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おじさんの暇つぶし~探偵事務所「時間」~  作者: 猫の真
2.5 きもをかくにんせよ
6/8

きもをかくにんせよ②

深夜。もう良い子どもも悪い子どもの一部も寝てる時間。

昼に押し付けられた用事ごとの廃校に来た。

夜になり、蒸し暑さはあれど昼から夕方にかけて感じたほどではない。

明日報告しろだなんてとんでもない事を言うのだから、今日やるしか無いと決めて、あの後、家に帰って買ったものを適応した場所に入れて。

望んだ通り、配達などではなく購入した食材を使って夕飯を作って食べてから来た。

あの暑さで同じ格好、とはいかなかったというか、翔に関しては髪の毛と肌の色以外黒にされると、この真夜中に完全に紛れ込めてしまうので、よく使うショルダーバッグはそのままに、黒い長袖のインナーを着て、昔ふざけて買った白下地のアロハシャツによく着けるズボンに靴、という上半身だけでもわかりやすい形にした。

俺はもちろん、黒い半袖にカーキの半ズボン。人に会うわけでも無いのにしっかりした格好なんてしなくていいだろ。

サンダルで行こうとして、山という安全性を理由に靴を履かせられたのは癪だが。


「ここですか。」

「そう。俺が生まれるより前にあった学校。」

「だとしても木造建築なことあります?」

「あるだろ。全部が全部コンクリとかで出来てるわけじゃないんだから。」


廃校は木造建築の2階建て。そこまで広くもない。

子どもがするより先に大人でも肝試しに来たんだろう。窓ガラスが割れている形跡がある。

そんな事しなくても。こんだけ古けりゃ玄関の引き戸くらい開くだろ。

付近を見ながら翔と話しつつ、玄関に近寄る。

ドアの上部が、ガラスで格子木枠が模様付けされたスライド式の引き戸を軽く引くが開く様子はない。

じゃあ、と力任せに引けば、ガチャンと音を立てつつ、ガラスも7割くらい割れて引き戸が動いた。


「…大丈夫な音ですか?それ。」

「大丈夫になるよ。行こう。」

「待ってください。その前に…これを。」


音を聞いて確認をとった翔だが、別に大丈夫になる。

それがわかっているので中に入ろうとすれば、翔に止められ、後ろを向く。

翔はかけていたショルダーバッグを漁り、1本の黒い棒。非常用に買っておいた懐中電灯を出した。

確か、買うのをミスって1本しか買ってなかったはず。

どこに行ったかもわからなかったのによく見つけたな。

だが、俺は目隠しをされてない限り、はっきりではないがある程度は見える。

それに人間、目がその環境に慣れていくんだし、こんなことで使わなくてもいいだろう。


「…いらない。俺夜目効くし。」

「老眼が加速しますよ。」

「まだなって無いわ!!いいから、お前持ってて。」

「…わかりました。」


いろいろな意味をもって懐中電灯の所持を断れば、急に年齢について刺されたので大声で言い返す。

確かに40にもなるし気にしたほうが良いというのは理解できるがまだ視力は良かったはずだ。何でこうも老化を心配されるんだ。

おかげで、余計に持ちたくなくなったため、翔に持っておくよう伝える。

翔は渋々、というように懐中電灯を握りしめた。

それを見て、再度校舎内にはいる。無理やり開けた影響で割れたガラスを踏むことになったので、靴にされて良かったと思った。

校舎内は、老朽化で歩けば問答無用で木の軋む音が鳴る。今更こういうのでビビるような年齢でも無いし、本来であれば別にここに来なくてもいい。


「そういえば、俺飯食いながらスマホ触ってたじゃん。」

「はい。」

「アレここについて調べてたんだけど、明後日取り壊し作業するんだって。」

「…」

「だから、明日にはその準備の人とか来ると…翔?」


廊下を歩き、後ろから懐中電灯の明かりを受けながら、翔に話しかける。

その話の途中で木の軋む音が減ったの振り返れば、翔が懐中電灯はこちらに向けながら、数歩先で足を止めていた。

普段は必要性が無いのでしないが、今回はあの夫婦の押し付け具合に感情が勝ってしまい、使える手段を考えて使った。

