不審者に攫われました。逃げられません。
そのゴリラのような女は、地響きを立てるようにずかずかと近づいてきた。大きな身体を前に折り、かろうじて「人間」と思える鋭い目を四人と合わせると、白い歯をぎらりと見せて笑った。
「君たち! そう、君たち四人だ!」
声は張り裂けんばかりに大きいのに、耳障りではなく、妙な熱が宿っている。
「私の目はごまかせん! 君たちの隠された才能が――ギラギラと輝いているぞ!」
かがんでいるはずなのに、なお小山のようにそびえる巨体。その迫力と声量に、四人が萎縮するまでに時間はほとんどかからなかった。
剣吾が思わず一歩引き、喉を震わせながらも威勢を張る。
「な、なんだよあんた!? ちょっと近づくな!」
弓菜は周囲に視線を走らせながら、眉を吊り上げた。足がすくんで逃げられない。
「や、やば……これ、誰か通報すべきじゃないの?」
槍真は顔色を失い、眼鏡を指先で持ち上げる。真剣そのものの声でつぶやいた。
「これは……確実に、不審者に該当する」
魔李は小さく悲鳴をあげ、唇を震わせながら言葉をしぼり出す。
「こ、怖い……」
それでも目を逸らせず、ただ怯えながら相手を見上げていた。
だが、彼女――ゴリラのようなその女は、まるで怯みもしない。逆に胸を張り、声を張り上げた。
「私は君たちを探索者にする! 名はゴリラ先生! 私は生徒が欲しかった……そして君たちは選ばれた! 運がいい! さあ、私と共に来るのだ!!」
次の瞬間、彼女の両腕がぐいっと伸びたかと思うと――四人まとめて軽々と抱え上げられていた。
「わっ、わわっ!? ちょっと待てぇえええ!!!」
剣吾が暴れるが、その力は岩に縛りつけられたかのように無力だった。
「やめろ! 離せっ! 誰がついてくかこんな奴!!」
弓菜が必死に足をばたつかせる。だが空を切るばかりで、相手の腕はびくともしない。
「こ、これは……確実に……違法行為だ……!」
槍真は抗議しつつも、声は震え、冷静さが空回りしていた。
「ひっ……やだ……! いやぁ……!」
魔李は涙目で叫びながらも、怖さに逆らうこともできず、その大きな腕にしがみついてしまう。
四人が喚き、もがき、騒ぎ立てる。だがゴリラ先生の怪力は圧倒的で、抵抗など小枝のようにへし折られるばかり。
彼女は笑いながら、四人を大荷物のように抱え上げ、そのまま歩き出した。
誰も止められず、四人は運ばれていった――強引で、あまりに一方的な新たな運命の入口へと。