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74. 調査とは名ばかりで



新エリアの1階層へ繋がる通路に入った途端、空気が変わった。


湿り気を含んだ粕屋七号特有の冷たさに、熱が混じっている。



水の匂いのはずなのに、硫黄の様な匂いが混じり、喉の奥が乾くような気配がある。


異常事態ではあるものの、左程気にするものではないと経験のあるものほどそう考える。


だからこそ、ベテラン探索者たちは、顔を見合わせ、面倒が始まったっと眉を顰めた。



最前線に出ているのは、学生とルーキーたちだった。


通路の先、光源魔法の淡い灯りの中で、帝亞列島と緩風の調べの混成隊が動いている。



「右、反応あり。」


朝日大我が低く告げる声に無駄がない。

剣を構えた姿勢も、体重のかけ方も、すでに探索者のそれだった。



「了解。陽、左の水溜まり、足元注意な。」


「おっけー。滑り止め付与、三秒。」


日暮陽が即座に魔法刀へ属性を走らせる。

こちらも、手順が早く確認しっかりしているが時間は短い。


この動きは学生とはいえ、何度も同じ作業を繰り返してきた者の動きだった。


その少し後ろ。


朝日大弥は無言で木箱の荷物を背中に背負っている。


木箱の中は、回復薬、簡易結界杭、予備の魔力増幅剤。どれも重いものだが、大弥は弱音を吐かない。


歩幅を調整し、前線の邪魔にならない位置を維持している。


そして、いつでも指示があれば、調査隊と共に戦える様に、小盾で軽いものと取り回しのできる弓は小脇に抱えている。



(……兄貴達、すげえな。)


 目の前で動く兄たちは、もう完全に慣れている。帝亞列島の担当講師、新宮剣に叩き込まれたものはしっかりものになっているのがみて取れる。


最近は盾に気を取られていて、大我や陽の様子が目に入っていなかった。


改めて荷物持ちとして後ろから見ると、大弥や陽だけでなく、緩風の調べも昔よりも格段に動きが良くなっている。


大弥の心に、その光景はひどく心を掻き立ててくるが、ぐっと我慢する。



そんな大弥の様子を伺っていた真珠は、声をかけたくなるのを我慢して、目の前ことに集中する。


真珠の指先が震えているが、トラップ魔法陣の線を順番にしっかり解除している。



(……大弥の前で、失敗なんて、できない。)


真珠は途中そんな焦りが滲んだものの、息を整えて短く宣言をする。



「罠、解除完了……っ。」


真珠の宣言に、大弥はそっと真珠から視線を逸らし、他の緩風の調べのメンバーを見る。


普段自信がなさそうにしている金出響は、高校2年生とあって、兄達と変わらない程安定して指示を出し、指示以外の時間は無言で索敵を続けている。


大弥から見ても、弓使いとしての腕は確かで、視線は常に通路の奥。弓はまだ構えないがしっかり警戒を続けていて、いつでも引ける状態になっている。


調査隊最年少の津波黒凪は、魔力循環を切らさぬよう、一定のリズムで詠唱を続けている。大弥と同じ小柄で、年齢だけでなく背格好も調査隊で一番小さめな彼女の背中は、誰よりも安定して調査隊を支えている。


普段から物静かな乙犬瑠璃は、トラップの有無や万一の奇襲に備えている。大弥は彼女を昔から忍者か?だと思うほど辿るのに苦労する。それほど音を立てない足運びは、担当教師の勢門藍が何度も叩き込まれたのであろう。


大弥の脳裏に、緩風の調べの担当講師、藍のスパルタな様子がよぎる。


そんな講師達、新宮剣と勢門藍も今回の調査には参加しているが、講師としてではなく、ベテラン組と同じ場所で、一歩引いた位置で全体を見ている。

 

生徒に口出しはしないが、視線は常に生徒たちを追っていた。


2人の視線は言っている。時間はかかるし、確認も多い。確認を細かくすれば、動きは遅いが、大切なさことだ、一つも逃すなと。


その様子を、少し離れた場所から見ている者がいた。


城戸琥珀だ。指示を全て金出に押し付け、調査は魔力感知を維持したまま、静かに周囲を観察している。



(大弥は、ゴリラ先生と離れさせて、見る側ね。いい感じに状況把握してる。)


