◆死んでも生き返る世界。
塾長との手続きを終え、二階の教室に案内された四人。
ドアの横に掲げられた銀色のプレートを見て、全員の顔が同時に固まった。
《バナナ組》
剣吾が素で叫んだ。
「はぁ!? なにこれ! 俺らのあだ名だったよな!?」
弓菜は額を押さえ、今にもため息がこぼれそうな顔をする。
「……最悪。冗談だと思ってたのに、公式になってるじゃない」
槍真は、あくまで理屈を探そうとする。
「つまり、我々は正式に“バナナ組”として登録されたわけだ。教育的意図があるのだろうが……屈辱的だ」
魔李は今にも泣きそうな顔で、唇を震わせる。
「……やだぁ……友達に知られたら……恥ずかしい……」
四人の視線を一身に受けながら、ゴリラ先生は堂々と胸を張った。
「いいだろう? バナナ組! 伸びしろたっぷり、丈夫で甘く育つ果実のように!」
沈黙。
冷ややかな視線が突き刺さる。
しかしゴリラ先生は一向に気にせず、誇らしげにプレートを指差していた。
・・・
教室に入り、机に腰を下ろした四人を前に、ゴリラ先生の表情が急に引き締まった。
その視線だけで、四人は自然と背筋を伸ばす。
「いいか。ダンジョンに挑む以上、覚えておけ」
声は低く、でも力強い。
「死ぬことを避けられない場面もある。だが――死を軽く考えてはいけない」
剣吾が口を開く。
「でも先生、ダンジョンの中ならリスポーンできるんだろ? 動画でも何回も見たし、死んでも戻れるじゃん」
弓菜も頷く。
「そうそう。配信者だって“死に芸”で笑いを取ってるし、スポンサーも付くんだし」
槍真は理屈で補足する。
「統計的には、リスポーンが禁止されているわけではない。死んでも戻ってくる以上、死の価値は相対的に低下する。合理的に考えれば――」
魔李ですら、小さな声でつぶやいた。
「……戻ってこられるなら……そんなに怖くない、かも……」
その瞬間、ゴリラ先生の瞳が鋭く光った。
普段の豪快な笑顔は消え、どこか濁りのある視線が教室全体を包む。
「違う。死は、軽く扱うものじゃない」
掠れた声に力が込められる。
「死ぬこと自体は避けられないこともある――だからこそ、可能な限り死なない選択を選べ。死に慣れてはいけない。何度も死んで、平気になってしまったら、心が……どこか空っぽになる」
四人にはそれが、オカルトめいた話のように響く。
でも、机の上で握りしめられた拳と、全身から放たれる圧は、理屈では測れない重さを持っていた。
「だから――軽く死ぬことを考えるな。危険を避け、判断し、できる限り死なないよう行動しろ。命を大切にするとは、そういうことだ」
教室に重く静かな沈黙が落ちる。
剣吾は唇を尖らせ、弓菜は眉をひそめ、槍真は眼鏡の奥で首を小さく振り、魔李は俯きながら手を握った。
“四人の胸にはまだ、“死んでも戻れる”という甘い考えが残っている。
それでも――ゴリラ先生の言葉の奥にある得体の知れない影は、確かに刻まれていた。”