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46.ゴリラは霊長類最強である

防御魔法用訓練場に、肉が焦げ付くような嫌な臭いが立ち込めた。


嗅ぎ慣れぬ匂いに、槍真と剣吾は首をかしげる。


魔李はこの匂いが何かわかった。人間の身から魔力があふれ出し、体の中から人体の肉が焼ける匂いだ。


過去に何度も嗅ぎ、そしていまだに自分の体にまとわりつく匂いだ。この身から出る匂いで魔李は己の魔力が制御できていないことに気が付いた。


その瞬間、魔李の頭の中は真っ白になった。詠唱は途絶え、制御を失った魔力が歪んだ灰色のドーム状に不安定に膨張し始めた。


それは、魔力暴走であった。



「———ああ”。」

逃げてとはもう言葉にならなかった。恐怖が魔李を支配し声という声にならなかった。

槍真や剣吾、ゴリラ先生のほうに、己の身からあふれ出す魔力が迫るのが魔李には見えていた。



「——ほう。」

魔李の恐怖し切った目に、やはりかっと思う気持ちとここまでなのかと驚くゴリラ先生。魔力暴走の初期段階というには魔力量が多かった。

そして勢いもあった。魔李の魔力暴走は予想されていたが、魔李の暴走スピードは予想を上回っていた。


ゴリラ先生は起動魔石を外すには時間が足りないと判断し、魔石を強引に装置から引き離すために、魔石部分を蹴り上げた。装置はバリンっと甲高い嫌な音を立てた。


そしていつもより低く、速い声で呟いた。


「魔法盾スキル・結界」


瞬時に、魔李の周囲に二重の光の結界が展開した。


外側の結界は魔力拡散を防ぎ、内側の結界は、プルプルと揺れながら、魔李の体内から湧き出る不安定な魔力を容赦なく吸い上げる。


それは、結界自体が魔力を持つ生き物のように見えた。



ドスッという鈍い音と共に、魔李は地面に崩れ落ちた。魔力は完全に収束した。



剣吾と槍真は一瞬のうちに起こったことに唖然としていたが、魔李の崩れ落ちる様子にハッと魔李に意識を向けた。


「マリ!」

慌てた剣吾の心配そうな声と槍真の畏怖に染まってはいるものの絞り出した声はそろう。


剣吾は崩れ落ちた魔李の元へ駆け寄ろうとしたが、ゴリラ先生に視線で制された。


剣吾のその目は、ゴリラ先生に魔李の安否を必死に尋ねていた。


ゴリラ先生は結界を解除すると魔李を抱きかかえ、治療魔法をかけた。


魔李は意識を取り戻したが、極度の恐怖で全身が硬直していた。


隣で見ていた槍真は、冷や汗を拭ったまま固まっていた。

彼の頭の中では、ゴリラ先生が一瞬で行った「結界術」の分析が渦巻いていた。


(スキルとは、武器の技量エネルギーを魔法杖の代わりにして、魔力量と掛け算で発動させる魔法技能である。結界術は盾スキルの上位で、たぶん魔李の魔力を吸った結界は聞いたこともない。一部の人しか出現しないって言われている固有スキルの特殊な属性結界なんじゃ!?そうなら、こんな一瞬で上位スキルと固有スキルを同時使用の上に、二重構造の完全な制御して展開したことになる……この先生、一体どれだけ魔力制御が優秀なんだ!?)


(それに、あの勢いの魔力暴走ってことは、マリの魔力も異常値だぞ!?魔法使いが前に出されて魔法ができないことなんて珍しくないのに、マリが退塾なんて可笑しいと思っていたけど、本当は魔力暴走が理由なんじゃ!)