その結果、昭和時代にあった小学校で、偏屈な場所にあることで通う子が居なくなり廃校になったこと。

近場の学校の要請を受けて、行政がここを取り壊すことを決めたこと。それが明後日であることがわかった。

使える手段というより、この学校に関して調べてたら出てきた情報だし、近場の学校でやってるPTAの誰かだろうブログに、取り壊しの話も載ってた。

だから、この学校の調査で言えば、飯食ってた時点で終わってたし、ここに来なくても良かった。

ただ、1つ興味があった。

引き取ってから。引き取った年齢がアレとはいえ、ホラー映画を見せても雑に脅かしても何ら様相を変えることのなかった翔が、実際にそのホラー映画のようば現場に遭遇したらどうなるのか。

仕事の内容を伝えても普段通りだったが、実際に来て、校舎内に入って、どうなったのか。

そういう期待を込めて、顔を見た。顔は、恐らくしかめっ面であった。

コイツは対俺に関して、無いわけではないがあまりにも表情が乏しい。言葉では平然と刺してくるのに。

そんなやつが珍しく顔を歪ませているのは面白かったが、その顔にわかりやすい「恐怖」の文字は一切見当たらない。


「んだよその顔。」

「いえ、すでに調べはついてるのに何故ここまで来たのか甚だ疑問で。」

「疑問に思ってるなら顔ちが」

「後、その疑問について僕が出した解答は、僕が怖がってる所を見たいと思ったから、だと出してるんですがどうでしょう?」


顔について指摘すれば、表情を戻しながら理由を答えた。

疑問だとしても顔が違う。それを指摘すれば、俺の言葉を遮って、翔は翔なりの答えを出した。

それは、俺の考えと合致することで、今度はこっちが顔を崩して片手で頭を抱えた。


「なん…何なんだよお前は。何で分かるの?」

「あの暑さとあのお二人の態度です。いくら仕事になったとは言え、啓介さんならもう調べが着いたことに対して、わざわざ面倒なことするとは思えないので。」

「…はぁ。」

「もしするとしても…面白い、面白そう。自分に取って利があるものが得れるのでは、じゃないとこんな事しなさそうですもん。」


翔を引き取って8年。いくら学習能力が高いとはいえ、こんなにも人の理解ができるものなのか。

むしろ、俺がわかりやすいのか。…コイツにとってはわかりやすいものなんだろうか。

そこまで考えついているなら、目的は達成出来なさそうだ。

それに、さっきというかこれまでの様子を見る限り、翔が怖がるとは無いように見える。

感情が無いわけではないとは思うが。

頭を抱えるのをやめて、さっきまで向いていた、翔とは反対の方へ向き直す。


「…調査を続けるんですか?」

「まぁ…。1階ぐるっと回るくらい面白そうだし?」

「…何も無いと思いますけど。」

「まぁまぁ。そもそも、学校ていうロケーション自体久々だし、面白いんだよ。」


翔に調査続行の有無を尋ねられたので肯定の言葉を返しておく。

翔は面倒だからだろうか、さっさと帰りたがっているが、正直環境は違えど「学校」に来れることなんて早々ない。

だから、ほんの少しだけワクワクはしていた。

そのまま、歩き進め、両サイドの教室を眺めるだけ眺める。

子どもの身長に合わされた、半壊した机と椅子。

当初の落書きなのか、肝試し連中が残したものかわからない黒板の落書き。

それらがそのままに残っていた。

俺が小学生の頃はどんなんだったっけ。普通の、子どもだったような気がする。

ここは、図工室か。絵筆が数本床に散らかっている。

椅子も、教室にあるのとは違って四角い長方形で背もたれのないやつ。

見た感じ、彫刻刀などの危険そうなものは無いのを見れば、肝試し連中が来たとしても多少は安全だろう。

そう、過去の記憶や現状の調査をしていれば、背後の光が無くなっているのに気付いた。


「…翔?」


振り返るが、該当の人間はいない。

どこかの教室にでも惹かれたのだろうか。

来た廊下の玄関に続く手前まで戻るが、どこにも翔はいない。

2階に行ったか?とも思ったが、そもそも俺以外の木の軋む音がしない。

ここまで老朽化しているなら、2階に居てもその音がするはずだ。それがしない。

なら、2階にはいない。…じゃあどこに?

