7、サバイバル生活
3人の子供のサバイバル生活スタート。お互いを助け合い、かばい合う。
今回のストーリー要素
サバイバル ★★★(塩の活用法、食料、他)
感情度 ★☆☆
危険度 ☆☆☆
ほっこり度 ★★★(食べ物)
タケシの島は舟で2時間ほど漕いだ所にある割と大きな島で本土から西に10キロほど離れた場所にあり、天気のいい日には本土から辛うじて目視できるほどの大きさの島であった。
その島は大昔から地元住民によって特別に崇められているような土地で長い間、誰もその島には住みつかなかった。
その昔、流れ着いた平家の武将の三兄弟がその島に移り住み、武力を蓄えてもう一度再建を狙ったが住民の裏切りにあって悲願半ばで討ち捨てられた場所だとも言われていたし、キャプテンクックが財宝を隠し、人を近づかせないために人柱を立てて呪いをかけたという伝説や鬼が住んでいて時々、本土で娘や子供をさらって連れて行ったという伝説もあった。
夜に不気味な光を見たと言う漁師の話や島に近付くと船が難破すると言う噂がいまだにまことしやかにささやかれており、熟練の地元漁師たちもその島を遠巻きに避けて通るような場所だった。
だが実際はその島での生活は神社の祠で隠れて生活していた時の10倍楽しくて快適だった。
まず一つに人目を気にすることなく堂々と生活できるという事が大きかった。
今までできなかった火を使って調理する事や食べ物を盗むことなく自分の手で調達できること、そして同じ境遇のなかまが近くにいるという安心感もあった。
ここでの生活のすべてが生きていくために必要な仕事であり、同時にそれが幼い3人にとってはそれが最高の遊びになった。
タケシは物を良く知った子供だったし、問題が起きても工夫して自分で解決しようとする努力家でもあった。
魚は一匹ずつ釣るよりも浅瀬に小さな湾を作り、そこに網で追い込む方が簡単だという事をすでに知っており、湾の入り口にかえりを施すことで引き入れた魚が海に戻ることなく生け捕りで保存することもできる。
思考が柔軟で想像力豊かだが時には信じられないくらいの体力と精神的粘り強さも垣間見せた。
またサバイバル生活で必要な天気を読むことや食べれる物と危険な物の判断、罠を仕掛けるテクニックなどの知識が豊富でそのうえ子供ならではの敏捷性も兼ね備えており、この世界では無敵で頼もしく見えた。
そんなタケシにマリは安心しているように見えたがやはり声を出すことはなかった。だけどタケシの方もそんなマリを特別扱いするわけでもなく自然に接してくれ、手が届かない箇所だけ手助けをした。
もしかするとサバイバル生活は大人よりも子供の方がずっと適応能力が優れているのかもしれない。ユリもマリも木登りのコツをすぐ覚えたし、狩りや料理、火起こしなどの生活に必要な技術を身に付けるまでに時間はかからなかった。
真水の見つけ方、スリングショットという強力なゴム製の武器で野鳥を狩る方法やロープを使って枝のない木に登る方法、小舟の漕ぎ方も教えられるとすぐに習得した。
自分で色々な食材を調理できるようになるとママの作っていた食事が特別変わったものではなかったように思えてきたし、工夫次第でいくらでも自分たちの好みの味に変えることが出来るという事を覚えるとおいしい物を作りたいという欲求も自然と出てきて食への関心を持つようになった。
ユリは海水から塩を作ることに成功していた。これにより生活が画期的に改善した。塩は料理に使えるだけでなく、石鹸や歯磨き粉の代わりに使ったり虫に刺された時の薬にもなるし、害虫の侵入を防いだりする事にも使える。
また塩を作る時に出来る副産物のにがりには豆腐を凝固させることで知られる成分だが塩同様に殺菌作用があり、肉や魚の表面に塗って大きな葉で包み地面に穴を掘って保存すると鮮度を保つことが出来る。
にがりは塩漬けほど素材の味を変化させることがないので短期の保存には適しているが、塩ほどの長期保存効果は期待できないので食べ物の種類、保存期間に応じて使い分けた。
食事は小麦粉をこねた物をよく食べた。水に溶いてフライパンでクレープ状に焼いた物に具材を包んで食べたり、団子にしてスープに入れたりもした。
一番よく食べたのが小麦粉に塩と重曹を混ぜて捏ね、それを細く伸ばして枝に巻き付けて焚火の端に突きさしてパンのように焼いた物だった。
時には奮発してそれに砂糖をまぶした物は3人の間ではドーナツと呼ばれていて、この島一番のご馳走になった。実際、小麦粉はお米よりも簡単に調理できて重宝した。
夕飯を食べた後、ユリは必ずマリのお腹の膨れ具合をチェックした。
幼児のお腹は腹筋が発達していない分、食べた分がそのまま素直に視覚で表れる。ユリとタケシはマリのお腹がぷくっと膨れているのを見るのが好きだった。
この生活を始めた最初の頃、ユリとマリは食べ物を手に入れることに大変苦労した。その時の苦労がいつまでも忘れられず、マリが毎日お腹いっぱい食べれているという事実を見た目で認識できる事がユリに幸福な自信を与えた。
食料は豊富だったので飢えるという事はなかったが島での生活は常に動き回り体力を使ったし、育ち盛りの3人は常にお腹が空いていた。なのでいつでも歩きながら食べ物を探す癖が自然と身についた。
木の実はもちろん最初は気味が悪かったネズミや蛇、カエルや芋虫なども食べてみると美味しい事に気が付いた。無理に食べる必要性はなかったが焼くと香ばしい匂いが食欲をそそり、小さなものをおやつ感覚でちょこっと食べるのに適していた。
この島の生活に慣れてくると今までと価値観ががらりと変わり、現代の経済的物質主義や過保護ともいえる安全第一主義はとても不自由でつまらなく感じた。
ここでは自分がしたい事や学びたい物をすべて自分で選び取ることができ、誰かに強要されることもなければ我慢することもなかった。自然の中での生活は自分の欲求のまま素直に行動し、動物としての欲求を完全に満たしてくれた。
だけどそれで各々がわがままに好き勝手行動して他の者に迷惑をかけるという事はなかった。世間から孤立して暮すには仲間の存在が必要不可欠でそれが心の安定につながったし、協力し合えば生活はさらに快適になる事を知っていたのでそれがお互いをより一層大切にすることに繋がった。
タケシもユリも小さなマリの存在を頼りにしていろいろな仕事を任せたし、それにより無口で感情を素直に表さないマリもタケシとユリに安心してついて行った。
〈〈 次回は、子供に必要不可欠な遊びの話。遊びの中で子供たちは学び、強く逞しく成長していく。親や学校のルールには縛られない子供の独自の発想で生活をより豊かにする。ご期待ください。〉〉
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