59. 頼れる先輩が変態だったので、脳が追いつきません
帝亞列島の先輩たちに囲まれ、混乱の極致にいた槍真が、ようやく絞り出すように声を上げた。
「……あの、ダイヤ先輩。先輩、本物ですよね?本当に東中の番長の、あのダイヤ先輩ですよね?」
「あぁ? おう、槍真やん!動画見たとよ!リラちゃん先生が担当講師なのズルか!あと、リラちゃん先生との神聖な会話を邪魔せんとってちゃ!」
うっとりとゴリラ先生を見つめる大弥に、槍真はバナナ組の面々を振り返り、必死に説明を始めた。
「ダイヤ先輩、学校じゃめちゃくちゃカッコいいって有名なんですよ!? ほんとに!嘘じゃない!」
「去年一年生の時に、入学早々犯罪予備軍な不良の三年生が武器ありで戦いを挑んで、先輩は素手で締め上げたって有名で!」
「一気に有名になって、喧嘩強いから、東中の番長って言われてる人です。でも硬派で、女子に目もくれないし、仲間思いで……男子からはバンチョーって慕われてるし、スポーツも万能でどの部活からも助っ人で引っ張りだこの、超ハイスペックな人なんです!」
槍真の熱弁しつつ、なのになのに!っと声を上げる。
「あぁ、その東のバンチョーなら俺も噂で聞いたことあるわ」
剣吾が大弥を見ながら会話を続ける。
「中学の勢力図を塗り替えた猛者が、これだからな。」
剣吾が指差したのは、ゴリラ先生にマジでもう一度眼科に行けと言われて、あなたの瞳というレンズ越しに世界を見たいっちゃん!っと支離滅裂な愛を叫んでいる、ただの恋する少年だった。
ゴリラ先生は深く、深いため息を吐いた。
「……大弥。その学校での様子とやらを、百分の一でいいから塾でも猫かぶってくれんか。そうすれば私の胃痛も少しはマシになる」
「そんなことできん! 隙を見せたらリラちゃん先生を、俺の女神を他人に奪われるかもしれんとバイ!」
「……口悪くてあれだが、ほんっと黙って欲しい。」
ゴリラ先生の氷点下のような冷たい視線が突き刺さる。
普通なら心が折れるような拒絶だが、大弥は逆にあぁっ! その蔑むような冷たい目も、ゾクゾクして最高ばい!っと頬を染めて悶絶し始めた。
「だめだこいつ……」
ゴリラ先生はついに片手で顔を覆い、天を仰いで崩れ落ちそうになった。
その様子を横で見ていた真珠が、呆れたように大声を出す。
「もう! ダイヤ、いい加減にしなさいよ! 先生が本気で困ってるでしょ!」
「おっ、シンジュ。相変わらずうるさかなぁ。お前も道場ば継ぐなら、リラちゃん先生くらいの覇気ば身につけんと……」
「あんたに言われたくないわよ! この変態番長!」
真珠と大弥が言い合いを始める中、琥珀がパンパンと手を叩いて場を仕切り直した。
「はいはい、そこまで。先生のライフがゼロになる前に、槍真くんの訓練の成果を見せてもらおうよ。先生もそれを視察に来たんでしょ?」
ゴリラ先生は琥珀の助け舟に…助かるとだけ返し、ようやく指導者の顔に戻った。
「そうだ。槍真。お前がどこまで司令塔としての動きが染み付いたかが見たい。シュミレーション人形使ってリアルなチェスみたいなことしようじゃないの。」
「……剣吾たちも、しっかり見ておけ。うまく行けば、面白いものも見れるし、バナナ組にとって、新しい幕開けの始まりかもしれないかな。」
槍を構え直した槍真の顔つきが、一瞬で真剣な探索者のそれに変わった。その顔を見たゴリラ先生はニヤリと笑った。




