49. 暴走の本質は、適性ではなく無理解にある。
更新が一か月以上滞ってしまい、大変申し訳ございませんでした。
楽しみにお待ちいただいていた皆さまに、ご心配とご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。
仕事が繁忙期に入り執筆時間を確保できなかったことに加え、使用していたパソコンが故障し、これまで書き溜めていた原稿の復元が難しい状況となってしまいました。さらに、その間に体調を崩してしまい、重なる事情からどうしても更新ができませんでした。
現在は書き溜めも進み、週1〜2回のペースであれば無理なく更新できる見通しが立ちましたので、改めて連載を再開いたします。
これからも楽しんでいただけるよう、丁寧に執筆を続けてまいります。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします
ゴリラ先生は、重い盾を抱えて呻き声を上げ続ける剣吾をトレーニングルームの扉の前で豪快に背中を押して中へ押し込んだ。
「よっし、剣吾!もし大きな怪我したらちゃんと連絡用ボタンで連絡して怪我見てもらいなよー! 」
「うおお!わかってますよ先生!雑すぎません!?」
「気のせい気のせい。取り敢えず、先生からは、限界まで頑張りなっとだけ行っておくね!」
その雑な対応は、初期の補習を経て構築された剣吾との信頼関係の証だった。
魔李はそんな剣吾とゴリラ先生の様子に、少し羨ましげな目を向けつつ、先に迷いなく歩く先生の大きな背中を追いかける。
剣吾の悲鳴を背に、ゴリラ先生は魔李と共に、魔李が魔力暴走をさせた部屋、魔法訓練場の一角にある防御魔法用訓練場へ移動する。
先ほどの暴走で一部壊れた部屋。
ゴリラ先生は軽く訓練場の壁を叩くと、用具箱出てきて、テーブルと椅子を取り出した。
先に椅子に魔李を座らせると、先生は先ほど剣吾を揶揄っていた時のような明るい表情ははなくなり、本来の目の鋭さが特徴的な真剣な顔で魔李を見る。
その顔に、魔李はぴくりと肩を振るわせた。
「さて、魔李。怖がらせたいわけではないけれど、君への指導は少し特殊になる。だからしっかり話をするぞ。」
ゴリラ先生は少し声色を固くして、話を切り出した。
「はっきり言って、今日の暴走寸前の様子を見る限り、君の魔力制御は子供の頃から上手くいっていないようだ。まぁ、だが、それは予測できたことだから、あまり問題ではない。想定内だと言っておこう。」
魔李は子供の頃からできていない魔力制御っと事実を言われ、肩を落とした。
(…想定通りと言いたいが、まさかここまでとはな。)
ゴリラ先生の心の中で、冷たい汗が流れる。
魔李の魔力暴走の規模と、その暴走のしやすさは、正直なところゴリラ先生の予想を遥かに超えていた。
(百道め! ゴリちゃん呼びして、私のことを親友やら友達やら言っているくせに、一番大事な話してないじゃないか!)
表情は魔李が不安にならないように、起こりたい衝動を抑えつつ内心文句を言い続ける。
(魔力暴走の対処なんて、魔道具で百道でも対応可能なはずなのに、相談なんてしてくるからおかしいと思っていたけど、、、この規模なら、もっと詳細に話しなさいよ!)
( 一応確認っと思って修行部屋説明ついでに魔李の能力確認をしたから良かったものの、もし何も考えずに修行させてたら死人が出ていたかもしれない大惨事よ!百道のおバカ!)
