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厨二病は早めの治療が効果的


「……本当はだな」


教室の前に立つゴリラ先生が、腕を組みながら低い声を響かせた。

いつもより少しだけ眉間にシワが寄っている。


「ほっっんとーは! 反対なんだぞ、私は」


その一言に、バナナ組の四人は姿勢を正した。剣吾なんて、背筋がぴんと跳ね上がったほどだ。


「だが――決まってしまったものは仕方がない。お前たちのダンジョン探索を、配信することになった」


結局、ゴリラ先生は会議で推し負けてしまい、ダンジョンの探索の様子をSNS配信することが決まってしまったのだ。



顔を顰めるゴリラとは対照的に、子供達は湧き立つ。


「よっしゃあああ!」

剣吾が立ち上がり、ガッツポーズを決める。


「ちょっと、説明中だからね!剣吾はしずかにしなさい、まだ喜ぶ段階じゃないのよ!」

ゴリラ先生の声が大きくなり、剣吾を睨め付ける。ゴリラ先生の声に、剣吾はすごすごと席に座る。


はぁっとゴリラ先生はため息を落としたのち、話を続ける。


「……ただし」

少し声を落として、先生は続ける。


「配信と言っても、リアルタイムでの生配信ではありません。本当は生配信の方が人気になりやすいとかを抜きにして、上級探索者の試験になるほど、強者の探索者には必要条件よ。理由は、ダンジョンの異変があった際に、ダンジョン内をLIVE配信して、探索省におくり、問題解決をするためよ。」

ゴリラ先生は真剣な顔で、未来のために必要なスキルであることを子供達に説明する。


「今回は、SNSへ投稿すると決定されましたので、撮影した映像は編集してから公開する予定です。だから、多少の粗相はごまかせるのだけれど、、、不安だわ。とりあえず、……最低でも、名前や素性が漏れるのを防ぐためにも、必要なことがある。」

ゴリラ先生は、不安そうな顔をしたままバナナ組の面々をみる。


そして、今日の本題を示唆して、理解の早そうな槍真を指差す。


「つまり……」

槍真がメガネを押し上げながら、淡々と整理する。

「僕らがコードネームを名乗る必要がある、と」


「そういうことだ」

ゴリラ先生が頷く。


「よっしゃあ! コードネームタイムだな!」

剣吾が立ち上がり、机に両手をドンと叩く。

一度盛り上がるのを我慢させられたからか、先ほどより大はしゃぎな剣吾。


「よし、この俺、剣吾様が全員分考えてやる! 任せろ!」

テンション高く、手を上げてみんなを見る剣吾。


「えっ、やめて」

「嫌な予感しかしない……」

弓菜と魔李が同時に顔をしかめた。


「まずは俺からだな!」

剣吾は胸を張り、天井を仰ぐ。

「“黒炎の漆黒勇者・ケンタルタロス!”」


「ダッサ!!」

全員が即座に突っ込む。


「槍真の名前は、…グレート、ザ・ヤリ!」

「グレートって英語にするなら、ヤリじゃなくてスピアにしろよ!てか、ダサい。」(槍真)


「ウィンドゆなゆなゆな!」

「ただ三回繰り返しただけでしょ!」(弓菜)


「“魔法覇者、まきまき”!」

「やだそんなの名乗りたくない……」(魔李)


剣吾は汗だくになりながら次々と案を出すが、全滅である。


「僕は……シンプルに“スピマ”でいいよ」

槍真が淡々と発表すると、

「おお、普通にカッコいい!」

「センスあるわね」

「シンプルでわかりやすいし……」

と全員から高評価。


剣吾は机に突っ伏し、「なんでだよぉ」と呻いた。


「わ、私は……“スモモ”で」

おずおずと手を挙げたのは魔李。

「短くて、可愛いから……」


「いいじゃん! 魔法使いっぽい」

「スモモ、かわいい!」


褒められて、魔李の顔は真っ赤に染まった。



「……じゃあ、私は」

弓菜が口を開く。が、すぐに口ごもった。

「……」


「ほら、早く言えよ!」

剣吾がニヤつきながら急かす。


「うるさい! 今考えてるの!」


弓菜の頭には、“ホークユナ”という言葉が浮かんでいた。

憧れの伝説冒険者・ホークヴェルから借りた名。

でも、それを口にするのは――あまりに恥ずかしすぎた。


「……い、今は保留!」

弓菜はぷいと横を向いた。



ゴリラ先生が、大きくため息をつく。


「……結論を言おう。剣吾も弓菜も、当面は“仮名”で活動する」


「えっ、仮名?」


「剣吾は“バナナ男”。弓菜は“バナナ女”。」


「ええええぇぇぇ!?!?!?」

二人が同時に悲鳴を上げた。


「いいだろう。どうせ最初は大して人も見ない。名前が定まったら、そのとき改めて登録すればいい」


「ちょ、ちょっと先生! そんな恥ずかしい名前で……!」

「やだ! 絶対やだ!」


しかし、ゴリラ先生は頑として譲らない。



「それから」

先生は黒板に“注意事項”と大きく書いた。


「撮影時は口元をマスクで隠す。声も魔道具で加工する。呼び間違っても問題はない。だが、できるだけ本名を口にしないように訓練しておけ」


「う……訓練って……」

「なんか本格的になってきたな……」


バナナ組は顔を見合わせ、苦笑した。


こうして――「バナナ男」「バナナ女」を抱えた探索者名決め会議は、混乱と爆笑の末に幕を閉じた

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