とりあえずとズボンのポケットに入れていた携帯を出せば、圏外ではなかった。

最近の回線は凄いなぁと感心しつつ、翔へと電話をかける。


「もしもし。どちらにいますか?」

「こっちのセリフ。どこいんの?」


数コールで翔が出て、俺より先に所在を聞いてきた。

どちらかというとこちらのセリフなので聞き返す。


「啓介さんとはぐれたので一旦、ぃくん』


その聞き返した内容に、翔が答えようとしていた。

その言葉の中。翔とは違う、翔ではない声を耳にして、思わず画面を見ずに親指で通話終了ボタンを押した。

その行動をした自分に、驚いている。

あの声、一瞬だったが女性の声だった。記憶にはもちろんある。

俺の母さんの声。

何故。翔に電話してあの人の声が。

一旦、外に出よう。出入り口であれば合流できるはずだ。

携帯をポケットに戻して玄関に行けば、開けたはずの引き戸はしまっていて、ガラスは元通りになっていた。

おかしな光景であったが、体はそのまま引き戸前までいき、引き戸をスライドした。

開けた時同様の力を出して引くが、開かない。


「おいおい…どういうことだよ。」


これじゃ、まるでホラー映画や漫画と同じ状況じゃないか。

それを思った瞬間、ポケットにしまった携帯が震えた。

相手を確認すれば、先ほど通話を切ってしまった翔だった。

これは翔だよな?

数度の震えで、通話開始をボタンを押して携帯を耳に当てる。


「もしもし。」

「もしもし。急に切ってどうしたんですか?」

「悪い。…足ぶつけた拍子に切ったかも。」

「はぁ。」

「んで、どこにいるの?」

「啓介さんとはぐれたので、外に出ました。入った所の前に居ます。」


電話特有の声掛けをすれば、翔の声が返ってきた。

翔は先程の通話を切られたことに疑問を呈して来たので、適当に言っておく。

呆れたようなため息が聞こえたが、それより互いの所在を確認しようと、翔の居場所を尋ねた。

すれば、先ほどの通話で言おうとしていた事だろう、同じ言葉で所在を教えてくれた。

それが本当であれば、翔はこの引き戸を挟んだ向かいにいる。

というかそもそも、壊した引き戸やガラスが元通りになっているのがおかしい。


「嘘。俺、校舎内の玄関前にい、る」


翔の所在を聞いたので自身の所在も言えば、肩を叩かれた。

無警戒に振り向けば、黒い長袖のインナーを着て、白下地のアロハシャツに、よく着けるズボンと靴の翔がいた。

下を向いていて、顔、表情は見えない。俺が振り向いたことで肩を叩いていた手、腕が浮いている。


「じゃあ外に出たら良いじゃないですか。…啓介さん?」


翔が、俺の所在を聞いたことで外に出れば良いと促す。

そうしたいのはやまやまだが、おかしいことが起きていてそう出来ない。

そして、よりおかしいことが目の前で起きている。

今、俺と通話をしているのは?俺の目の前にいるのは?どちらが本物か?


「…翔は、今。外にいるんだよな。」

「はい。居ますよ。」

「格好は?上着脱いでるとかしてないよな。」

「バカなこと言わないでください。同じ格好ですよ。バック持って、懐中電灯持って。」

「バック、懐中電灯」


電話口の翔へ質問をする。目の前の翔は浮いた手、腕を降ろした。

電話口の翔は、その質問に文句を言いながら答える。

格好は同じだと答えた。そして、持っている物も答えた。

目の前の翔は、格好こそ同じだが、持ち物は何も無い。

バックも持ってないし、懐中電灯も手にない。

コイツは誰だ。

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