58.症状は派手、結果は正常?
一行がシュミレーション室の重厚な扉を開けると、そこには熱気と鋭い金属音が渦巻いていた。
中央では、赤髪の巨漢・朝日大我と、黄髪でさらに一回り体格のいい日暮陽が、魔法槍を振るう槍真を相手に軽めの組手を行いつつ、その文言は長いなぁ。それは説明分かりにくいぞっと、槍真の指示の言葉についてアドバイスをする2人。
「お、ゴリラ先生!お疲れさんです!」
陽が陽気な声を上げ、魔法刀を鞘に収める。
リーダーの大我も足を止め、静かに会釈した。
帝亞列島の二人は、高校生とは思えないほどの圧がある。
「おう、大我、陽。槍真をありがとうな。槍真、調子はどうだ?」
ゴリラ先生の声に、汗を拭いながら槍真が駆け寄ってきた。
「はい!タイガ先輩もサン先輩もめちゃくちゃ強いし、話を聞いてくれて大変助かって……って、え!?ダイヤ先輩!?」
槍真の目が点になった。
自分の学校の人気者の先輩が目の前にいるからだ。
学校では硬派で最恐の番長として恐れられている一方、とても人気の高いあの大弥が、ゴリラ先生に俵のように担がれているのだから。
その時だった。担がれた衝撃か、あるいは大好きなリラちゃんの声を聞いたからか、大弥のまぶたがピクピクと動き、パチッと見開かれた。
「……ん、この、包容力のある腕に、良い花の……香り。」
大弥は、自分がゴリラ先生の肩に乗っていることを理解した瞬間、顔を真っ赤にして叫んだ。
「リラちゃん先生愛しちょうと!今日も美しか!結婚してください!!」
シュミレーション室に、番長の魂の咆哮が響き渡った。槍真はえ?ばんちょー?え?硬派で不良の?え?え?と脳の処理が追いつかず、完全にフリーズしている。
ゴリラ先生は、表情一つ変えず、一ミリの迷いもなく即答した。
「あ、無理です」
「秒殺ったい!だが、そこもまた凛としとって良か!!」
地面に降ろされた大弥は、ふらつきながらも熱い視線をゴリラ先生に送る。
その様子を見て、大我と陽は揃って深く頭を下げた。
「先生、いつも弟が……本当にすみません……」
「うちのダイヤが、ほんっと迷惑かけて……」
兄たちの謝罪を余所に、琥珀は腹を抱えて爆笑していた。
「あははは!ほんっとお前は趣味が悪いな、ダイヤ!」
「うるさか!俺には、あなたが女神に見えるけん仕方なかっちゃ!!」
大弥が拳を握って熱弁すると、ゴリラ先生は冷徹に言い放つ。
「眼科行け」
「これに関して、隣の病院行ったっち、脳外科と精神魔法科に回られて『問題ない、めっちゃ健康。』っち言われとるけん大丈夫ちゃ!」
大弥が自信満々に診断結果(?)を突きつけると、ゴリラ先生の額に青筋が浮かんだ。
「待て、いつそんな所に迷惑かけに行った!」
「女神に狂わされて、胸がいっぱいになったちゃ!!」
「おい、提携先に謝らんといけんけん、詳細を吐け!!」
崩れ落ちそうになるゴリラ先生の背後から、琥珀が追い打ちをかけるように笑った。
「あ、それなら既に玄真塾長が頭下げに行きましたよ。受付で、俺はゴリラに恋をした!って堂々と宣言してたらしいですから」
「いや、堂々と何宣言しとんお前!!」
ゴリラ先生は、かつてないほど激しく頭を抱えた。
その光景を見ていたバナナ組の三人は、思わず顔を見合わせてヒソヒソと囁き合った。
「……あぁ、本当に。先生が言ってた、火にガソリン注いで炎魔法ぶつけてる感じって、こういうことか……」
剣吾の呟きに、弓菜も魔李も、深すぎる同情を込めて頷いた。
一方、真珠だけは頬を膨らませ、不機嫌極まりない顔で大弥を睨んでいた。
「もう、バカダイヤ……起きて早々、本当にバカなんだから……」
混沌を極めるシュミレーション室。槍真だけが、憧れの先輩の変わり果てた(?)姿に、まだえええええ……っと困惑の声を漏らし続けていた。




