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おじさんの暇つぶし~探偵事務所「時間」~  作者: 猫の真
3 ぱーてぃにさんかせよ
9/11

ぱーてぃにさんかせよ①

お昼時。家から車で数10分はかかるし人の往来が激しい場所になるものの、昔から利用している支店銀行へ翔とやってきた。

理由は、毎月親から振り込まれるイカれた額の送り返し。

先月の分だってまだ使い切れていないのにやめてほしい。

事前にアポなど取っていなかったが、要件を言えば世話になっている中肉中背で媚びた笑顔を隠すことのない、支店長の男が出て応対をしてくれた。


『ようこそ、ようそこ!お久しぶりでございます!』

「あれ、そうだっけ。」

『先月は私ではなく別のものが応対しておりましたので…』

「あーそうだったね。まぁ、ちゃんと対応してもらったから大丈夫だよ。」

『そうでしょうそうでしょう。ですが、本日は私が応対させていただきます。』


手でごまをする動作は止まらず、挨拶と雑談を交わす。

雑談の中で先月の話が出たのでその時のことを思い出したが、今回は支店長が応対をしてくれるそうだ。

本来ならお昼ご飯を食べているタイミングだろう時に俺の相手をしてくれているのはありがたい。

窓口でなく応接室に通され、いつも通り書類を書けば、支店長は出ていく。

これで、送り返しは完了。これに懲りて金額を改めるか振り込む前に相談するなりなんなりしてくれると良いが。

いやしないだろうな。

それを勝手に考えていたら、支店長が対応後の紙を持って戻ってきた。


『いやぁお待たせしました!これにて対応は完了です。』

「うん。いつもありがとう。」

『ところで…もし、啓介様がよろしければ、お誘いしたい場所があるのですが…』

「誘いたい、場所?」


媚びた笑顔で目の前の椅子に座り、紙を机の上に置いた。

それを回収して折りたたんで翔の持ってるボディバッグにしまってもらう。

その最中に向こうから話を振られる。申し訳無さそうな声色だが、別に話を聞く分にはいい。

反応をして、話の先を促させた。


『えぇ。企業の設立パーティです。』

「設立記念パーティ。」

『えぇ!!私の大切な息子がですね、起業いたしまして…その記念パーティを開くことになりまして。そちらに、是非、啓介様にも出席いただきたく!』


聞けば、自分の息子が起業した会社の設立パーティに参加してほしいということらしい。

自分の息子だからだろうか、いつもより熱い勢いで話す支店長を見るに、相当参加してほしいんだろう。


「…一般人の俺が?」

『そうおっしゃらずに。もちろんお連れの方もご一緒で問題ございません。』


口にも出した通り、俺は一般人だ。職業はついているが探偵。

参加する必要性が俺には感じられないが、支店長としてはあるんだろう、翔の参加まで許諾した。

翔を横目で見れば、特に何も考えてなさそうだ。

まぁ、引き取ってからそういった類のものに参加させたりというか、参加したりもしてなかったし、社会見学というか体験には良いのかもしれない。


「……まぁ、わかりました。良いですよ。」

『本当ですか!』

「日頃お世話になってますし。いつですか?」

『お時間少なく申し訳ないのですが一週間後の…』


支店長に参加する旨を伝えれば、嬉しそうな声と表情をさせた。

翔の社会体験にもなるが、毎月毎月面倒なことをさせているのだからこういうものくらい参加してもいいだろう。

そのまま、いつ参加なのかを聞いて、パーティで出せる食材、アレルギー有無も離して、日付がわかったのでそれも承諾する。

そうすれば、話は終わったと判断し、立ち上がって応接室から出る。

