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ダンジョン塾 名物 他人の不幸は蜜の味。

塾長室の外側でーーー。


塾長室に聞き耳を立てていた二人組は、人気のない休憩室に逃げ込んだ。


2人の影は駕与丁澪と扇橋蓮。

このダンジョン塾仲原校の教師であり、ゴリラの先輩たちである。


窓際のテーブルに腰を下ろすと、駕与丁澪が湯呑みにお茶を注ぎ、扇橋蓮に差し出した。


「……ぷっ。あー、笑いすぎて腹痛ぇ。なあ澪先生、聞いた? “バナナ組、良い名でしょう?”だってよ」

扇橋蓮は椅子にぐったりともたれかかり、まだ笑いを引きずっていた。


駕与丁澪は表情を崩さないまま、湯呑みに口をつける。

「聞いたわ。あの自信満々な声色……。あの子本当にいいと思ったのでしょう。でも塾長の“沈黙”で一瞬にして終わったわね」


駕与丁澪は、ゴリラの教育係でもあり、塾長の秘書代わりのこともする、書類整理の得意な教師である。教育係ともなれば、分かりやすいゴリラは声で様子が丸わかりだし、塾長である柚須玄真の人となりも知る彼女にとって彼らのお説教の展開などゆうにわかっており、2人の様子を見に行こうと言い出したのも、実は駕与丁澪の方からであった。



「な、あれは無言の鉄槌ってやつだな。俺なら三日は立ち直れねえ」

「ゴリ先生は、三分後には立ち直ると思うわ」


二人は目を合わせ、くすりと笑った。


蓮は湯呑みを軽く回しながら言う。

「でもさ、俺は逆に気になってきたんだよな。“バナナ組”って名前。あいつ、本気でチーム名に登録する気じゃねえの?」


澪は少しだけ肩を竦めた。

「可能性はあるわね。というより、あの子もうクラス申請はバナナ組だったわよ。でも、あの人、子供たちにとって分かりやすい言葉を優先するでしょうし。それに――」


一瞬、澪は言葉を止めて考えるように瞳を細めた。

「“バナナ”って、あの人にとって特別な響きなのかもしれない」


「はあ? なんだよそれ」

蓮が怪訝そうに眉を上げる。


澪はふっと笑みを浮かべ、わざとごまかした。

「さあね。ただ、あの人の発想は……根が単純で、子供っぽいところがあるから」


「子供っぽい、ねぇ。あんなゴツい体して中身は猿山のリーダー猿、か」

「リーダー猿というより、木登りをしてる大きな子供かしら」


二人はまた笑い、湯呑みを口に運んだ。


蓮は笑いを落ち着けながら、改めて真面目な顔で呟いた。

「でも、もし本当に“バナナ組”が正式に登録されたら……子供たち、嫌がるだろうな。最初は笑いものになる」


澪は小さく頷いた。

「ええ。だから、もしそうなったら私たちもフォローしないといけないわね。子供たちが拗ねたり、諦めたりしないように。」


「なるほど、優しいな。俺だったら“バナナ組”って呼ばれた時点で逃げ出すけど」


「優しいというより、信頼よ。すぐに注目の意味が変わるわ。……あと、蓮先生の場合は、逃げるより先に皮肉で返しそうね。」


「まぁ、あいつならやりかねんな、、、。あと、俺をなんだと思ってるんだ。皮肉屋じゃねえぞ」

「自覚がないのが一番の問題ね」


その言葉に、蓮はお手上げといった様子で両手を上げた。

「参った参った。……まあ、でもよ。あんなバカみたいな名前でも、リラ先生が付けたってだけで、案外子供たちは後から気に入っちまうかもしれねえな」


澪は、わずかに遠くを見るような目をして、柔らかく微笑んだ。

「そうね。叱られてもしょんぼりしても、最後にはまっすぐ立ち上がる人だから。あの人の名前なら、きっと子供たちの力になる……」


「……澪先生、さっきといい、今といいあのゴリラのこと買いかぶりすぎだろ?」

「ええ、そうかもしれない。でも、あの子はやり遂げるわよ?それくらい信じてあげてもいいんじゃない!」


その言葉に、蓮は肩をすくめて笑った。

そして湯呑みを飲み干し、机にコトリと置いた。


「よし、腹筋はまだ痛ぇが、仕事に戻るか。説教が終わる前に書類片付けとかなきゃな」

「ええ。ゴリ先生が戻ってきたら、きっとしばらく落ち込んで動けないでしょうから」


二人は立ち上がり、笑みを交わして休憩室を後にした。

廊下の向こうでは、まだ「むむむ……」と呻く声が響いていた。

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