第十二章:救済の家
『渇望の石』を手に入れた私は、王都に戻るとすぐに計画を実行に移した。邪魔な枢機卿や高位の司祭たちは、次々と謎の病死を遂げた。もちろん、私が石の力で彼らの生命力を吸い尽くしたからだ。自分の手は汚さない。病死として処理される。完璧だ。
三十五歳になる頃には、私は教会の頂点、「聖女」の座に就いていた。
そして、私は私のための城を築いた。王都の郊外に建設された、白亜の巨大施設。『救済の家』。表向きは、戦災孤児や貧しい子供たちを保護し、教育を与える慈愛の施設。だがその実態は、私と石のための「牧場」だ。
システムは完璧だった。まず、国中から身寄りのない子供を集める。彼らに、清潔な服と食事を与える。そして、「教育」を施す。
「あなたたちは、世界から見捨てられた可哀想な子。本当の親は、あなたたちを捨てた」
私は、子供たちを大広間に集め、穏やかに語りかける。
「でもね、お母様(私)だけは、あなたたちを愛しているわ。お母様だけが、あなたたちを拾ってあげた。お母様がいなければ、あなたたちは道端で死んでいたのよ」
子供たちは、私の言葉を信じる。なぜなら、それは半分真実だからだ。
「だから、お母様に感謝しなさい。お母様のために祈りなさい。それが、あなたたちが生きている唯一の意味なのよ」
【魅了】のスキルと、石の魔力を使った洗脳。子供たちは、疑うことを知らない。彼らは私を神のように崇め、私に褒められることだけを至上の喜びとするようになる。
リーナは、その中でも最も優秀な「作品」だった。今では十歳になり、私の側近として他の子供たちを管理している。
「お母様、今日の収穫量です」
リーナが、書類を持ってくる。そこには、子供たち一人一人から吸い上げた魔力の量が記録されている。まるで、前世の会計報告書のようだ。
「よくできたわ、リーナ」
私は、リーナの頭を撫でた。彼女は、恍惚とした表情で私を見上げる。
「お母様のお役に立てて、嬉しいです……」
完璧だ。前世のラムは、私の支配に反抗した。だが、リーナは違う。この子は、生まれた時から私だけを知り、私だけを愛するように育てられた。この子は、私を裏切らない。
地下には、巨大な魔力抽出装置を作った。子供たちを交代で眠らせ、その魂から少しずつ生命力を吸い上げる。一度に吸い尽くしはしない。生かさず殺さず、回復させてはまた吸う。持続可能なエネルギー資源。前世で私が夢見た「不労所得」の完成形だ。
そして、私は表の世界でも「慈善家」として君臨していた。『救済の家』の視察に訪れる貴族や政治家たちに、私は満面の笑みで案内する。
「ご覧ください。この子たちは、皆幸せそうでしょう?」
子供たちは、洗脳されているから、本当に幸せそうに笑っている。貴族たちは感動し、多額の寄付金を置いていく。
「マリアンヌ様は、真の聖女です!」
完璧だ。誰も、この施設の地下で何が行われているかなど、想像もしない。
四十五歳。前世で私が死んだ年齢になった。鏡を見る。そこに映っているのは、老いさらばえた老婆ではない。石の力で若さを保ち、十代の少女のように瑞々しい肌を持つ、絶世の美女。
「……勝ったわ」
私は、最上階の私室から、眼下に広がる王都を見下ろした。この国の民は皆、私を崇拝している。王家でさえ、私の機嫌を損ねることを恐れている。金も、地位も、力も、若さも。全てが私の手の中にある。
だが。胸の奥の石が、ズキリと疼いた。
『――足りない』
『――もっと、もっと』
そうね。まだ足りない。この程度の支配では、まだ「神」とは呼べない。人間という種の枠を超え、不老不死の、絶対的な存在にならなければ。
そのためには、もっと大規模な儀式が必要だ。数千、数万の魂を一度に喰らう、国を挙げた大儀式が。
「聖誕祭……」
私は呟いた。来たる聖誕祭の日。国中の人間が祈りを捧げるその瞬間に、全ての魂を収穫する。そうすれば、私は真の神になれる。
計画は順調だった。あの日、一人の少女が現れるまでは。




