72、見守る (完結)
夜中にベッドの上で本を読んでいると、いつもの庭から聞こえる物音の中に師子と鈴の高い声を確認した。
窓からそっと外をのぞくといつもの2匹に混じって鈴と師子の姿があった。
4人は今まさに庭に出来た泥の水溜まりの中でじゃれつくように取っ組み合っている。
一番小さな師子だったがその師子が一番遠慮なくクマの上に覆いかぶさり、泥の塊をクマの顔に押し付けている。
そのすぐ側にいる鈴も泥だらけで、おかしくてたまらないという様子で師子の取っ組み合う様子を見ていた。
泥遊びをしている4人の側に母グマはいない。
自分の大きな姿が幼い子供たちを脅かすかもしれないという配慮なのだろう。
そう思ったらこちらとしてもなるべく姿を見せないようにする必要があった。
部屋の電気を消して静かに物陰からそっと4人の子供を見守った。
そしてそれは何と美しい光景だろう。
月明かりに照らされた幼い4人の子供たちに胸を掴まれるような強い愛情を感じた。
愛苦しい、いとおしいという言葉では語りつくせないくらい尊くて熱い情を持ち始めている。
そしてその姿を別の場所から隠れて見守っているであろう母グマに対しても同じ母親として言い尽くせない友情の念を感じた。
子供は子供同士、親は親同士、人間も動物も何も変わらない。
それはマリにとって初めての母親同士の交流になった。
側にいなくても、また言葉という道具を持たなくったって、この母グマと互いの感情を交換し合うことが出来ている。
そう思うとこの母グマに同士のような共感を感じたし、この子グマたちに対しても親類のような親近感を覚えた。
そしてマリにとって初めてできた境遇の同じこころの友だった。
こういう感情を育ててくれ、また体験させてくれたタケシに心から感謝した。
そしてこの場所にタケシがいたらもっと嬉しかったのにと思った。
おしまい
※最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
いずれユリの側から見たストーリーも投稿するのでブックマークをお願いします。
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お手数かけしますが詳しく評価をして頂けると今後の参考になるので助かります。
長い間、お付き合いいただきありがとうございました。
また、近いうちにお会いしましょう。




