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説教するには体力がいる。

夕暮れが探検塾の窓を茜色に染める。バナナ組の教室では、今日も授業が進んでいた。黒板の前に立つのは駕与丁澪先生。テーマは「ダンジョンに潜らない日の修行法」だ。

「ダンジョンは実戦の場ですが、体を整えるのは日常です。毎日の基礎訓練が、冒険者を支えるんですよ」

子どもたちは真剣にノートをとっている。しかし、その瞳の奥には、どこか落ち着かない不安が宿っていた。その理由はひとつ――担任のゴリラ先生と塾長の柚須玄真が、まだ応接室から帰ってきていないからだ。彼らはスポンサーとの面談中で、しかもその最中、子どもたちは盗聴魔法を仕掛けて失敗していた。

「なぁ、まだ終わんないのかな」

「帰ってこないね……」

「このままスポンサーに捕まって帰れなかったらどうするの?」

剣吾、槍真、魔李が小声で囁き合う。その不安は、授業に集中しているはずの弓菜にも伝播していた。

「まったく、落ち着きがありませんね」

澪先生は苦笑し、子どもたちの視線が応接室へと向かっていることを察する。彼女はそのまま授業を続けたが、弓菜は好奇心と罪悪感に苛まれていた。どうしても、あの面談の結果が気になってしまう。

再び、弓の弦を鳴らす。盗聴魔法の矢が、応接室の扉へ静かに飛んでいく。

しかし、何も聞こえない。あれ?と弓菜が首を傾げた、その瞬間。

「バンッ!」

教室の扉が勢いよく開け放たれた。全員がびくりと肩を震わせ、振り返る。

「……やってくれたな」

低く唸るような声が、教室の空気を凍らせた。そこに立っていたのは、顔に疲労の色を浮かべた玄真と、その隣で腕を組むゴリラ先生だった。

「きつめに邪魔して魔力を叩きつけたのに、また盗聴してるわね」

ゴリラ先生の静かな怒りの感情に、子どもたちは一斉に青ざめる。

「す、すみませんでした!」

「遊び半分では……」

「どうしても気になって!」

剣吾、弓菜、槍真、魔李が頭を下げて謝罪する。澪先生は「あらあら」と溜め息をつき、事態を見守っていた。

玄真は、疲れ切ったように頭をかきながらつぶやく。

「スポンサーがなかなか帰らなかったのは、君たちの魔法を見られたからだよ」

「もう、ほんと大変だったんだからね!」

ゴリラ先生が、いつもの豪快さとはかけ離れた、げんなりした顔で机にどさりと腰を下ろす。

子どもたちは顔を見合わせ、ただ疲労困憊しているだけの二人に戸惑う。怒鳴られる覚悟をしていたのに、その拍子抜けな反応に、バツが悪そうに笑うことしかできなかった。

「……ほんと、やってくれたよ」

玄真もまた、苦笑を浮かべて肩を落とした。

子どもたちは固唾を飲んで様子をうかがう。「先生たち、どうしたんだろ……」「なんか、すごく……疲れてる?」ひそひそと囁き合う。

教壇の横にいた澪先生も、心配そうに眉を寄せた。

「お疲れのご様子ですね……一体、何が……」

玄真は片手を上げ、降参のように振る。

「いやね、相手が手強いスカウトマンでさ。妹の強さを買って、しつこく契約を迫ってきたんだ。僕にまで嫌味を言って揺さぶってきて……。我慢してた妹が、もうぐったりだよ」

その言葉に、子どもたちはぽかんとする。

「僕も正直きつかったけど、彼女はもっとだ。断って帰っていただくまでが長くてね。しかも、最後に君たちの魔法を覗かれてしまって、余計に話が長引いてしまった」

玄真の言葉の直後、ゴリラ先生が空いていた席に音もなく腰を下ろし、机に突っ伏した。

「……むり……ほんとにむり……」

腕に顔を埋め、蚊の鳴くような声。その姿は、まるで駄々をこねる子どものようで、誰も見たことがないほど弱々しかった。

「せ、先生……大丈夫?」

「お水……持ってきましょうか?」

子どもたちは驚き、戸惑いながらも、心配そうに声をかける。澪先生も慌てて声をかけた。

「今日は大変でしたね。少し休まれてはどうですか?」

「……もう休んでる……」

机に顔を埋めたままの返事に、教室の空気が少しだけ和む。いつもなら怒号が響くはずの教室は、ただただ静かに、ゴリラ先生の疲労を共有していた

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