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小規模塾は、意外に優秀


「さて、欠点がわかったところで、次はそれを克服するための環境に移るよ」


ゴリラ先生はそう告げると、バナナ組を連れて教室を出た。


向かうのは、塾の建物に隣接した、体育館のように巨大な倉庫のような建物だった。


建物の前で立ち止まり、ゴリラ先生が説明を始めた。


「ここが、柚須ダンジョン塾仲原校の根幹とも言えるトレーニングルームだ。」


「普段、君たちが使っていた教室や、軽くダンジョン探索前に手合わせした塾ビルの運動ルームとは違うから存分に驚きたまえ。」

ゴリラ先生の少し嬉しそうに話す様子に、子供たちが首を傾げ、魔李と剣吾がゴリラ先生に声をかける。


「先生、すごくうれしそう。」

「そんなにすげぇの?」

「玄真兄上の傑作だからな。」

にやりと笑い胸を張るゴリラ先生にあ、ブラコンっと弓菜は呆れたようにつぶやく。


その言葉は聞こえている筈の距離だったがゴリラ先生は機嫌を悪くすることなく、まあ色々いってなさいなっとスルーするのであった。




自動ドアが開くと、バナナ組は息を呑んだ。外観からは想像もつかないほど広大な空間が広がっていた。中央の広大なアリーナを囲むように、壁沿いに大小さまざまな部屋が並んでいる。


「わあ、エントランスだけでも広い……!トレーニングジムっていうか、もう迷路みたい!」

魔李が目を丸くする。



「エントランスから廊下はそのまま外周コースとなっているため、雨でも走り込みが行える。また、奥の部屋入り口は、砂利や坂になっていてダンジョン内を想定して走りこめるぞ。」


「各トレーニング部屋は、うちの塾に所属年数の高い生徒や講師陣も訓練に使用するほどの本格的な施設になる。トレーニングルームは全部で18部屋ある。それだけでなく、この施設以外にも、ダンジョン近くに集団演習場も持っているからな。」


ゴリラ先生は、すごく胸を張りながら、凝り性な玄真兄上が研究しつつ本気で作った施設だからっとにやりと笑う。


「まじだ。訓練場案内板、18部屋あるぞ!?」

剣吾がゴリラ先生の話もそこそこに、案内板の部屋数を数えて驚きの声を上げた。


槍真は、建物を見上げながら素朴な疑問を口にした。

「なんで、こんなに広いんですか?塾費って前通っていた大手ダンジョンHTハイスクールより安かったはずです。ダンジョン塾仲原校って塾生そんなに多くないですよね?ここまでの施設どうやって?」


ゴリラ先生は、槍真はそういうことやっぱ気になるタイプかっと苦笑いしつつ、これを言うと驚かれるんだがっと少し遠い目をして答えた。


「元々、この土地と建物は、私たちの祖父の工場跡地なんだ。ほら、スタンピートはこの辺被害が大きかったからね。それで、土地価格が下落してたから、玄真兄上はこの辺の安くなった土地も含めて買い上げ、工場跡地をすべて贈与して、塾を開講し、そのまま訓練場にしたんだ。」


まあ買い上げた土地よりほとんど祖父の工場跡地なんだけどねっとゴリラ先生の話に、子供たちは柚須家の財力のすごさを改めて感じた。


「高学年の生徒も使うから、使用ルールは守ること。特に器具は大切に使うように。まあ、今の高学年はすぐにダンジョンに潜りたがる子が多い傾向だし正確に難があるチームはいないけどね。時期的にトレーニングルームを使う生徒は少ないから、遠慮なく使えるよ。」


そう言いながら、ゴリラ先生はトレーニングルームを指差した。


「君たちの週2回のダンジョン探索は、このトレーニングルームの使用許可とセットになっている。この施設での訓練の後に、実戦を挟むことで、君たちの成長を安定させるのが目的だ。」



そして、ゴリラ先生は廊下の窓を開け、トレーニングルームの裏手、白く清潔な外観を持つ建物に目を向けた。


「そして、あの裏手にある病院。あれも親族が経営している。」


「え、病院が?」剣吾が聞き返す。


「うちは魔力持ちが多くてね。親戚の中に魔力による治療を行える者がいる。だから、あの病院は単なる病院ではなく、魔法治療院でもある。」

「怪我をしたら、私に連絡して。怪我の具合では、すぐに駆けつけられるように手筈になっているから、安心して訓練に励むこと。」


その説明に、剣吾が首を傾げた。


「先生、魔法治療院って、なんだっけ?」


その質問に、バナナ組の三人とゴリラ先生までもが一斉に剣吾にずっこけた。


「学校の授業でやらないの?」

「習ってますよ、何回も。」

ゴリラ先生の質問に、あきれた弓菜が即答する。



呆れた顔の槍真が、ため息混じりに説明を引き継いだ。


「だから、あれだけ学校でも、この間の駕与丁澪先生の授業でもやっただろ。探索者になるための最低条件に、魔力10以上が必要なんだ。魔力が10以下の場合、ダンジョンで具合が悪くなるケースや、ダンジョン内リスポーンがされないケースがあるからだ。」


弓菜もぷりぷりしながら補足する。


「そうよ!だから、魔力を持っていない人は、学校の遠足の小規模ダンジョン遠足とかでも、参加できなかったりするじゃない!あれって、命に関わることだからなのよ!」


魔李は、少ししょんぼりとした様子で、さらに付け加えた。


「まぁ、その魔力10以上あっても、探索者になるためには、付き添いなしで6人以下のチームで小規模ダンジョンの踏破条件とかあるから、これが出来ないと、探索者にすらなれないんだけどね、、、」



