浮上開始
9番の刻印がされた階段が、ゆっくりと動き始める。浮遊感と共に恐怖が来て、手すりにしがみつく。
「ははっ、君は浮遊階段初めてかい?」
ホク族が、ワールの背中を叩く。不思議と恐怖は無くなった。
「ここに来るの自体、初めてです…」
「まぁここは色々な本があるから見ていくがいいさ。でも、盗もうなんて考えない方がいいよ」
「そんな気ないですが、なぜ?」
「ドク族のシェパード種のガードが待機室にいるんだ。逃げようとしても無理さ」
確かにシェパード種は警備員として働いていることが多いし、実際御用になっている泥棒に白い目を向けたこともあった。そんな回想をしていると、階段は5分かけて浮上し、大きな振動もなく接続される。
「さ、9階は歴史的書物が多いんだ。僕はこのまま調べ物をしに行くよ」
ホク族の男性はそう言って、手を振って去っていった。階段を上がり、9階へ降り立つ。
ドク族のチワ種が横を通ってCと書かれた方向へ、走っていった。すぐさま館内放送で、
「館内を走るのはおやめください」
と放送された。
チワ種とは反対方向にA列があるようで、ゆっくり向かっていく。手すりから下を見ると、大きな空洞で1階のカウンターへの列が小さく見える。
「A-H…あった」
A列の奥の方、壁にくっついている本棚の列が目的の列だ。一番奥まで行って、まずは上の棚から探し始める。
「うーん、ポセイドン。ハスター、竜神に人面樹…見当たらないなぁ」
徐々に下へ下へ下がっていくにつれ、樹木関連の書物になってゆく……気が付けば棚丸々一つ見終わっていた。無い。何処にも無い。頭を悩ませていると、手すりの横に青いボタンがある事に気が付く。ためらいながらも押すと、ピーンポーンとインターホンの音が鳴る。
「はい、司書室のレンですご用件は手短に」
先程案内してくれた。司書につながり、どういう技術なのか驚く。下をのぞき込んでも線の様な物はない。
「あのさ、下見降ろしてもなんもないよ。通話魔法だから、それと要件、他の人の案内止まってる」
「す、すいません! えと、関連記事がないのですが……」
「はぁ…エラ・トレラ」
本棚の奥で、黄色く光っている書物がある。
「後ろ見てくれる? それだから」
ブツっと通信が切れ、『次の方!』とスピーカーで大声で叫ぶ声が聞こえた。あの小声からは思いもしない大声だ。黄色く光った本は、ワールの胸元に飛んでくる。表紙には、
”ドライアドの伝承歌”
と書かれた本が出てきた。手に取ると光は、ぱぁっと消え去ってゆく。
「ドライアドの伝承歌?」
表紙を開くとドライアドを歌った詩人の言葉が綴られていた。中には本当に出会ったという文言まであり、霧が深く、彷徨い、辿り着いた湖のほとりで出会ったという内容が謡われていた。
9階から降りるために階段に、手には伝承歌の本を持っている。司書の列に並び、列番号を配る鳥に対して、
「青い司書さんに貸し出しを」
鳥は一度カウンターに戻り、青色の列番号を渡してきた。
「青番号2番さんどうぞ」
「さっきはありがとう…」
「早く本出して、どのページ? 書き写すから」
「え?」
なんと貸し出しとは本自体ではなく、複写した文章であった。
「はやく、後ろ何人いると思ってんの」
「えっと、詩の部分を」
「はいはいもういい」
さらさらっと書き始める。キト語で書いた後に、ラビ語に再翻訳してくれたものをずいッと渡される。
「返却期日は一か月以内。返さなければ追跡魔法で近場の図書館ガードが捕まえるから。あと返却はどこの図書館でもいいから、じゃあどいて。次の人」
さっさと行けという感じで手を振られ、カウンターを後にする。図書館の外に出て王国の地域図を見る。大森林と書かれた地域があり、詩の中に出てくる地域にもおおよそ目星が付き、そこを目指すためにまずは市場へ向かった。
登場人物
・ワール
ラビ族。大きなウサギの耳を持ち、時折ロップイヤー種と呼ばれる耳が垂れている特別な種が生まれることもある。
彼の村は、食糧難から来る紛争に巻き込まれた。村長は死の間際にワールにドライアドの伝承を伝え、彼を隠し穴から逃がした。以来3年にわたって世界を飛行船(定期旅客便)で渡り歩き、伝承の書物が無いか探している。
・王立図書館の司書三人
キト族、猫耳の種族で瞳孔の動きしっぽの動きで感情が読みやすい種族でおなじみである。
元気いっぱいな朱色の制服リツ、
ぶっきらぼうで青色の制服レン、
とてもおだやか緑色の制服ミャーチ。
この三人が本を自分で探すより司書に聞く方が間違いないと聞きに来る軍勢をさばいている。どの司書にも固定のファンが存在し、誰に当たるか毎日ワクワクしながら来館する者もいる。(もちろん読書もするが…)




