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71.三つ巴

粕屋ダンジョン7号の入り口は、異様な熱気に包まれていた。

大規模調査隊の集結。福岡の探索者界隈で知らぬ者はいない顔ぶれが揃っている。


「よお、姉さん。今日も一段と逞しくて美しいね。」


人混みを割り、華やかなオーラを纏って現れたのは、全国区の英雄――雷帝こと江辻雷槍だった。

迷いなく、一直線にゴリラ先生の前へ出る。


一拍。


そして、当然のように腕を回した。

腰に。

続けて、肩に。


久しぶりに会った相手への距離としては、明らかに近い。

だが、雷槍の動きには一切の躊躇がなかった。


「……ちょっと、ライ。」


文句は出る。

けれど、身体は引かない。


雷槍は腰骨の辺りに指を添え、軽く押す。

確かめるように。


「ここ。」

「違和感、ない?」


「ないわよ。」

「もう何年前の話だと思ってるの。」


そう言いながらも、位置を変えない。

雷槍の腕が離れるまで、ただ立っている。


今度は肩口。

鎧越しに、親指でゆっくりと円を描く。


「前に来た時、ここもやってたろ。」

「無茶して、血だらけでさ。」


「……あれは、あんたが突っ込ませたんでしょう。」


「結果的にね。」


軽口。

だが、視線は真剣だった。


「ちゃんと動く?」

「引っかかる感じは?」


「問題ない。」

「完治してる。」


雷槍はようやく腕を解き、一歩だけ下がる。

それでも、距離は近いままだ。


その光景を、少し離れた場所から見ていた男が、歯噛みした。

塾長――柚須玄真だ。


「……ゴリラ先生から、離れてくれないかな。」


声は低い。

怒りというより、抑えきれない苛立ち。


視線は、雷槍の動きに向いている。

腰。

肩。


雷槍は振り返る。


「確認してるだけですよ。」

「昔、派手にやってますから。」


その言い方が、余計に腹立たしい。


玄真の魔力が、静かに膨らむ。


「魔法展開――『氷柱旋盤アイシクル・レイズ』。」


鋭い音と共に、氷柱が地面を走る。

だが、雷槍の足元で止まった。


警告。


雷槍は一歩だけ下がる。

それでも、ゴリラ先生の射程からは外れない。


玄真は、それ以上踏み込まない。

魔法を解き、視線を逸らす。


少し外側。

腕を組み、険しい表情で立つ男がいる。


香椎防具店の香椎海翔だ。


(……なんで、そこまで触らせてる。)


視線は雷槍に向いている。

だが、疑念はゴリラ先生にも向いていた。


(嫌なら、止めるだろ。)

(なのに、黙ってる。)


雷槍が近い。

理由は分からない。

だが、特別に見える。


「……何してんだよ、あんたは。」


香椎の声は低い。

責めるようで、問いかけるようでもある。


雷槍は答えない。

ゴリラ先生も、何も言わない。


三人の間に、妙な沈黙が落ちる。


誰も、同じ距離には立っていない。

誰も、同じ理由でここにいない。


それでも、外から見れば。


雷槍が、最も近い。

まるで、長年連れ添った恋人のように。


その少し後ろ。

山のような荷物を抱えた少年が、その光景を見ていた。


朝日大弥だ。


腰に回された腕。

肩を抱く距離。


(……近い。)


胸の奥で、何かが静かに沈む。


雷帝。

塾長。

香椎。


ゴリラ先生を中心に、3人の男がゴリラ先生を取り合っている。


そのどこにも自分はいないし、何も為せていない。


愛を叫べば、同じ場所に立てるのだと思っていた。


同じ覚悟で、歩いているつもりだった。


大弥よりずっと遠くに居そうな男達でさえ、ゴリラ先生には見向きもされていない。



大弥は、無意識に一歩、前に出かける。


肩が上がる。

息を吸う。


(……あ。)


ゴリラ先生と一瞬目が合う。


ゴリラ先生は、確かに目があったのに、大弥を視界にも入っていない様に、そのまま大弥の横を通り過ぎていく。



「――俺は!!」


落ち着くためのため息をするつもりだった。

ただあまりにもな視線に、息を吐くつもりだったものは、音を乗せる。


「大弥!」

「待てって!!」

「今じゃない!!」


でもそれは、言い切る前に、大我が背後から捕まえ、真珠が腕を掴み、陽が肩を押さえる。


三方向から押さえ込まれて、大弥はじたばたする。


「放せって!!」

「今言わんで、いつ言うんですか!!」



大弥の近くの人だけが振り返るが、すぐ子供のじゃれあいだと、視線を切る。


大人達は、同情もしない。


大人達は、止めもしない。


今は、それどころじゃないっと言った冷たさ。


ゴリラ先生は人混みの向こうを見る。


「くそ!」


何でこんなに届かないのだろう。


大弥はめいいっぱい、歯を食い締めるのことしかできなかった。

続きがくどくなってしまったので、大きく直しました。

後半、ゴリラ先生視点から大弥視線に変更です。

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