ゴリラ先生は、学生時代からの親友への危機感と怒りの愚痴を心の中で吐きつつ、気を取り直して魔李に向き直った。
魔李は、落ち込みと共に魔力を揺らしている。
きっと今日魔力を最大値で暴走させたことによって、小さな感情の起伏で魔力が揺れているのだろうっと予測は簡単にできる。
ゴリラ先生はため息を吐きたい気持ちに駆られたが、魔李は気にしてしまう性格なので、ため息は押し殺す。
「落ち着きなさい」
ゴリラ先生は魔李の小さな手を包み込む。魔李はゴリラ先生の大きな手と体温に落ち着いたのか、魔力を安定させる。
ゴリラ先生は魔李が動揺しないように、ゆっくりと話し始めた。
「君が抱える問題の真の深刻さと、私が君をここに連れてきた本当の理由を話す必要がある」
先生は周囲に誰もいないことを確認するように一度見渡してから、低く、重い声で話し始めた。
「魔李。魔法関係の暴走には、『魔法暴走』と『魔力暴走』の二種類がある。さっきも話したけど、もう一度確認しよう。大切なことだから」
魔李はゴクリと息を飲んだ。
「普通の生徒が起こすのは、ほとんどが魔法暴走だ。これは、魔法に変換された後の現象の暴走。最悪、命を落としてもリスポーンされるし、魔法治療も効くからまだマシだ」
ゴリラ先生は、魔李の瞳をまっすぐ見つめる。
「だが、君が起こすのは違う。魔力暴走だ。これは、魔力がそのまま暴発するもの。何度も言うが、魔力暴走は、君自身だけでなく、巻き込んだ者全員が身体変異を起こし、魔法が使えなくなる可能性、そして魔法治療・魔法薬治療が一切できなくなるという、極めてリスクの高いものだ」
魔李は顔を覆い、全身を震わせた。
「君の魔力暴走は、この危険な『魔力暴走』の方だ。そして、君の家系(大隈家)の出身から、君の魔力が魔法使いとして相応に多いことは知られている」
ゴリラ先生は、さらに声を潜めた。
「だが、君の魔力は、魔法使い一家の中でも特殊だ。制御できていない膨大な魔力を暴走させれば、ある意味、人間兵器爆弾として活用できる——なぜなら、君の魔力総量は、一流の魔法使いと呼ばれる者よりも遥かに凌駕するからだ。これは機密だ。外部には極秘扱いになっている」
魔李は、自分が仲間を危険に晒す存在であるという事実に、絶望の淵に立たされた。
「先生……私、私を追い出すために、他のみんなも一緒に退塾になったのでは? 私の、せい……」
「逆だ」ゴリラ先生は断言した。「魔李がいなければ、他の3人は探索者の夢をなかったものとされ、チャンスは訪れなかった。お前の存在は、彼らにとってこの塾に来るための切り札だったんだ」
「槍真は、魔李がいなければ、自分は仲原校に来れなかったと気づいて、今日、顔を顰めていたぞ。君はバナナ組にとって、チームの核であり、希望なんだ」
III. 下:長年の苦悩の解消と新たな目標
ゴリラ先生は、魔李の目を見つめ、再度、周りに誰もいないことを確認してから(魔眼の存在を隠したがっている)、自身の瞳を微かに金色に光らせた。
「さて、次はもっと核心だ。なぜ君が暴走するのか。私が君たちを視覚的に観察するだけでなく、少し特殊な方法で魔道回路を見ているからだ」
「これは他言無用にしてほしいんだが……私は、魔眼によって魔道回路や魔力の流れを見ることができる」
そして、先生の口から、魔李の**「魔法使い一家なのに、攻撃魔法が使えない」**という長年の苦悩の根源が語られた。
「魔李。君には、攻撃魔法を発動させるための魔道回路が、物理的に存在しない。それは、先天性のものだ。誰のせいでもない。君が今まで暴走していたのは、君の意思や努力不足ではなく、使えない回路に無理やり魔力を流そうとしていた、仕方がないことだったんだ」
この言葉は、魔李の心に刺さっていた長年の呪縛を、一瞬で引き抜いた。
「今までの暴走は、この先天性の欠如のせいだ。そして、ゴリラ先生の魔眼で魔李の魔力の流れを見なければ、この原因には一生気付けなかった。君はこれからも魔力を暴走させ、危うく大事故手前であっただろう」
未然に防げた未来の惨事、そして自分は欠陥品ではなかったという事実。魔李は、両手で顔を覆い、しゃくり上げながら泣き崩れた。それは、絶望の涙ではなく、長年の苦悩と恐怖から解放された、歓喜の涙だった。
「だから、君の修行の目的は、攻撃魔法が使えない体質を受け入れ、防御と支援に特化することだ。極端に言えば、どんな攻撃や命の危機に瀕しても、魔力を安定させ、防御と支援に特化することができれば、暴走しなくなる」
魔李の表情は、涙で濡れながらも、決意と希望に満ちていた。
「よし。今日の訓練はここまで。君の精神的な土台ができたところで、終わりだ。具体的な特訓は明日から。しっかり休んで、自分の新しい体質を受け入れるんだ」
魔李は、先生に深く頭を下げた。




