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渇望の聖母マリアンヌ~私は今世で異世界の神となる~  作者: ししのこ


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第十章:聖女という仮面

 それから七年。十五歳になった私は、貧民街の「奇跡の少女」として崇められていた。

 私のビジネスモデルは単純だ。まず、ターゲットを【魅了】し、信者にする。次に、彼らから少しずつ生命力を【吸収】する。彼らは原因不明の体調不良に陥る。そして、私が「祈り」と称して、奪った生命力の一部を魔力に変えて還元し、一時的に回復させる。

 マッチポンプ。自分で火をつけて、自分で消す。前世のコンサルタント詐欺と同じ手口だ。だが、愚かな民衆はそれに気づかない。彼らは私を救世主と呼び、なけなしの金や食料を捧げ、私の足元にひれ伏す。

「マリアンヌ様、ありがとうございます!」

「マリアンヌ様のおかげで、歩けるようになりました!」

 心地よい。前世で私が金を使って必死に集めていた称賛が、ここでは呼吸をするように手に入る。私の美貌も、この世界では神聖なものとして扱われた。金色の髪、青い瞳。

 私は、鏡の前で何時間もかけて「聖女の微笑み」を練習した。角度、目の細め方、声のトーン。全てが計算された、完璧な演技。

 その噂は、やがて王都の教会の耳にも届いた。ある日、立派な馬車に乗った司祭が、貧民街の私のあばら家を訪ねてきた。

「娘よ。その力、神からの授かりものに違いない。教会へ来なさい。聖女候補として、教育を受けさせてやろう」

 来た。私は、内心でガッツポーズをした。貧民街の教祖で終わるつもりはない。国の中枢に入り込み、権力を握る。それが私の計画だ。

「……はい。神様のお導きに従います」

 私は、慎み深く頭を下げた。司祭は、私の美しさと従順さに、すっかり目を細めていた。チョロい。男なんて、どこの世界でも同じだ。

 教会での生活は、退屈だが快適だった。清潔な服、美味い食事、そして何より、私を特別扱いする周囲の視線。

 だが、私はすぐに気づいた。この組織は腐っている。上層部の司祭たちは、寄付金を私腹に入れ、権力争いに明け暮れている。素晴らしい。腐敗した組織ほど、乗っ取りやすいものはない。

 私は、まず情報を集めた。誰が誰を憎んでいるか。誰がどんな秘密を抱えているか。そして、枢機卿たちの会議に「若き改革者」として参加する機会を得た。

「枢機卿様方。私、一つ提案がございます」

 会議の席で、私は立ち上がった。全員の視線が、私に集まる。

「現在の教会は、民衆からの信頼を失いつつあります。寄付金の使途が不透明だという声も聞こえてきます」

 何人かの枢機卿の顔が、サッと青ざめる。図星だ。

「私は、会計の透明化と、慈善事業の拡大を提案します。孤児院の設立、貧民への医療支援……これらを実行すれば、教会の信頼は回復します。そして、より多くの寄付が集まるでしょう」

 私は、完璧な笑顔を浮かべた。

「もちろん、実務は私がお引き受けします。枢機卿様方は、ご指導だけいただければ」

 つまり、権限だけ寄こせ。実務は私がやる。そして、金の流れを全て私が掌握する。そういうことだ。

 枢機卿たちは、顔を見合わせた。そして、一人の老枢機卿が頷いた。

「……素晴らしい。マリアンヌ、お前に任せよう」

 完璧だ。私は、暴力を使わず、脅迫もせず、ただ「有能な提案」をしただけで、教会の実権を握った。前世のキャリアウーマン演技が、ここでも通用する。

 私は、他の聖女候補たちを次々と蹴落としていった。いじめ? そんな野蛮なことはしない。ただ、【魅了】を使って彼女たちの取り巻きを奪い、孤立させ、精神的に追い詰めて「自主退学」させるだけだ。前世でラムにやったことの応用編だ。

 そんなある日。教会に併設された孤児院を慰問した時のことだ。一人の少女が、私のスカートの裾を掴んだ。

「シスター・マリアンヌ……」

 五歳くらいの、痩せた少女だった。名前はリーナ。親に捨てられ、心を閉ざしていた子だという。その子が、私を見上げている。その瞳。純粋な、信頼と憧れに満ちた瞳。

「大好き。シスターは、ママみたいにいい匂いがする」

 ドクン。心臓が跳ねた。

 ママ。その言葉が、前世の記憶を呼び覚ます。ラム。私の娘。私の作品。幼い頃のラムも、こんな風に私を見上げていた。「ママ、大好き」と。

 だが、ラムは私を裏切った。私を捨てて逃げた。あの子は失敗作だった。私が甘やかしたからだ。もっと厳しく、もっと完璧に管理すべきだったのだ。

 私は、リーナの頭を撫でた。その髪は柔らかく、温かい。

「……いい子ね、リーナ」

 私は微笑んだ。今度は、失敗しない。この子は、私のものだ。私が与える愛(支配)だけで生き、私のために死ぬ、完璧な作品に育ててみせる。

「リーナ。あなたの本当のママは、あなたを捨てたのよ。ひどいママでしょう?」

 リーナの目に、涙が浮かぶ。

「でもね、私は違うわ。私が、あなたの本当のママになってあげる。だから、私の言うことだけを聞くのよ? 他の人の言葉は、全部嘘。私だけが、あなたを愛しているの」

 リーナは、嬉しそうに頷いた。その瞬間、私は決めた。この世界に、私だけの「家族」を作る。血の繋がりなどいらない。恐怖と洗脳と、そして絶対的な依存で結ばれた、裏切ることのない家族を。

 そのためには、もっと力が必要だ。数人を【魅了】する程度の力では足りない。国中の人間を、いや、世界中の人間をひれ伏せさせるような、圧倒的な力が。

 そんな時だった。教会の上層部が、ある極秘任務のメンバーを選抜しているという噂を耳にしたのは。北の果てにある、「霧の谷」の古代遺跡調査。そこには、神代の遺物が眠っているという。

 私の直感が告げた。そこにある。私が求めている「何か」が、そこで私を待っている。

 私は、あらゆるコネと【魅了】を使って、その調査隊の一員に潜り込んだ。待っていなさい、私の力。マリアンヌ様が、迎えに行ってあげるから。


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