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9、暴風

島に嵐が襲う。3人はどのようにして嵐を乗り越えるか。


今回のストーリー要素

サバイバル ★★★(嵐の過ごし方)

感情度   ★☆☆

危険度   ★★☆

ほっこり度 ★★★(カンちゃんとの出会い)

 正午を過ぎたあたりから海が荒れてきた。雲の流れも速かった。タケシは今夜は激しい時化になると予想して木の上で夜を明かす準備に取り掛かった。


 まず濡らしたくない物や風で飛びそうなものをすべて穴倉に詰め込み、その上にビニールシートを掛け、穴に蓋をしてしっかり重しをのせる。乾燥させた食料や保存食などはしっかりと防水をしてロープで木の上に括り付けた。


 分厚い雲が太陽の光を遮ると辺りが一瞬ふわっと暗くなり、むっとするような生暖かい風が頬をかすめるとカラス達が一斉に鳴き叫んだ。


 タケシはユリとマリの手を借りてロープを使って浜辺の大樹の上に丸太を何本も引き上げた。そしてその丸太をしっかりとした枝の又に渡し、ロープで何重にも縛ってしっかりとした足場を何本も作った。


 足場がしっかりしていればたとえ木の上だろうと3人が同じ場所で固まって長時間居座ることも可能だし、重さも分散されて一つの枝にかかる負担も減る。


 もし強い強風で木の枝が大きく揺れてもお互いの丸太が支え合っていると木の又からずれて外れる事もない。一晩中、木の上で過ごすことになるのだから慎重にし過ぎるという事はなかった。暗い夜中に高い木の上から落下することは命に係わる大事故になる。


 木の上に丸太で基礎を作り上げると今度は急いで火を使って食事を準備した。木の上でやる事はないので食べることが唯一の楽しみになる。奮発して砂糖を多めに使い、小麦粉を練って作るパンにたくさんまぶした。


 また塩と砂糖を水に溶かしてスポーツドリンクのような物を作り、それも木の上にロープを使って上げておく。午後は木の上でビニールシートを頭からかぶり荒れ狂う海をみんなで見た。

 それは島に台風が通過する時だけのスリルのあるイベントだった。


 夕方から一層激しい時化(しけ)になり波が岩にぶつかって大きな音を立てた。見るまに海面が上がり、先ほどまで自分たちが立っていた場所にまで海水が押し寄せた。


 細い木は風に押されて大きく揺れたし、地が唸るような恐ろしい風の音も海のうねりや波が鳴らす大きな音も3人にドキドキするスリルを与える。波が岩にぶつかって上げる飛沫(しぶき)が大きければ大きいほどに3人は歓声を上げて喜んだ。


 辺りが暗くなり雨が降り出すとシートの端をお尻の下にしてそれで3人を包み込み、もう片方のシートの端を足で押さえ込むと即席のテントのようになる。

 3人はビニールシートにぶつかる雨の音の中で木の枝が揺れるスリルと丸太と木の枝がこすり合って不気味にギギギっとなる音を味わった。


 恐怖と隣り合わせにありながらも3人一緒にいられる安心感は何物にも代えがたい幸福感をそれぞれにもたらした。そのスリルと肌を寄せ合う温もりに誰もが興奮した笑顔になる。

 台風と雨の音を聞きながら夜遅くまで3人で木の上で騒いでいたが、誰もが同時にふっわっとした眠けに襲われて一斉に眠りに落ちた。


 次の日の朝はマリが一番最初に目を覚ました。タケシとユリの肩をそっとゆすって起こす。

起き上がり、雨除けのシートを取ってみると台風は完全に通り過ぎており、気持ちのいいほど空は高く、空気が冷たかった。


 木の上の避難場所を解体し、急いで丸太やロープを片付けると3人は笑顔で海岸に向かった。目的は波に打ち上げられた海藻や魚を拾い集めるためだ。


 魚や海藻以外にも海老やイカなど普段はなかなか手に入らない食材も多く打ち上げられている。それを見付けるたびに互いに大声で知らせ合う。

 あまりの量ですべてを回収することはできなかった。少しでも息のある魚は海に投げて戻す。今日は死んだ魚だけで十分過ぎるほどの収穫があった。


 今日中には食べれない分ははらわたを取り除き、はらわたと肉を別々に別けて天気が良いうちにカラカラに干す。イカや海老は焚火で焼き、久し振りに豪華な食事となった。


 マリは足りなくなった焚き火用の枝を林の中に集めている時、昨日の暴風で木の上から巣ごと落ちたカラスの子供を見付けた。3匹のうち一匹はすでに死んでおり、もう一匹は腹に血の跡があり、だいぶ弱っていて長くはなさそうだった。


 マリは巣ごとタケシとマリの元に持って行って二人に見せると、タケシは2匹は食べてしまい、一匹をペットにしようと提案した。

 時々現れるカラスに餌を与えて餌付けする程度の経験はあったが、子供のカラスを大きくすることは経験がなかった。だからやってみたいという。

 

 まだ飛べないカラスの子供はタヌキやイタチなどから守らなければならない。木の枝を組み合わせてしっかりした鳥かごを作り、その中で3人で代わりばんこで面倒を見た。


 タケシがカラスを飼いたいと言った理由の一つにカラスが人間の言葉を覚えて躾することが出来るという事が本当か確かめたかった。

 カラスは犬よりも賢いと言われており人間の言葉を理解できるらしい。また雄ならば人の言葉を真似て九官鳥のように喋れたりもするという。

 名前をどうしようかとしばらく考えたが3人共、カラスに付ける名前はなかなか思い浮かばなかった。なので無難なカンちゃんという安易な名前になってしまう。


 カラスのカンちゃんは意外と大食いで与えると何でも食べた。肉も魚も海藻も山菜も味わう事を知らず何でも飲み込むように平らげる。


 いつでもお腹が空いているらしく、折り紙のパクパクのような大きな口を開けて大声で鳴きながら食べ物を入れてもらうのを待っている。与えても与えても切りがなくいくらでも食べ続けた。

 そして餌を与える手を止めるとすぐに寝てしまう。


 そんな感じで2か月ほど餌を与え続けると黒々とした毛に生え変わり、立派なカラスに見えるようになった。

 ユリとタケシはカラスのカンちゃんにマリっという言葉を教え込もうとしていた。

 それはカンちゃんがマリと言うとマリが喜びそうだったからだ。


 根気強く餌を与えてはマリと教え続けると少しずつだけどマリっという発音に近付いてきた。その他にもおはようやバカなど教えようと頑張ったがマリ以外は言わなかった。

 

 マリはカンちゃんが自分の名前を呼んでくれることで一層かわいがった。

 いつも自分の隣りに置いて食べ物を分け与えたし、ユリとタケシが自分にはわからない話をしているとカンちゃんを連れて散歩に出掛けた。

 そのうちカンちゃんは3人のペットではなくマリ専用のペットになった。



〈〈 次回、現金収入。島での自給自足生活だったが、やはり現金を手に入れる事は必要不可欠だった。子供たちはどうやって現代社会で金を生み出すか。ご期待ください。〉〉

作品に訪問して頂き、ありがとうございます。

※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。


今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

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