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断罪された悪役令嬢は、キモオタ狂信者の妻となり、匿名で推し王子を救うことにした


第五章 狂気を躱す知恵


1. 絶体絶命の盤面


コルテスが持ち帰った情報は、絶望的だった。レオンハルト王子とその取り巻きは、ルイス王子への匿名の手紙が「追放されたアリシアの残党による反逆行為」であると断定し、次の投函時に手紙の運び屋を捕らえるべく、厳重な罠を仕掛けていた。


「貴様が提供した『情報』は、ルイス王子の危機を回避するが、同時に我の存在を危機に晒す。このパラドックスこそ、呪詛の構造である、デュフフ!」


コルテスは、血と泥の乾いた傷口を無意識に掻きながら、熱狂的な眼差しでわたしを見つめた。


「貴様は道具として、最善の策を導き出せ。貴様が次の献策を中止すれば、ルイス王子の運命は確定し、ヴィオラ様は悲劇へと収束する。しかし、続行すれば、我の『肉体という道具』は捕らえられる」


わたしは頭を抱えた。ルイス王子を救うには、コルテスという狂信的な実行者が不可欠だ。


(ルイス様を救いたい。でも、この男が捕まれば、わたしはこの地獄のような生活から解放される……。しかし、コルテス様を失えば、わたしの努力は誰にも評価されず、ただの無駄になってしまう!)


わたしの葛藤は、「推しへの愛」と「コルテスとの共同作業で得た自己の価値」の板挟みだった。彼女は、コルテスを失いたくないという、新たな感情が芽生えていることに戦慄した。


2. 狂気を逆手に取る「究極の献策」


わたしは一晩中、コルテスの狂信的な行動原理を徹底的に分析した。


(コルテス様の最優先事項は『ヴィオラ様の救済』。そして、彼自身の『自己の肉体』は、『汚れた道具』でしかない。彼が最も嫌うのは、『合理性のない行動』であり、最も喜ぶのは『狂信的な論理の勝利』だわ!)


夜明け前、わたしは決断を下し、コルテスに告げた。


「次の献策は、ルイス王子の危機を救うと同時に、コルテス様を捕らえる罠を、あなた自身に利用させるものです。献策の投函は、予定通りあなたに行っていただきます」


コルテスは目を輝かせた。「デュフフ! それこそが、真理の探究者の思考である! 続けろ!」


わたしが練り上げた策は、「ルイス王子への献策」ではなく、「レオンハルト王子側の罠の構造を、コルテスの狂信的な行動で歪める」という、極めて危険で歪んだ二重の策だった。


· 献策の内容: 今回は「ルイス王子の窮地」を直接救うものではなく、「レオンハルト王子の陰謀の鍵となる場所」を、ルイス王子に『不運な偶然』として発見させる情報。

· コルテスの役割: コルテスは罠にかかる場所へ向かう。しかし、その時、手紙には「今回の手紙は、王子のためのものではない。この場所に存在する『世界の呪詛の根源』を解体するための儀式である」という厨二病的な狂気の文章を添える。


3. 実行:狂信者の証明


わたしは、コルテスに「この策が成功すれば、あなたの狂信的な論理が、王都の凡庸な貴族を打ち負かし、ヴィオラ様救済への確固たる一歩となる」と説得した。


コルテスは歓喜した。「最高の自己犠牲であり、最高の合理性である! 貴様は最高の『道具』でござる!」


そして、コルテスは罠が仕掛けられている場所に、自ら向かった。


コルテスが罠にかかる瞬間、彼を待ち伏せていたレオンハルトの護衛たちは、手紙の内容を読んで困惑した。手紙に書かれていたのは、国家の機密ではなく、「深淵の呪詛を解体するための術式」のような、意味不明な狂信的な文章だったからだ。


彼らがコルテスを捕まえようとすると、コルテスは醜態を晒しながらも、狂気の笑いをあげて叫んだ。


「ククク! 我は貴様らの『凡庸な嫉妬の呪詛』など眼中になし! 今こそ、『世界の不当な摂理』を解体し、ヴィオラ様の悲劇を書き換えるでござる!」


その狂った様子と、手紙の異様な内容に、護衛たちは「触れてはならない、本物の狂人」だと恐れをなし、彼を捕らえることに躊躇が生じた。


4. 危機からの脱出と新たな信頼


護衛たちの隙を突き、コルテスは、彼らが罠を仕掛けた場所に、わたしが仕込んだ「ルイス王子が偶然発見する情報」を設置し、醜く泥まみれになりながらも、命からがら別邸に逃げ帰った。


彼は、捕まることの屈辱ではなく、「自分の狂信的な論理が、王都の貴族の合理性を打ち破った」ことに満足していた。


「貴様の知恵、見事である。貴様は、我の狂信を、この世界の常識に勝る武器に変えた。我の最高の『道具』である」


コルテスは、感謝でも愛情でもない、純粋な「道具への賛辞」をわたしに送った。


わたしは、自分の知恵が、この狂信的な男を助け、ルイス王子への道を切り開いたことに、強烈な自己肯定感を覚えた。そして、「ルイスのため、そして自分自身の価値のために、この男といるしかない」という、歪んだ運命共同体の意識が、二人の間に確固たるものとなった。