ゴリラ先生は、子どもたちを優しく見守り、結論を告げた。


「その通りだ。また、魔力10ない人たちには、魔法治療は効きにくい傾向にある。まぁ、ダンジョンに探索許可が出ているものであれば、魔法治療での治療も受けられる。つまり、魔力が10以上で、かつ魔法の使える君たちは、より専門的で効果の高い治療が受けられるって意味だよ。」


この辺の特例の話などは、時間のある時に、澪先生の授業に取り入れておくよっとゴリラ先生は話すと、さあおいでっと歩みを進めた。


ゴリラ先生は、トレーニングルームの奥にある、細長く縦に長い一室の扉を開けた。


中に入ると、入り口付近の約八畳のスペースに赤いタイルが敷き詰められている以外は、ただの荒野と、その奥に並ぶ止まったままの的が見えるだけだ。


「さあ、弓菜。ここは君のトレーニング場だよ。準備はいいかい?みんな、この赤いタイル内に入れ。」


弓菜たちがタイル内に立つと、ゴリラ先生は屈み、タイルの中に埋め込まれた青い魔石を軽く踏んだ。


「魔道具No.14 位置調整開始、前5、高さ3。魔道具No.15番 射的開始、レベル1. 動け」


ゴリラ先生が魔石に魔力を流し命令すると、周囲が微かに振動した。


ガコン、ガコン、という音と共に、赤いタイルが敷かれたスペースが地面から浮き上がり、部屋の中央に向かって滑り出し、さらに上へと高く上がった。周囲の的も一斉に動き出し、一定の規則に従って動き始めた。


「す、すごい!動いた!まるで空中要塞みたい!」

剣吾がはしゃぐように声を上げた。


ゴリラ先生は、浮き上がった足場の上で、部屋全体を見渡しながら説明した。


「ここは、弓使いの長距離・中距離戦の対応力を高めるための訓練場だ。この足場の位置を調整することで、乱戦での視界確保、長距離狙撃、中距離の連携など、様々な状況を再現できる。」


先生は再び魔石に魔力を流す。


「射的のレベルを上げると、的の動きが不規則になったり、ダンジョン内の魔物の動きを模倣した予測不能な動きをするようになる。弓菜はまず、レベル1の規則的な動きを。」


「ただ射ればいいなら簡単よ。」


「だろうね。だから弓菜には、目を閉じて射抜けるようになるのが目標だ。」


え?子供たちは驚いてゴリラ先生を見る。



「視覚と聴覚が過敏すぎて、情報処理ができていないなら、まずは問題点である視覚の情報に頼らずに処理できるようにする。」

「そうですね。」

弓菜の欠点を指摘した槍真は顔を引きつらせてうなずく。


「ある程度できるようになったら、次は聴覚をなくしてトライする。」

弓菜の聴覚過敏を指摘した魔李も引きつった顔をする。


「最後に実戦練習で、必要な時に必要な情報のみ引き出せるよう調整していく。」

ゴリラ先生の修行の厳しさを知る剣吾は、声も出さず、もはや顔を青ざめさせる。



「弓菜のトレーニングはこの流れで行くから。」

「冗談なしのマジで言ってる......?」

弓菜はしかめっ面でゴリラ先生に尋ねる。


「マジです。」

語尾にハートが付きそうなほどの、茶目っ気全開でゴリラ先生は大笑いしていった。


「まぁ初めて聞いたら、驚くだろうけど、弓使いはスキル取得すると五感が鋭利になって混乱する人が多い傾向にあるからね。、、、一流と呼ばれる弓使いは、同じような経験をするものは多い。」


「同じような訓練して視覚、聴覚、感覚の五感調整した弓使いを知っているから安心していいわよ。」


「それに、、、。」


ゴリラ先生が言いよどむそれに、全員がゴリラ先生の言葉を先生を見つめて待つ。



「このくらいの壁、簡単に乗り越えないと、ホークユナは名前負けするわよ。」

この言葉に、弓菜の表情は不安そうな顔からガラリと変わり、絶対こなしてやる!っと叫ぶ。


それをゴリラ先生は予想していたのか、にやにやと笑い、その様子にこわっと剣吾が口走る。

弓菜は聞き逃さず、剣吾を肘で突く。

魔李は、そんな弓菜と剣吾の隣でそっと尋ねた。


「あの、先生。私、魔李の魔法の訓練場も、こんな風になってるんですか?」


ゴリラ先生は魔李の方を振り返った。


「もちろんだ。詳しくは弓菜のスケジュール後に話すよ。」



ゴリラ先生は、二人に真剣な顔で修行スケジュールを告げた。


「今日から、弓菜は奇数日にこの訓練場で、視覚と聴覚の分離および射撃精度の特訓を行う。魔李も同じ日程スケジュールの予定だよ。」


「じゃあ、偶数日は?」

弓菜が尋ね、魔李も不思議そうに首を傾げた。


「偶数日は、二人とも基礎体力トレーニングだ」

ゴリラ先生の目が、一瞬光った。


「弓菜は、指摘された持続力をつけるために、魔李は、魔力伝導率を高めるための体幹強化と、トラップ設置のための機動力を高める。体から魔力が溢れ出るほど、しっかり体を動かすトレーニングを徹底的に執り行う」


二人は顔を見合わせ、その過酷なスケジュールに思わず息を飲んだ。


ゴリラ先生はニヤリと笑った。


「さあ、弓菜。トレーニング開始だ。まずは、目を閉じて的の音を聞くことから始めなさい。」


アイマスクを弓菜に渡して、弓菜も魔李も自主トレーニング中心だからっとゴリラ先生は魔道具を動かし入り口に移動足場を動かすと、弓菜を置いて次の訓練場に進むのだった。


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