きもをかくにんせよ①
「んで俺が荷物…」
「啓介さんが「外食飽きたからなんか作って」って行ったんでしょう。」
「そらそうだけど…わざわざ外に買いに行く必要無いだろ…」
「実際に食べるのを見た方が良いと言ったのは啓介さんですよ。」
「んなこと言ったかぁ?」
非常に天気の良い日。太陽光は遮るものさえなければ容赦なく人類犬猫虫関係なく差してくる。
太陽光を遮るもの筆頭の雲は若干しかなく、遮るに至らない。
そんな中を男2人がエコバッグを計4つ抱えて歩いている。
1人はそんな太陽光を全て吸収するかのような真っ黒い半袖シャツの中に黒いインナーをつけて黒のスラックスに黒の靴下、モノクロのスニーカー。
それでいて「暑い」の一言も言わないなんてコイツは感覚器官がイカれてるのか?いやその可能性はあるか。
どっちにせよ、平然と道を歩く少し後ろで、キャップを被って白半袖で半ズボンにサンダルの俺は、コイツより汗だくで冷えた飲み物と野菜類の入ったエコバックを両肩に持って視線を下に歩いている。
真っ黒男の翔を直近で見上げた時は正しい姿勢で若干の汗をかいていた気がする。
そんなことどうでもいい。とにかく暑い。蝉もうるさい。
いつの間にか、近所の公園までたどり着いていた。
というか、車出せばよかった。いや、車検出してたんだわ。
だからこうやって歩いて…暑い。
ふと、顔を上げて公園の方を見れば、複数の子どもとその母親がいた。
そして、その子どもに囲まれる、全く持って珍しい小さい屋台。
昭和味の強い「アイスキャンデー」の赤い文字に、目が惹かれた。
ついでに足も止まった。
「…翔。寄り道。」
「はい?暑いならさっさと」
「暑いけど、疲れた。」
「…はぁ。わかりました…丁度日陰の所が空いているので取っときますね。」
数歩先に進んでいる翔を呼び止めて要件を伝える。
翔は呼ばれて止まって、疑問を上げながら振り向いた。
俺の先ほどまでの様子を知っているからこそ、効率的に手っ取り早くそれを解消する手段を伝えてこようとしたが、それを遮って適当な言い訳をする。
あれが食べたい。多分冷えて甘くて美味いだろうあれ。
俺の目線を見たであろう翔は明らかなため息を吐いてから、俺がやりたいことを最大限に有益にできるような行動をした。
それと同時に、俺の両肩にあるエコバックを回収して、デカい木がたっている該当の日陰付きベンチの方へ歩いて行った。
それを見送りながら、子どもがまばらになった「アイスキャンデー」屋に近づく。
『おや。にいちゃん。珍しいね。』
「こっちのセリフだよ。二本くれる?」
『ははっ。こんな暑い日だからね。珍しく出てみたんだよ。はいよ。』
「ありがと。お代は…面倒だからこれで。お釣りいらない。」
『はぁ~富豪だねぇ!ありがたくもらっとくよ。』
最後の子どもが離れたタイミングで寄れば、屋台の人はこちらへすぐに対応してくれた。
確かに子どもではなく大人が来るのは珍しいだろうがそれはこちらも言えることだと返しつつ要件を伝える。
笑いながら喋り、欲しかったものを2本もらう。
お代の支払いとしてズボンのポケットに入れっぱなしにしていた貴重品ケースからちょうどよくあった千円札を取り出して屋台の人へ渡す。
お釣りの計算も面倒というか俺がそれを待つのが面倒だから、ということでそのまま渡して、屋台の人の声を背に翔のいる方へ歩く。
歩きながら、青色で円柱状の大人が食べるにしては小さいアイスの袋を開け、棒を掴んで口に咥える。
予想通りとんでも無いくらいに冷やされたアイスは並の力じゃ噛み砕けなくて、少し力を込めて分割した。
翔の前まで来て、立ったままでいる翔へ未開封の同じ色のアイスを渡す。
「はい。」
「ありがとう、ございます。」
「ガチで硬い。懐かしい味するわ。」
「…食べたことあるんですか?」
「わかんない。記憶にないけど。」
翔はアイスを受け取って袋を開けて、同じように食べ始めた。
助言をして同じようにアイスを分割したはずなのに、俺より弱い力で分割したような気がする。年齢の差か。
荷物で埋まったベンチで、翔が座らずに開けていたスペースに座れば、助言ついでに零した言葉を拾われた。
テキトーに言ったのでテキトーに返す。
多分同じものを食べたことはないけど、スーパーで安いアイスを数回買って食べたような、無いような。
分割するのを諦めて口の中で溶かして、溶けた液を吸うという事をしていれば、背後に気配を感じで振り向く。
『おい人が座ってるじゃないか、』
『この人達が座ってきたのよ。』
それはいかにも「日曜の公園にやってきた家族」の夫婦側だった。