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第六章 ヒロインの登場と、観測対象の異変


1. ルイス王子の「不運な偶然」


コルテスが命懸けで設置した「ルイス王子が偶然発見する情報」は、完璧に機能した。


ルイス王子は、レオンハルト王子が仕掛けた罠の場所を、あたかも「不運な偶然」によって通りがかったかのように発見した。そこで彼が見つけたのは、兄であるレオンハルト王子が、国政の機密情報を利用して私腹を肥やし、さらに自分を貶めようとしていた決定的な証拠だった。


「これは……! アリシアが予言していた事態か。あの匿名の手紙は、兄上の陰謀を知らせていたのか!」


ルイス王子は、献策の差出人が、自身の危機だけでなく、兄の不正についても警告していたことに気づく。ルイスは献策者を「影の救世主」と信じ始め、彼への信頼はさらに深まった。


しかし、コルテスの狙いはルイスの感謝ではない。ルイスがレオンハルトの陰謀を暴いたことで、「世界の摂理」が動き出す。


2. ヒロイン・ヴィオラの登場


ルイス王子が公然とレオンハルト王子の不正を告発した結果、王家の中で大きな混乱が生じた。レオンハルト王子は糾弾され、彼と関連の深かった貴族の令嬢たちは、連座で立場を危うくすることになる。


その混乱のさなか、一人の少女がルイス王子の庇護を求めて現れた。


ヴィオラ・フォン・ミュラー。


彼女は、レオンハルト派の没落貴族の令嬢であり、ゲームの真のヒロインだった。清らかで、少し内気で、しかし芯の強い美しい少女。彼女の登場は、コルテスの狂信的な観測室に、激震をもたらした。


「デ、デュフフフフ……! 観測完了! これぞ、『呪詛解体の臨界点』である! ヴィオラ様が、悲劇的な運命を回避し、ルイス王子と接触した!」


コルテスは興奮のあまり、血の滲んだ傷口を掻きむしりながら、祭壇のヴィオラ人形たちに向かって祈りを捧げた。


「貴様、見たか! 我の『深淵の解体計画』は、ついにヴィオラ様を『ルイス王子の隣という、本来の輝く場所』へ導いたのだ!」


わたしは、自分の「推し活」の究極の目標と、夫の「狂信的な探求」の最終目的が、ついに「ヴィオラとルイスの結びつき」という形で実現したことに、複雑な感情を覚えた。


(よかった……ルイス様は救われた。でも、この男の目的が達成された今、わたしの価値は……?)


3. コルテスの異変と、道具の役割の終わり


ヴィオラがルイスの隣に立ってから数日後、コルテスの行動に異変が生じ始めた。


彼は、これまで決して怠らなかった情報収集をサボり始め、ただひたすらにヴィオラ祭壇の前で座り込んでいる時間が長くなった。研究室には、悪臭に加え、腐敗臭のようなものが漂い始めている。


「コルテス様、ルイス様への次の献策が必要です。レオンハルト王子はまだ諦めていませんよ。それに、ヴィオラ様は公の場に出たばかりで、まだ不安定な立場です」


わたしが危機感を覚えて促すと、コルテスはヴィオラ人形を見つめたまま、上の空で答えた。


「もはや、『情報』は不要である。貴様の『道具』としての役割は、ほぼ終えたでござるよ」


「な……」


「ヴィオラ様は、ルイス王子の庇護の下にいる。残るは、『ルイス王子に刻まれた深淵の呪詛』そのものの解体。これは『肉体的な接点』が必要な最終段階である。貴様が提供する『知の刃』は、もういらんでござる」


コルテスは、「道具としての役割の終わり」をわたしに突きつけた。わたしは、ルイスを救った安堵と、役目を終えた後の自分の存在意義の喪失という、二重の絶望に襲われた。


4. 孤独な夜と、残された情報


その夜、コルテスはヴィオラ祭壇の前で寝袋に包まり、わたしには見向きもしなかった。


わたしは隣の小部屋で、孤独な夜を過ごす。彼女の努力は報われ、推しは救われた。しかし、彼女の生活は地獄のままで、しかも「地獄での存在価値」を失ってしまった。


(推し活は終わった。わたしはもう、この狂人に必要とされない……。この別邸にいる意味はない)


わたしは、逃亡を考えた。しかし、彼女には行くあても、資金もない。唯一残されたのは、コルテスが過去に収集した膨大な情報の山だった。


わたしは、コルテスの机に残された羊皮紙に目を落とす。それは、「ルイス王子の呪詛」に関する最終観測結果だった。


そこには、恐ろしい真実が記されていた。


「ルイス王子に刻まれた『深淵の呪詛』は、ヴィオラ様が彼の隣に立つことで、一時的に沈静化する。しかし、呪詛は消滅せず、『愛情という形で、毒を伴いながら』、ルイス王子の精神を蝕み続ける……」


「真の呪詛は、ルイス王子が『ヴィオラ様を愛する』という行為そのものにある」


わたしは愕然とした。わたしの「推し活」は、ルイス王子をさらに深い呪詛の闇へと突き落としていたのだ。

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