そのまま、支店長の見送りを受けながら駐車場へ行き、運転席からカギを開け、乗り込んでか助手席のカギも開ける。


「昼は外で食べるか。」

「わかりました。」

「何食べたい?」

「特に何も。」

「じゃーうどんでも食うか。」

「はい。」


乗り込んでエンジンをかけながら、自分たちの昼ご飯のことを考える。

相変わらず好みはないようなので頭に思いついた食べ物を選定する。

近場だったらあのチェーン店の方が良いだろう。

駐車場から車を出して道路走っている最中、煩いサイレンが鳴ってパトカーが通り過ぎた。


そして迎えたパーティ当日。時間は夜19時30分。

開始は20時。30分前だが別

あんま目立たないよう、白いUシャツに黒いジャケットに黒スラックス、黒い合皮の靴。携帯と腕時計以外の手荷物なし。

髪の毛はオールバックにすれば、多少、どこかしらの営業マンとかぐらいには見えてるはずだ。

翔は、いつもどおり暗闇に紛れるぐらいの黒い長袖インナーに黒シャツ黒スラックスで貴重品を入れてもらったボディバック。

靴だけ、俺の持ってるけど一切履いてなくてサイズの合わなくなった白の本皮靴を履かせたから、見てるやつには翔が良い奴には見えるだろう。

指定ホテルから少し離れたパーキングに車を停めて、ホテルへ向かう。

ホテルの駐車場はパーティ参加の著名人が使うだろう、というのとパーティに一般人が参加する引け目から関係ないところに停めた。


「でっっか」

「都内では割とデカい所ですよ。ホテル内設備も良いらしいですし。」

「朝食ガチで美味いって口コミされてたからご飯マジで楽しみにしてる。」

「そこですか…」


ホテルの車出入り口前まで来て、見上げる。デカい。横にも縦にも

思ったことを普通に口に出した。

翔も事前調べをしていたんだろう。ホテル内設備のことを軽く教えてくれるが、俺はそれよりご飯の方が大事だ。

そのために今日来てんだから。

俺の情報に呆れた顔と声を翔は出しているが、ここまで来たんなら関係ない。

些細な手続きだけで美味しいものが食べれる。面倒じゃない!

パーティだから立食式、ビュッフェだろう。

この規模のホテルだ、参加者の好み、アレルギーも考えられているはずだ。

そのまま、ホテル出入り口に通じる歩道を期待を持って歩く。

駐車場には予想通り高そうな車が何台も停まっていて、出てくる人もテレビや雑誌で見たことある人ばかりだ。


「…支店長さんすごいですね。」

「そうねぇ。」

「啓介さん本当に興味無いですね。」

「ないない。」


歩きながらその人の方を見る翔は、小声でそんな人を集めた支店長を軽く称賛していた。

確かにこの規模の記念パーティを開くとなったら相当だろうし、人を見る限り頑張ったんだろうとは伺える。

だが、そんなものは興味ない。横目で一瞬見て前を見る。

俺の興味の無さにいつも通り呆れる翔だが、本当に興味が無いから仕方ない。

ホテルの出入り口では真ん前に車を停める人間を待つボーイが背筋を正して立っている。

それらを通り過ぎて、開きっぱなしの自動ドアを通る。

エントランスに入り、そのまま受付に向かう。


『おかえりなさいませ。本日は』

「レーヴ・リアリゼの設立記念パーティに呼ばれたんだけど。」

『あぁ…参加者の方ですね。お名前を伺っても?』


受付の相手に話しかけ、企業の名前とその設立記念パーティに参加する旨を伝えた。

すれば、宿泊客でないことを把握した顔をして、名前を尋ねられた。

名簿管理でもしているんだろう。翔の分も含め正確に名前を伝えれば、自身の手元の紙を見て確認をしてくれた。


『確認いたしました。待合会場は右手に進んだ空想の広間となります。会場はその先にある創造の間となります。時間になりましたら開場しますので、空想の広間にてお待ちください。』

