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54.馬鹿な喧嘩は、奇襲で止めろ。

「弓菜、真珠!go!」


ゴリラ先生の号令は静かだが聞こえやすかった。


耳障りのいい号令と共に、魔李の視覚魔法で透過された壁の向こうへ、琥珀が生成した睡眠矢が二本が放たれた。


訓練室内にいた朝日大弥は、矢が壁を通り抜けてくる直前、風を切る特有の鋭い音を捉えた。


(弓攻撃たい!しかも特殊魔法矢か!)


元弓使いである大弥は、その音だけで矢の種類と威力を即座に判断した。


警戒したのは最初のうちだけで、その後の矢の動きは、大弥にとってあまりにも緩慢だった。


矢は不規則に軌道を変えようとするが、速度が決定的に不足している。


大弥は余裕をもって盾を使いつつ回避した。


(この追跡魔法へったくそ!速度が出てねぇ。ふーたん温かぁ。おそいっち。何考えとうとや?この腕は…シンジュかいな?)

※ふーたん温い(ふうたんぬるい:のろま、鈍臭い)


大弥は、矢の動きから放った術者の癖を読み取る余裕さえあった。


弓菜と真珠の矢は、ゴリラ先生の補助を受けているとはいえ、まだ複合魔法に慣れていないため、追跡速度が全く乗っていないのだ。


大弥は容易に二つの矢を避けながらも、盾を構え、視線は目の前の剣吾から離さなかった。


「おい、ケンゴ!お前腰抜けなんか?襲ってこんとか?矢はこっちにしか来とらんぞ!玉ついとんっち聞きよっとたい!」


大弥は剣吾を挑発する。


これは、剣吾が盾を構えて守りに入るのか、それとも弓を操る者たちと組んで追撃に来るのかを判断するためだ。


もし剣吾が追撃に動けば、大弥はより近距離での対応を迫られ、苦戦は必至となる。


矢を避け続ける大弥に、弓菜と真珠は焦りを見せた。


「ユミナ、もっと右!魔力少なくて、速度が全然足りてない!」


真珠が焦って声を上げる。


「わかってるわよ!でも!」


弓菜も必死に風の魔力を矢に送り込もうとするが、まだ不安定だ。


その時、弓菜の矢が意表を突いた動きを見せた。


矢は急に失速して床に落ちたかと思いきや、ゴリラ先生の魔法補助を受けた途端に急上昇し、大弥の左足のすねをわずかに掠めた。


「ちっ!」


大弥は舌打ちをしたが、矢によるダメージは大した物ではないが、睡眠矢。


遅効性の魔法がだんだん効いてくるものである。


弓菜と真珠は初めての複合魔法に魔力を過剰に使ってしまい、矢はすぐに魔力が尽きて壁に当たって霧散した。


ここで、ゴリラ先生が動いた。


ゴリラ先生が魔法で弓を生成すると、琥珀の睡眠矢と魔李の補助魔法と繋げた。


「魔李!集中!でも、楽しむよ。」


ゴリラ先生が矢を放つと、その矢は先ほどの矢とは一線を画していた。


矢は訓練室の空間を縫うように、幾重にも複雑な螺旋を描きながら滑らかに動き、その軌道を変えていく。


そして、矢の周囲に巻き付く魔力の流れが、ぐるぐると回転しながら徐々に青白い光を帯び、速度を上げ始めた。


その圧倒的な速さに、弓菜が驚愕の声を上げた。


「すごい、こんなに早くなるなんて!」


一方、魔李は額から冷や汗を流し、息がだんだんと浅く、「はぁ、はぁ」と息切れしながら、ゴリラ先生の巨大な魔力の流れを自分の補助魔法を通して必死に感じ取っていた。


ゴリラ先生は、そんな魔李に優しいが厳しい声で指導した。


「魔李、もっと魔力の流れを学んで。この複合魔法は、お前の補助魔法の魔力回路が太く丈夫になるはずだからね。」



ゴリラ先生が魔李に追跡魔法の補助をさせたのは、魔李の魔力回路を強制的に鍛えるためだったのだ。


矢のスピードは目に負えないほど加速し、大弥が回避しようと身を翻すも、弓菜の矢を掠めたせいで、疲労感に近い眠気がどんどん増していく。


眠気が来ていた大弥は、スピードの乗った矢を避けることができず、矢は正確に真正面から彼の胸に打ち込まれ、大弥は力なくその場に崩れ落ちた。


ここで、剣吾の行動が始まった。


剣吾は冷や汗をかきつつも、盾を構えたまま眠り込んだ大弥に近寄り、周囲を警戒しつつ、盾を離さず大弥を庇うように見下ろした。


「おい、大丈夫か?」


剣吾は理解が出来ないなりに、刺さった矢が消えたことで、これは魔法で作られた矢であることは理解する。


ゴリラ先生は、剣吾のその行動を見て、満足そうに頷いた。


「成長したな。本当にあいつはスポンジのように吸収する。盾を構え続けろとは教えたが、大盾で仲間が倒れた時の庇い方はまだ教えてない。」


ふふっとゴリラ先生は愉快そうな笑い声を漏らして、次行こうかっと琥珀に声をかけたのだった。

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