柚須玄真はシスコン?
「そんなに怒ってばかりいると……最愛の妹さんに嫌われますよ?」
澪先生の柔らかな声が響いた瞬間、玄真塾長のお説教がぴたりと止まった。
――その静止に、子供たちは一斉にざわついた。
「……え、今最愛の奥さんって言った!?」
弓菜が叫ぶ。
「いや、妹って言ってよ?」
魔李が首を傾げて不思議そうにする。
「でも、今最愛って!」
「え、ちょっと待って……塾長、シスコン!?」
剣吾が思わず立ち上がり、弓菜も机に身を乗り出す。
「だって塾長、すっごい綺麗な顔してるし! その妹さんなら、絶対めちゃくちゃ美人だよ!」
「うんうん、わかるわかる! なんか高嶺の花って感じ!」
「俺、会ったら緊張して喋れないかもしんない……」槍真まで顔を赤らめる始末だ。
「…………」
ゴリラ先生は、固まっていた。
(ちょ、ちょっと待って……こ、この流れ……どう言えばいいの……?)
顔がひきつり、視線が泳ぐ。
言い出した瞬間、爆発的に笑われる未来が見える――!
子供たちの想像は止まらない。
「ねぇねぇ、絶対おしとやかで和服似合うタイプだって!」
「いやいや、都会的な美人かもしれない!」
「ゴリラ先生とは正反対の……」
「…………っ!」
ゴリラ先生の頬が一気に赤く染まる。
その様子を見て、澪先生がふわりと笑んだ。
「――塾長。もういいのでは? 子供たちも混乱しているみたいですし」
玄真はわずかに口角を上げると、黒板を背に振り返り、淡々と告げた。
「……そうだな。君たちに誤解されても困る。――ゴリラ先生は、私の実の妹だ」
「……え?」
一拍置いて、教室が爆発した。
「えええええええええええええっっっ!?」
「ちょ、ちょっと待って! ゴリラ先生が!? 妹!? 実妹!?」
「だって全然似てないじゃん!」
「いやいやいや、塾長とゴリラ先生が兄妹とか、冗談でしょ!?」
机をバンバン叩きながら、剣吾と弓菜は涙が出るほど笑っている。
「ギャップがやばすぎる! 美形と筋肉の兄妹!?」
「この組み合わせ、奇跡すぎるでしょ!」
槍真と魔李も呆然とした顔で見つめ合い、次の瞬間には肩を震わせて笑いをこらえきれなかった。
玄真は淡々としたまま、さらに追い討ちをかける。
「柚須の家はな、筋肉がつきやすい者と、そうでない者が極端に分かれるんだ」
「「説明になってないよ塾長ーーっ!!!」」
教室中が爆笑の渦に包まれる中、ゴリラ先生は顔を真っ赤にして正座から体操座りに座り直し、顔を膝に埋めて顔を隠す。
「も、もういやぁぁぁぁ……!!!」




