救済はあるのか
市場には様々な店が出ている。
「肉屋さんこんにちは」
ウル族の肉屋に声をかけると、たくましい体つきの男性が振り返る。
「ガゥ、すまねぇ解体に夢中で気が付かなかったぜ」
「何の肉ですか?」
興味本位で聞いてみる。
「あー、えっとな…キレビットの肉だ。」
食用ウサギである、聞くんじゃなかった。
「あはは…乾燥肉を8食分ください」
「あいよ、なんかすまねぇ。これもってけや」
木の筒を渡され、よく見ると途中に境目がある。引っ張ると中からぎらりと光るナイフが出てきた。
「うちがよく研いでもらってる工場でもらったが小さくてな!」
あんたにならぴったりだ!と、押し付けられてしまった。とはいえ小型ナイフはあらゆる場面で役に立つ。しかも切れ味もよさそうだ。
次に向かったのはパン屋だ。ピグ族の巨漢が窯に丁度、生地を入れているところだ。ワールは話しかける。
「乾パンくださいな!」
「おーよくきたねぇ。乾燥パンなんて久しく売ってなかったよ! いくつだい?」
「8食分ください」
「はいよーおまけで焼き立てのブレットもやるよ! 隣でサンドイッチ無料で作ってもらえるぜ!」
ご厚意に甘え、サンドイッチを頂く。丁度昼時でお腹もすいていたのでラッキーだった。
パンパンの鞄を背負い、大森林へ足を踏み入れる。森林では時折露が落ちてきたり、霧がかったりする、湿度の高い森林だ。先がなかなか見えないし、遠くでは狼の遠吠えが聞こえる。小川に沿って上流に向かう。夜になれば乾パンと干し肉をスープで頂く。
3日目にして小川が滝のようになっており、ワールの身長では届かない。川を離れ、森林の中心地へ向かった。川の音がしなくなり、数時間が立った。獣道を歩いていると、大きな丸太が出てくる。よじ登り下に降りた瞬間! バチンという音と共に足に激痛が走る。
こんなところになぜか、狩猟罠が仕掛けてあったのだ。挟む部分は幸いギザギザではないため、出血はしていない、しかしながら足の骨は折れているだろう。
「ふー! ふー!」
罠を開こうとするが、バネの力で開きそうにない。刹那、ウル族の肉屋の顔が思い浮かぶ、腰に差してた短刀を罠のバネに突き立てた。それは勢いよく千切れ、罠は糸が切れた操り人形化のように力なく開いた。間違いなく折れている足の骨を、痛みにこらえながら正し、鞘に入れた短刀を添え木にする。まさかほんとに使う機会が来るとは思っていなかった。
万が一の時の鎮痛剤を一錠のみ込み、小川の音がする方へ行く。霧が濃く先は一寸も見えていなかった。もうだめかもしれない、ここで諦めて楽になってしまってもいいのではないか、そう思った。が、
「お前に最後の希望を託すぞ…ワール」
はっとする。一瞬長老がいた気がした。辺りを見回しても誰もいるはずがなく、少し向こうから小川の流れる音がする。
必死に這って森林を抜け出ると、霧のかかった川、先ほどの滝の上に来ていた。痛みをこらえて川の冷水に骨折して、内出血している足をつける。痛烈な痛みを感じつつも、このままじゃ壊死するかもしれないのでひたすらに耐える。
「どうしたのですか?…迷えるラビ族よ」
ふいに声をかけられ、苦悶の表情で声の方を見る。そこには見たこともない超身長の精霊、まさに伝承歌に挿絵で描かれていたかのような存在がいた。
「あ…あぁ、あなたは、貴方様は」
「まずはその足を、壊死してはいけません」
ドライアドは緑色の果実を渡して、一歩下がる。それをかじるとみるみる元気が出てくる。足も治っており、小川の冷たさが残る。
「冷たっ!」
「治ったようですね、ここは我らがドライアドの管理する土地ですがあなたの住むのに適した気候には思いませんが…何かあったのですか?」
ワールは事の顛末を話す、話しているうちに涙で顔はグシャグシャになってしまった。
「それはなんと…ではあなたはその故郷を思い浮かべてください。参りましょう」
目をつぶって荒廃した大地を想像する。次の瞬間焦げたような匂いが、鼻を突く。目を開けると故郷の村についていた。しかしすでに生きているのは自分だけで、どの家も焼けてしまっている。
「この村を再生するのですね?」
もうワールの胸の内は決まっている。
「お願いします」
ドライアドは黄色い果実を地面に植え、この大地に雨を降らせる。植物が育つのに必要な好条件の天候が、数年続いた。
:村婆さんの昔話:
昔々、この村の下になった村は飢饉が起き、隣村とそれは恐ろしい紛争になったそうな。生き残ったのはただ一人、族長からの伝承を聞き、果てはキト族の街にありし大図書館に行ったそうな。そこで見つけた伝承歌、
森は静まり
己は精も根も尽き果て
小川のそばで死に瀕した時それは顕現せり
この歌を頼りに、狼に襲われ、罠にかかり、命からがら小川の辺で気が遠くなったその時、伝承にあったドライアドなる精霊が顕現したのじゃ。
黄色い果実を齧るとみるみる体の疲労は消え、怪我も完治した。そして金色に輝きし果実を持ち帰り、この大地に埋め、栄華を広めた。それがこの街の最初じゃった。
村婆さんの話を子供たちは毎日のようにねだり、そして聞き入っていた。
町の中心には彼の石像があり、後ろには繁栄の象徴とする大木がそびえていた。