(中学生だって、今回の調査隊が何を求めているかの意図ありだって理解出来てるのに、このおじさん達は仕方がない人達だね。)


 視線の先には、ベテラン組と呼ばれるおじさん達。普段から声も大きく、ダンジョンで品がないと思われる人たちだ。


彼らは、苛立ちを隠しもせず、足踏みし、言葉にならない不満を漏らす。


若手の調査は遅いし、手順をマニュアル通りでながい。効率が悪い。なんて、そう思っている顔をしているなぁっと琥珀は思った。



琥珀は、ちらりと大弥と目が合い、ほんの少しだけ目を細め、これから起きるであろうことのために、己の口の前で人差し指を添えて大弥に向けて静かに微笑む。



(不安そうな顔はいらないよ大弥。今から起こることは、ゴリラ先生も把握済みだよ。)


確実にする仕事は、確かに最初こそ、遅く見えるし、省きたくなるのが人間のサガ。


だが、それを飛ばした者ほど、後で崩れる。



琥珀は、ベテラン組の背中を見る。


装備確認が甘い者がいる。彼らの壊れている道具が目についてしまう。


計測値を目視で済ませる者がいる。しっかり見ていないから、危うく落とし穴を踏むところであった。


いつも通りで判断する者がいる。ここは、いつものダンジョンと違うものの可能性だってあるのに。



(……見せてるんだ。)


ゴリラ先生は、わざと見せているのだ。


若手にちゃんとやっていないベテランの探索者の様子を。


そしてベテランと呼ばれる人が、何から省き、何を忘れ、どんな動きをしていくのかを。


そして、私たちがそうなっていかない様にっと警告を鳴らす様に見せつける。


琥珀はゴリラ先生の思考をなんとなく理解する。


この調査隊の計画は、探索省から出たもので、ギルド考案だ。


普通なら繋げないが、琥珀はゴリラ先生の思考回路がなんとなく読める。


認めたくはないが、似ている様に感じて仕方がないのだ。


ーーだから理解していまっていた。


ゴリラ先生は玄真と雷槍が揉め事を起こすことを理解して、何かのタイミングで指揮権を奪い、今回の授業を行う計画をしていたのではないか?



(流石に突き落とす時、迷いなさすぎて怖かったし。)


それに、仲原校以外の若手やルーキー、塾生達を見ても、ゴリラ先生に不満を持つよりも、ベテラン組の苛立つ圧に不満を感じている。



(おじさん達の参加者、悪評が高い問題ある人ばかり。これ、いっそ隠してなさすぎ。)


琥珀は呆れつつ、感知魔法を器用にそこそこ使いつつ、どっぷりと思考の波につかる。


玄真がゴリラ先生のこと、お気に入りであるのは有名な話で、琥珀は塾でも見かけている。



(雷帝が、噂を知っていて、塾長に挑発をかけてこの指導権を移す手伝いをした可能性は大いにある。)


(だって、雷帝とゴリラ先生は元恋仲で、いまだに雷帝に未練はあるみたいだし、ゴリラ先生だって何かしら特別扱いしてるし。)


挑発なんて簡単だよねっと目立たない程度に、調査しながら考える。


(下手したら、クレインってTHのダンジョンマスターもグルだね。だって、THハイスクールの優等生さん達も来てるもんね。)


別塾や、ルーキー達の様子を眺めつつ、脳裏に単純そうに全て筋肉が片付けてくれるといいそうな女性を琥珀は頭に浮かべる。



(ほんっと、怖いお人だなぁ。)


このままのペースでいけば50分くらいで新エリア2階層の大まか調査は終わるだろう。


途中で接触した魔物に対して、難なく連携を組んで倒していく同年代を見て冷静に考える。


1時間の制限時間も計画通りって、魔法か何かで確認したんだろうな。



(まぁ、だからこそ。これで終わりじゃないと思うのは、私の考えすぎであったらいいのに。)


琥珀はゴリラ先生の思考を読んだ先、嫌な予感を感じ取る。


予感が外れればいいと考えつつも、探索魔法を解いてこれからのことに体力を温存するのであった。



(絶対調査隊って名前の訓練だよね、これ。)

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