野生のゴリラが現れました。どうします?
帰路に四つの影が伸びていた。日はまだ高く、光は強い。だから影は短く、地面にくっきりと刻まれていた。
道すがら、剣吾が苛立ちを隠さずに小石を蹴り飛ばす。
「クソッ……! 俺、もっとやれると思ってたのに」
脳裏には、探索テストで剣を振り回し、足を滑らせて仲間を巻き込んだ光景が焼きついている。胸の奥が、悔しさで焦げるように熱い。
弓菜が横目で彼を見やり、鼻で笑った。
「アンタはいつも考えなしで突っ走るからでしょ。説明も聞かずに飛び込んで、誰もついていけなかった。そのせいで落ちたんじゃない?」
尊大な口ぶりに剣吾は鋭く睨み返す。しかし口では彼女に勝てないことを知っているから、何も言わなかった。
――そして知っていた。弓菜は自分に非があると分かっているときほど、他人に噛みついてくるのだと。
その通り、弓菜の胸には試験で放った矢が仲間の腕を貫いた瞬間が刺さったままだ。あの失敗のせいで続行不可能になった。悔恨と自己嫌悪に押し潰されそうになるから、口を開けば誰かを責めるしかないのだ。
槍真は二人のやり取りに興味なさそうだったが、眼鏡を指で押し上げ、わざとらしくレンズを鳴らした。
「……誰もついていけなかった、というなら、僕は合格していたかもしれないな。だって、途中で置き去りにされたのだから」
苦笑まじりに続ける。
「でもきっと理由は別だ。僕が“誰とも合わせられない厄介者”だと思われた。それが退塾の原因じゃないかな」
口にしながら、自分の声が震えているのに気づいた。冷静さの仮面は、ひどく薄い。
魔李は三人の少し後ろで歩幅を小さくしていた。
「わ、私……前に出されたら……全然ダメで……」
そこで言葉が途切れる。喉が詰まり、涙が零れそうになるのを必死で俯いて隠した。
弱さを抱えた四人が、ただ一緒に歩いている。今は、それだけが救いだった。
――そのとき。
「うむむむむむ!」
突如、奇怪な声が響いた。四人は同時に顔を上げる。道の真ん中に……いや、木陰から飛び出すように奇妙な影が立ちはだかっていた。
濃紺のスーツに真紅のシャツ。胸元は大きくはだけ、女性のはずなのにそこに刻まれるのは谷間ではなく、鍛え抜かれた筋肉の隆起。腕まくりした腕は丸太のように太く、光を受けて盛り上がっている。
そして――その顔。
「ゴリラ……?」
弓菜の呟きが、全員の心の奥にぴたりと落ちた。