槍真は、自分たちの先生の底知れない実力と自分の想像に、激しい畏怖の念を抱いていた。


ゴリラ先生は、魔李を抱きかかえたまま、ちらりと槍真を見た。その槍真の表情が、「反抗期の中学生」の顔だけでなく、「強大な魔物と対峙する者」の顔に変わっていることに気づいた。


先生は、抱えている魔李の頭を優しく撫でながら、槍真に向かって冗談めかした口調で言った。


「すごく怖い顔してるぞ、槍真。さっきの結界のことか?」


「……はい」

槍真は素直に聞きたくない気持ちと、好奇心が変に混ざっていて、いつの間にか素直に返事をしていた。


ゴリラ先生は肩をすくめて答える。


「魔力暴走をさせがちな子は、魔力を吸ってしまうスキルや魔法で対処をする必要がある。福岡でできる人は、残念ながら、そんなにいないよ」


先生は少し間を置いた後、悪戯っぽく笑った。


(やっぱり…。それならマリは、スキルの中でも特殊なスキル、魔力吸収できる人でないと師事できない。そう、このゴリラ先生じゃないとマリは探索者になれない。もしかして俺たちとゴリラ先生との出会いって…。)

槍真はゴリラ先生の言葉に、認めたくない嫌な考えが浮かび、強く唇をかむ。


槍真が何を考えたか理解出来てしまったゴリラ先生は苦笑して話す。


「槍真は疑り深いな。私は、君たち4人とももったいない原石に見えた。そのことに優劣はついていないよ。」


「私は欲張りだから、すべてそろった君たちが見たいんだ。正確に周りが見れて仲間の支援ならこいつに任していいと思える弓使い。攻撃も守りも要であり、誰よりも仲間思いな剣士。魔法で守備や後方支援を担う魔法使い。そして、最後の一人になっても正確でぶれることないブレーンの槍使い。」


「どうしても生徒にしたかったんだよ。だから君たちを誘拐まがいに勧誘した。いいか、弓菜の様に感覚に振り回されている子を導き、魔李のように魔力の制御に不安がある子を指導し、剣吾のように体が成長についていけてない子を育て、君のように優秀さが裏目に出ている子を実力通りに調整する。私以外に君たちを立派な探索者にできる人もいるだろうが、君たちの成長に携わりたいと私が願った。」


先生は、剣吾と槍真、そして腕の中の魔李の顔を順番に見た。


「魔李も弓菜も、剣吾も、そして君、槍真も伸び代しかないからね。」


先生は自信満々に締めくくった。


「ゴリラ先生に任せなさい。安心して君達が強くなれるよう特訓してあげるからね。」


この、露骨なほどのバナナ組へのアピールと、自信に満ち溢れたからかい交じりの言葉に、槍真は思わず肩の力が抜けた。


先生は、自分の劣等感と強さへの畏怖に気づいたのだろう。


(なんだ、この人。本当に……すごい人だ……)


槍真の顔から、過度な緊張が霧散した。



「魔李は少し疲れたようだ。君たちの修行を今から始める。槍真のトレーニングルームへ移動するぞ」


剣吾は、未だゴリラ先生の腕の中で青白い顔の魔李を心配そうに見つめながら、先生に尋ねた。


「先生、マリは大丈夫なんですか?俺、ちょっと、マリが心配で…。」


ゴリラ先生は、剣吾の真摯な眼差しを受け止め、穏やかに答えた。


「大丈夫だ、もう目が覚めるさ。だが、このままでは何度も同じことになるだろう。」


「槍真の訓練場はスタンド席がある。見学して、休みつつ気持ちを…。起きたね、聞こえていたか?」


ゴリラ先生は、瞼がうっすら開いた魔李に声をかける。


魔李は静かにうなずくと、降りるとか細い声でゴリラ先生に行った。


ゴリラ先生は、そっと立たせるようにおろすと、魔李の近くをおろおろとまとわりつく剣吾を制する。

そして、剣吾の肩をポンと叩いた。


「お前の心配が本物なら、今は剣吾、お前が修行で強くなることだ。」


剣吾は、先生の言葉に頷き、魔李への心配を胸に押し込め、修行へと意識を切り替えた。


ゴリラ先生は、魔力暴走の不安が残る魔李を一人にさせないため、そっと魔李の背中を廊下を進んだ。



魔李は小さくごめんなさい。とつぶやく。



それを聞いた剣吾と槍真は振り返り魔李に言う。



「いいよ、問題ない。」


魔李は少し困ったように笑ったのだった。


毎日更新を目指してましたが、土日祝用事が立て込んでしまって更新できませんでした。

申し訳ありません。

明日も更新できるよう頑張ります。

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