駕与丁澪は冷静で。
「……ったく、もう! 塾長、子供にこんな映像を見せるなんて、やめてください!」
「ゴリ先生、そろそろ落ち着きなさいね。」
静かな声が入った。
駕与丁澪だ。
穏やかで柔らかな雰囲気の女性。光を通したような髪、瞳は深く落ち着いていて、教室の緊張をほんの少しだけ解きほぐす。
彼女はバナナ組の副担任だと、連れてこられた日に玄関で軽く挨拶したなぁっと魔李は駕与丁澪を見ながら様子を伺う。
「ちょっとお痛が過ぎますよ、塾長。」
「塾長なら、すべてのカリキュラムも、理解されていらっしゃるでしょうし、授業による写真や画像の規制も頭に入っておられるでしょう?」
澪による進言に玄真はどうだったかなぁ?っと首を傾げる。
「いつも、ゴリ先生に感情的になるなと仰っておられるのに、ご自分が感情的になって授業を行ったとでもおっしゃられますか?」
少しきつめの目つきで澪が玄真を睨め付けると、両手を軽く上げて降参っと玄真は呟く。
その様子に、ゴリラ先生はふっと肩の力を抜いた。
「あぁ、よかった……。やっぱり塾長の授業は私を試すことも入っていたのですね。澪先生がいて助かりました。」
その様子に、子供たちは少し笑みをこぼす。
「ゴリラ先生、ほっとしてる……?」
剣吾が小声で呟くと、弓菜も「見た? 今のゴリラ先生、ちょっと可愛い」と囁いた。
「ためす?ゴリラ先生を?」
魔李は不思議に思い、ゴリラ先生を見つめる。
「私は教師としては未熟者だからね。先ほどの威圧もすまん。感情のコントロールに欠けた。」
「あ、うん。大事だよ。」
魔李がそういうと、ゴリラ先生はにこりと笑い、話を戻す。
「柚須玄真塾長の授業が適切内容であるか、また、気づいた時に止めるかどうか、また、止め方において問題はないか、、、ことあたりだろうな。」
子供達はヘーっと声を上げつつ、この授業に別の意図も含まれていることに感心していた。
「こほん。」
玄真は変わらぬ顔で、先払いをして、投影機の前に立ち、淡々と説明を再開する。
「バレては、仕方ない。」
投影されていた写真はモザイクがかかっていたり、直接的ではない画像であった。
「君たちに今日覚えていてほしいのは、20年前、ダンジョンは突如現れたこと。その当時、洞窟調査に入った者たちの多くがただの洞窟だと思い、沢山の人が亡くなったこと。」
「また、簡単な判断により、洞窟の封鎖は遅れ、多くの魔物が溢れ出した。街に現れた魔物により、多くの人が犠牲になったことだ。」
玄真の声は静かだが、重い。
教室に座る四人の中学生――いや、中学生としてはまだ幼さの残る心が、胸をぎゅっと締め付けられる。
魔李は目を伏せ、手で顔を覆った。
「……こわい……」
小さな声に震えが混じる。
槍真は眉をひそめ、ペン先を握る手に力が入る。
(……これが、現実なんだ……)
弓菜は額に手を当て、背筋を伸ばす。
(死ぬって、簡単なことじゃない……)
剣吾は、じっと前を見つめ、拳を固く握る。
(でも……俺たち、中学生だ。まだ、戦えるはずだ……!)
玄真は続ける。
「私たちは、多くの犠牲の上に、今ダンジョンを探索し、冒険するものとなっている。そんな先人のために、私たちは軽い気持ちでいてはいけない。」
沈黙が教室を覆う。
誰もが息を飲み、心臓の音だけが聞こえる。
「これは何度でも言おう。現在、動画サイトや配信で“死に芸”やリスポーン動画が流行している。冒険者や探索者は、恐怖を和らげるために死に際を誇張している。だが忘れてはいけない――洞窟外での死は、二度と戻らない。リスポーンに頼るのは危険であり、死に慣れてはいけない」
ゴリラ先生は、前にも同じことを言った。
けれど、玄真の冷静で重い口調は、ゴリラ先生の中でも新たな緊張を生む。
子供たちは顔を見合わせる。
目がうるんでいる者、息を詰める者、肩を震わせる者。
全員、シリアスな空気に押しつぶされそうになっていた。
その瞬間、ゴリラ先生が小さく声を漏らした。
「……でも、私たちも死なないように、逃げることは大事だよね……」
その言葉に、子供たちは少しだけ安心し、息をつく。
しかし、教室の重さは残る。
そして、駕与丁澪がそっと横に立ち、穏やかに子供たちを見つめる。
「さあ、ここからはゴリラ先生の指導と、塾長の授業を上手く受け止めて、学んでいきましょう」
剣吾は小さく頷き、弓菜も魔李も槍真も、それぞれ深呼吸をする。
まだ中学生――まだ未熟だ。
でも、少しずつ前を向く力が胸の奥で芽生え始めてい




