バナナは好きではありません。勘弁して。
たどり着いたのは、「ダンジョン塾 仲原校」と書かれた建物だった。
バンッ!
扉を蹴破る勢いで開け放ち、ゴリラ先生が大声を張り上げる。
「拾ってきましたぁあああ!」
静まり返る室内。事務机の奥から顔を上げたのは、整った髪に冷ややかな目を持つ人物――塾長だった。中性的な容貌に漂うのは、凍てつくような威圧感。
「……何をしている」
低く抑えた一言に、剣吾の背筋が思わず震える。
しかしゴリラ先生は胸を張り、誇らしげに宣言した。
「才能ある落ちこぼれを、スカウトしてまいりました!」
塾長はしばし無言で彼女を見つめ、やがて深い溜息を吐いた。
「勝手な真似をするな。……だが」
冷たい視線が四人へと移る。氷の刃のように鋭いが、突き放すだけではない。そこにわずかな期待の色が混じっていた。
「君たちに、まだ可能性があるのも事実だ」
その言葉に、四人の胸の奥で何かが揺れ動いた。
塾長は机から電話を取り出し、次々に保護者へと連絡を入れる。
誠実で落ち着いた口調。叱責と責任を引き受ける姿。その声を聞いているうちに、四人の心のどこかに小さな熱が灯っていった。
「……分かりました。お預かりします」
通話を終え、塾長は静かに告げる。
「保護者の了承は取った。君たちは今日から、この塾の生徒だ」
⸻
入塾の手続きを終えると、ゴリラ先生が勢いよく手を叩いた。
「よし! 君たちは、私が初めて受け持つ生徒だ! 組の名は……うん、君達の見た目からそうだ! 名付けて――バナナ組!」
「はああああ!?」
四人の声がぴったり重なる。
剣吾が叫ぶ。
「もっとカッコいい名前にしろよ!」
弓菜は顔を真っ赤にして反発する。
「ダサすぎ! 私、絶対そんな組いや!」
槍真は冷静な顔で指摘した。
「果物名をクラス名にするのは、教育的観点からも不適切だと思う」
魔李は小さく縮こまりながら呟いた。
「え、えっと……ちょっと、恥ずかしい……」
だがゴリラ先生は豪快に笑い飛ばす。
「バナナは栄養満点! 可能性も無限大! 君たちにピッタリだ!」
塾長が重々しく溜息をつき、冷ややかに言い放った。
「……まあ、いいだろう」
その瞬間、運命は決まった。
⸻
こうして、不本意ながらも四人は「バナナ組」として歩み始めることになった。