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短編達

とある凡人の独白

作者: 衣末

 

 いつだっただろうか、自分は天才じゃないことをハッキリと自覚したのは。


 藤原家の最高傑作と謳われる弟や多才な幼馴染達への劣等感と嫉妬を自覚したのは。

 自分は天才ではないんだと。努力した分しか、積み重ねた分しかできない。それでも限界があって、絶対に一番にはなれないということを。

 テストで毎回満点を取る弟や幼馴染。私が弟よりも唯一秀でている音楽で、私の上を行く幼馴染。弟に期待を寄せて、私に興味のないお父様。

 どれだけ頑張っていても、私は天才に、一番になれかった。いつまでも秀才で、優等生でしかなかった。


 幼い頃は無邪気に、努力すれば結果はついてくると思っていた。凡人は凡人なりに努力すれば天才と見分けがつかなくなると。お父様は、私を振り向いてくれると。

 でも、そんなことはなかった。凡人が努力したところで、結局真の天才には勝てないことを。弟と幼馴染(てんさいたち)と接していて、この十七年間で嫌なほど思い知った。思い知らされた。



 そして何よりも、私はずっと私が嫌いだった。いつもどこかで真っ黒な感情を抱えていた私を。勝手に嫉妬して、羨んで、時には意図的に彼らを避けていた私を。


『姉様!』


 こんな私を慕ってくれる弟や、こんな自分勝手なプライドを固めただけのような女をずっと好きでいてくれた、めんどくさい幼馴染をあの手この手で励まそうとしてくれた二人の幼馴染。ただ、真っ直ぐな彼らに、嫌な、真っ黒な感情を持っている。一瞬でも、三人がいなければ、なんて思ってしまう私が、ずっと、ずっと、いちばん大嫌いだった。


 彼らが眩しすぎて、直視できなくて、私にはないものがただ羨ましくて。好きなのに、嫌いで、矛盾した自分の感情が分からなくなっていた。

 自分だって、容姿に、お金に、幼馴染に恵まれている事がわかっているくせに、さらに求める自分の欲深さを嫌悪して。



 それでも、この感情は自分のものでしかなくて、彼らも悪くなくて。周りに見せてはいけない、そんなのはただ迷惑がかかるだけなのもわかっていたから、今までどうにかやってこれたのに。泣かなかったのに。


 女としての魅力だってあの男に否定された。浮気されて、あんな振られ方をして。かろうじて保っていた心の均衡が崩れてしまったのだ。


 それがたとえ一部だったとしても、一度崩れたら、それまで見ないようにしていた、目を背けていた彼らの眩しさも目につくようになって、いつもどこかで感じていた後ろめたさに、少しずつ心は次々と崩れていった。



 最後の決め手は、ずっと近くにいた、可愛い可愛いてんさいだった。


『姉様!見て!テストで満点を取ったんだ!』


 ただ、弟はいつものように褒められたかったのだ。私だって、いつもだったら偉いと、すごいと、褒めていただろう。でも、あの日はダメだった。


『うるさい!!』


 劣等感と自己嫌悪でボロボロになっていた私は、愛しているはずの弟を拒絶してしまった。彼を否定してしまった。いつも、心の奥底に抱えていた感情が溢れてしまった。明確に傷つけた。


 いつだったか、誰かが言っていたことだ。人間が持ち得る最たる武器は言葉であり、人間ががここまで繁栄した理由の一つでもある。同族と意思疎通ができ、己の考えや感情を伝えられるその武器は、時に意思を持って同族を精神的に傷つける、最たる武器でもある。人間はそんな諸刃の剣を背負って生きていかなければならないのだと。


 全くもってその通りだった。私は、傷ついてしまえばいいと思ったのだ。苦労の少ない人生を歩む弟に、おそらく最も効く方法を使って。僅かに溢れた悪魔の囁きに揺らいだ。

 いまだにその時の弟の顔がチラついて、ますます自分が嫌いになって、自分の冒した禁忌を思い出しては死にたくなって。謝って、赦してもらいたい衝動にかけられて。私にそんな権利はないのに。謝罪は人として必要だが、赦してもらう権利なんて私にはないのに。


 弟に抱いた嫉妬で、私の心はとうとう壊れてしまった。報われることのない努力を止めて、現実から目を逸らすようになった。嘘を吐く事を厭わい。あれほど抱いていた後ろめたさも感じることはない。いつも作り笑いを浮かべて、私は自分のために偽りを並べる。でも、家族と幼馴染は結局近くにいて、どれだけ彼らへ抱く劣等感とか、嫉妬とかいうドス黒い感情は消えてくれなかった。3人とも大好きなはずなのに、それだけではなくなってしまった。


 でもやっぱり、どんな時でも先を行く彼らなんかより、最後の最後まで自分のことしか考えられない自分が本当に、ずっと、いちばん大嫌いだ。





 嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い


 大っ嫌い‼︎


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