。

だが、にえの槍は、すでに彼女の核心――悪しき魔力の根源だけを正確に貫いていた。


「解き放つ」


にえがそう言い放った次の瞬間。

マリアンヌの脳内に、信じられない光景が流れ込んできた。


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