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56. 毒刺し蜂蜜とゴリラ


盾の訓練室に、ゴリラ先生と弓菜、魔李、真珠が足を踏み入れた。


室内には、まだ興奮冷めやらぬ様子の剣吾と、清々しい顔の琥珀が立っている。


奥の床には、睡眠矢で眠らされた朝日大弥が横たわっていた。


剣吾は扉から入ってきた一団を見て、怒りをぶちまけた。


「なんで俺に矢を向けるんだよ!」


「それに、ゴリラ先生とユミナとマリまでグルだったなんて!人からかうのもいいかげん?にしろって!」


ゴリラ先生は剣吾の拙い日本語の混ざった怒鳴り声を無視し、横たわる大弥を足先で軽く小突いた。


「はっは!良くお眠りで。」


「剣吾ー、大きい声を出すと、このバカまた起きて喧嘩になるぞー。せっかく寝かしつけたんだから、静かにしてなさいねー。」


大弥に対するゴリラ先生は、教育者あるまじき態度である。


大弥を足蹴にする様子に、真珠の顔が怒りで赤くサッと変わった。


「ちょっとゴリラ先生!」


真珠は釣り上がった目を隠すことなく、大きな声を上げた。


「大弥は確かにアホでバカだけど!いくらなんでも、当たりがきつくないですか?それに、足蹴なんかして!」


真珠は慌てて大弥に駆け寄り、床に座り込み、大弥の頭を膝に乗せてそっと抱き抱えるように守った。


ゴリラ先生は真珠のその反応を見て、ニヤリと笑った。


琥珀はそんな妹の姿に、穏やかな表情で近寄った。


「シンジュ。先生は大人気ないから」


琥珀は、優しくて毒なんか吐かなさそうな蜂蜜みたいに甘く溶けたような優男と評されるその顔に、微かな笑みを浮かべた。


「先生も、もう少し人の大切な幼馴染みの扱いを丁寧にされてはどうですか?子ども相手だからといって、大人気ないのでは?」


その琥珀の静かで優しい毒に、バナナ組の三人は驚いて顔を見合わせた。


弓菜は、その堂々とした物言いに琥珀がひどく格好よく見えて、頬を微かに赤くした。


剣吾は、誰だこの兄ちゃん。ゴリラ先生と口喧嘩するし、ユミナの様子変だしと面白くなさそうに腕を組んだ。


魔李は、剣吾が不機嫌になっていることに気づき、そわそわと落ち着かない様子で二人を見ていた。


「琥珀くんや、ちょっと?」

ゴリラ先生は首を傾げて、琥珀を見る。


「あれ?何かありましたか?」

琥珀は優雅に惚ける。琥珀のその様子にゴリラ先生は、腕を組み直した。


「ほんっと蜂蜜みたいに甘く、甘く、甘ったるくて雑味なんてなさそうな顔面に対して、琥珀くんはほんっといい性格してるよ。」

甘いマスクの少年って琥珀みたいな顔面だよね?っと真珠や弓菜、魔李に問うと、女性陣はコクコクと頷き、剣吾はいけすかねぇやっと顔を顰める。


「君の妹や年下の幼馴染みのコレにも、同じようにその柔軟な性格を躾けて欲しいくらいだよ。」


「でないと教育的指導として、私がコレを手のひらの上でコロコロ転がさないといけないくらいには問題視されてるからね、このアホ。」


ゴリラ先生は、吐き捨てるように言うと、眠る大弥を指さす代わりに、再び足先を大弥に向けてトントンと鳴らし、大弥を指した。


「行儀悪いですよ、ゴリラ先生。」


ゴリラ先生の一貫して大弥への悪辣な態度に、琥珀は理由は理解しつつも変わらず穏やかな顔でチクリと刺す。


「それに塾長お気に入りなんて噂の先生が、大弥なんて手のひらでコロコロし出したら玄真塾長から睨まれません?この間もダンジョンでイケメンで有名な探索者と話してたら、塾長がソワソワしてましたし、、、。」


ゴリラ先生はめざといっと思いつつ、目を細めた。


「たっく。ちょっといい方向に実力出て、不安が減ると減らず口が増えるなお前は。塾長は昔馴染みだから、心配されているだけさ。それにゴリラにアピールする男なんてよっぽど悪食か、探索者として手が借りたいヒモ男だからほっておくさ。」


ゴリラ先生と琥珀の会話に何で恋愛話?転がすってなに?っと弓菜は首を傾げ、魔李はまさか!ゴリラ先生が恋愛ごと?っと聞き耳を立ててソワソワしている様子である。剣吾は話の内容が分からず、首を傾げ、この2人は塾長とゴリラ先生が兄妹なのを知らない?みたいだなぁ。おれはもう黙っとこうとうんうんっと頷く。


バナナ組の様子をそっと見たいゴリラ先生はごほんっとわざと咳払いをする。


「まぁ、琥珀が自信に満ちたということで、話を戻そうかな。」


ゴリラ先生は真顔に戻った。


「お前たちにも話をするが、緩風の調べは性質上便利屋扱いされやすい。」


「リーダーの琥珀が甘いマスクな優男なこともあって余計にね。でも持ち前の器用さと黒さ、物腰や若いのに、言いたいことは言える。うちの塾での顔でもあるパーティだ。覚えておきなさい。」


バナナ組の剣吾や弓菜、魔李の頭をポンポンと撫でたのちに、ゴリラ先生は大弥の膝枕をする真珠を見た。


「真珠も技術的なことも必要だが、大事な幼馴染みはアホだ。支えて扱い改善を求めるなら、今の琥珀くらい言い返せるようにしなさい。出ないと搾取されるぞ。」


真珠は、ゴリラ先生の真面目な顔に、冗談みたいな話だが、本当に気をつける必要があると言われているようで少し顔を顰めつつ、わかりましたっと返事をした。


「はい、そこのポカン顔のバナナ組、緊張とれたな!」


ゴリラ先生は場を和ませる笑顔を浮かべた。


「まずはそれぞれ、自己紹介をしようか。私はみんな大好き、ゴリラ先生だよ!」


その冗談に、再び全員がツッコミを入れた。


「それは知ってる!」


剣吾が苛立ちを隠さずに言う。


「この場にいるみんなね!」


真珠と弓菜が声を揃えた。

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