「わかった。ありがとう。」


相手は、確認後すぐ、丁寧に会場の説明をしてくれた。

理解をして感謝を伝えて、その「空想の広間」へ向かう。

エントランスに置かれたソファには参加者だろう男女、男性だけ、女性だけが座って、通り過ぎるこっちを見ている。

それには気にせずダブルドアの片側のだけ開かれた場所から中に入る。

入れば、会場となる「創造の間」のために用意された待合い空間で、併設されたバーカウンターには小さめのコップに、いくつかの種類の飲み物がいくつも置かれている。

その背後には、何種類のも酒が。おい、あのバカ高い度数のもあるのかよ。誰が飲むんだよ。

そこに進んで、何かしらの茶であろう氷の入った茶色の飲み物入りのコップを取って、着いてきていた翔に1つ渡す。

翔が受け取ったので、自分も同じのを持ってバーカウンターから離れて、一口お茶を飲みながら目の前にローテブルがある2、3人がけであろうソファに腰を下ろす。

フカフカで体重の分だけ沈み込む。人によっては良いソファだろう。


「…座りな?」

「あ、はい。」


俺の隣、ソファの肘掛け側に立ってる翔に、隣に座るよう目の前のテーブルにコップを置きながら促す。

指示を受けてからローテブルの外側を歩いて、翔は俺の隣に腰を降ろした。

予想以上に沈み込んだことで体を強張らせていたが、一瞬でソファの感覚に慣れたようで、一口も飲んでないお茶の入ったコップをローテブルに置いた。

ただ、俺等とスタッフ以外誰もいない、家とはまた違う空間に目をキョロキョロとさせていた。


「何気にパーティ参加は初めてだもんね。」

「そう…ですね。」

「緊張する?」

「どうでしょう。緊張というより、居心地が悪いと言いますか。」

「悪いのかよ。」

「そらまぁ。明らかに高い靴履かされてた状態でこんな場所…僕をどう見せたいのか透けてますよ?」


その様子を違う言葉で指摘すれば、自分で気づいたのか俺の方を一回見てキョロキョロするのをやめた。

続けて先程の行動の真意を尋ねれば、曖昧な回答かつ想定していない回答が返ってきて笑ってしまった。

それを肯定して履かせた靴に文句を言う翔を見た先。空想の広間の出入り口から人がゾロゾロと入ってきた。

さっきソファに座っていた人らが入ってきている、というのは人を見てすぐに分かった。

その人らは入ってすぐにバーカウンターへ行き、飲み物を取り、それぞれで固まった。

その入ってくる人の流れの中で見覚えのある相手が入ってきて、目が合う。

このパーティ自体に呼んだ支店長だ。


『さ…啓介様!来てくださったんですね。』

「お呼びいただけたので。」

『ありがとうございます。小さな会場ではございますが、お楽しみいただけますと幸いです。あー…では、息子の所へ行きますので私はこれで…』

「はい。それでは。」


支店長が近づくのと合わせて立ち上がり、若干の会話をする。

翔も立とうとしたが、支店長が立っている位置は翔側。立たれると邪魔なので手で翔を止めて、翔は座らせたまま会話をする。

本当に少しだけ話した後、支店長はバツが悪そうに断りを入れ、本日の主役、自身の息子の方へ立ち去った。

それを見送って、再度ソファに腰を降ろす。


「忙しそうですね。」

「来賓こんだけいりゃな。」

「ところで先程止めたのは?」

「ん?立ったら邪魔だったから。それにあん時にお前は立たない方が都合いい。」

「そうですか…」


翔が見ていた支店長の様子を素直に述べたので周りを再度見渡す。

見渡す限り人。しかも企業の著名人。知らない顔もいるが、恐らく営業マンか何かだろう。

これだけを集める、まとめ上げるのは相当気を使わなくちゃいけないんだから忙しいだろうな。

そう考えて言えば、翔に話を変えられ、支店長との会話の際の行動を追求された。

端的に、思ったこと考えたことを伝えれば、何度目かの呆れ顔をして、自分で置いた茶に手を付けた。

そうして、周りからの視線を受けつつも時間を過ごしていれば、創造の間のダブルドアが開いた音がした。


『お待たせいたしました。パーティの会場はこちらとなりますのでお入りください。お飲み物はお持ちいただいても、テーブルにあるシャンパンをお飲みいただいても構いません。お入りいただいた後はテーブル前で開始までお待ちくださいますようお願いいたします。』


中で作業をしていたスタッフが大きな声で開場を告げる。

それに反応した人らが、たいてい飲み物を持って中へ入っていく。

俺等も合わせるように飲み物を持って中へ入り、目をつけた会場の端にあったテーブルへ向かう。

創造の間は非常に広いただの正方形の空間。

そこの1辺側を3分の1ぐらいを仕切りで見えなくし、低いが広さのある壇を設置して、その真ん前にはマイクスタンドとマイクが置かれている。

その後ろには白壁、丁度人頭の上に来るくらいの位置に設立記念パーティの看板がデカデカと飾られていた。

そこから、遠く離れた出入り口付近かつビュッフェの料理が一番取りやすい端のテーブル。

そこを陣取れたのはラッキーだ。それにこんな得体のしれない相手に近づくような人はあまりいないだろう。

予想通り、俺等を避けるように人らは自分たちのテリトリーになるテーブル前に立つ。

立食式ではあるが、壁際には椅子が置いてあるし、空想の広間に戻ればソファに座ることができるので、疲れたら座るか帰るかどっちかにしよう。

腕時計を見れば、開始まであと数分というところだった。

そこを確認していれば、ガヤガヤとしていた人の声が薄くなった。

腕時計から顔を上げれば、先程の壇上。

マイクスタンド前に茶色の強い短髪。第1ボタンを開けた白いシャツの上から青みの強いジャケットと同色のスラックスを身に着け、髪の毛と同色の靴を履いた若い青年。

その隣に、青年と同じくらいの茶髪で首周りまでの長さの髪の毛。婚の半袖ワンピースに同色のパンプスを履いた女性が立っていた。

アレが息子さんで、隣は秘書か、まさか彼女か?


『えー…コホンッ。皆様、このたびは、レーヴ・リアリゼの設立記念パーティにご参加くださりありがとうございます。』


顔に見合った若い声で、青年は喋り始めた。時間は早いがまぁ良いだろう。

名は「日野川帝(ひのかわみかど)」。レーヴ・リアリゼの社長で、支店長の息子さん。

隣の女性は、まさかの奥さんで「日野川光(ひのかわひかり)」。

年齢はわからないし別に知らなくてもいいが、奥さんもいて企業もして、なんて良い人生を送っているな、と安易に考える。

帝さんは、企業理念なりなんなり丁寧に演説しているが、正直どうでもいいのでご飯が食べたい。

その間に、ちょくちょく食事が配置されている。あぁ匂いからしても美味しそうだ。


『えー…それでは、皆様お手持ちのグラスをお持ちいただいて、僭越ながらパーティを始める音頭を取らせていただければと思います。』


その声が聞こえ、ようやくかと一応持ち込んだグラスを持つ。


『皆様と良い出会いができますことを!乾杯!』

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