ここの影は木の大きさもあって、ベンチじゃなくても日陰にはなっている。
夫婦の方も日陰だ。ただベンチは俺が座ってるから座れない。
態度から感じるヤバそう感に、関わると面倒そうだけど態度的に譲りたくもないなぁと振り向いて2人を認識した体を前に戻した。
翔はいつの間にかアイスを食べ終えて、棒を袋に戻していた。
早すぎるだろ。
『ちょっと!気づいてるならどいてくれない?』
『まぁ、ここも日陰だし。貴方がたは…買い物帰りですか?』
「…そうすね。一応。」
奥さん側の方がどくように後ろから声を上げるが、旦那さん側が落ち着くようになだめて、こちらと会話をしようと試みた。
無視するほどでもないので、アイスから口を離して答えてまた食べる。
暑さでようやく噛みやすくなって、分割して口の中で咀嚼する。
『僕らは向こうで遊んでる子のお迎えで。この後ご飯を食べに行くんですよ。』
『そう!美味しいディナーをいただくのよぉ。』
「それは良いですね。楽しまれてください。」
旦那側は、聞いてもいない自身が誰なのかを喋り始め、今後の予定まで話始めた。
奥さん側もそれに乗り、声だけ聞けば嬉しそうにしている。
翔が、貼り付けた笑顔を振り返って夫婦に向けながら当たり障りのない声をかける。
アイスの最後の分割部を口で咀嚼をしながら、翔と同じように棒を袋にいれる。
『そういえば、明後日あの子達肝試しに行くんじゃなかった?』
『そうそう。学校裏の山奥に何か使われていない学校?があるみたいで。』
「そうなんですね。肝試しだと夜になるんじゃないですか?」
『そうなの。だから子ども達だけで行くのが心配で…』
そのまま、奥さん側が話題転換をして、自分らの子どもの話を仕出した。
それを聞いた翔が、また適当に会話するように返答する。
奥さん側は心配そうな声で心配だとちゃんと言葉にした。
アイスも食べたし、休んで涼んだし帰ろうかな。
『…そうだ、見ず知らずの人に申し訳ないけど、お願いがあるんですか…』
「お願い…ですか?」
『えぇ。その肝試しに行く学校が安全かどうか、調べてくれませんか。やっぱり、自分の子どもらが怪我するのは嫌ですし。事前に調べてくれたら僕らも安心して送り出せます。』
「…は?」
自分が持ってた荷物を確認しようとした時、旦那側がとんでもないことを言い出した。
翔が相槌をうった後、その肝試しに行く学校を調べろと言ってきたのだ。
本人が言うように、見ず知らずで今初めて会った人間に。
思わず、一言も発していなかった声が漏れて、振り向いた。
『お願いします。安心したいんです。』
『明後日だから…今日行って、明日同じ時間にこの公園に来るので教えてください。』
「いや、あの。」
『僕ら、そろそろ時間なので。おーい!時間だから迎えに来たぞ!』
『パパ!ママ!』
旦那側は申し訳無さそうな顔のまま、とんでもないことをつらつらと喋って、こちらの返答も聞かずに勝手に調べることを押し付けた。
そして、勝手に話を終わらせて、目的の子どもを呼んだ。
呼ばれた子どもは夫婦に気づいて、子ども達の輪から抜けてこちらへ走ってくる。
『ママ、この人達は?』
『偶然会った人よ。さ、ご飯を食べる前に、おもちゃでも見に行きましょうか。』
『うん!』
『それじゃ、お願いしますね。』
走ってきた子どもは、奥さん側に寄って、奥さんに俺等の事を尋ねた。
奥さんは、本当にそのままを伝えて、自分たちの用を済ますために子どもを連れて歩き始めた。
子どもは奥さんの手を握って、そのまま流れるように連れ歩いていく。
遅れて、旦那も雑にこちらに会釈をしながら声をかけて、奥さん達の後についていく。
「…どうします?」
「どうしたもこうしたもねぇよ…何なんだよ一体…はぁ。」
「やるんですか?」
「やらされるんだよ。アホみたいな金取ってやる。帰るぞ。」
「はい。」
家族が居なくなって、翔が尋ねてくる。
キャップを外して頭を抱えて今の状況を頭の中で振り返る。いや、振り返ってもしょうがない。
翔の質問に、状況からボールをぶん投げられたことを伝える。
それで、受け取り手が居ない状況となってしまえば、そのボールはこっちが持つしか無い。もしくはそのまま放り投げるかだが。
放り投げてもいいと考えはしたが、こっちは職業を持ってる。
後出しにはなるが、それを使って金銭を要求することもできるだろう。いや要求する。ムカつくし。
そう考えて、帰ると告げて自分が持っていたエコバックを選んで担ぐ。
さっきとは違い、翔より先に歩き始めれば、翔の返答が聞こえて荷物を動かす音が後ろでした。