69、山籠もり
マリから鈴の身に起きた事を聞いた時、タケシは鳥肌が立った。
自分が側にいない時、マリや鈴、師子に何かあったらと考えるとその夜は恐怖で眠れなかった。
一睡もせずに次の朝一番にタケシは犬の次郎を連れてマリの家に向かう。
これからは犬の次郎をマリの家で番犬として置いておく為だ。
あのイノシシは猟師に腹を撃ち抜かれたまま生き伸びてこの家まで来たようで、そのイノシシはその後、猟師が回収して行った。
そんな恐ろしい話もマリは正確に淡々とタケシに話した。
そこにマリのこの土地で鈴と師子を守ると言う強い覚悟と運の強さを感じる。
今は逆にマリだからこそ冷静に対処できたのだという事、そしてこれからも自分自身と鈴や師子をきっちり守り抜いてくれるだろうと安心できた。
いつだって自然の中では避けられない大きなトラブルは起こる。
そのトラブルの一つ一つに真剣に向き合うことで動物はどんどん強くなるのだ。
ここで恐れて逃げた人間はもう二度と獣には勝てない。
マリのように強い人間だったからあの雌イノシシを至近距離から一発で倒せたのだ。
動物が一番強くなる時は恐怖を体験し、それを乗り越えた後だった。
鈴と師子がそういう事をこの土地で少しずつ学ぶ事が出来れば、それは危険を伴いながらも彼らの野生本能を育て、強く逞しく成長させていくだろう。
普通の一般家族の子供にはそんな無謀な教育は勧められないが、俺たちの子供ならばそれは望むところだった。
そう思ったら週3日の山暮らしではもっと子供たちに山での自然体験やサバイバル生活をさせるべきだと思った。
それからのタケシとマリは2人を連れて山の中を歩き回り、野宿するような生活を始めた。
夜中に子供たちを背負って罠を仕掛けて回ったり、獲物をその場で捌く所も側で見せた。
火の起こし方や扱い方、疲れない歩き方や道に迷った時の対処法、ケガをした時の処置の方法も実践して教えた。
そうやって4人で山を歩き回っていると時々、タケシは今はまだあの無人島にいて、鈴と師子という仲間が増えたというような気分になった。
自分もあの時の子供のままでマリもまたあの時の子供のマリだった。
今、4人の子供が山の中を冒険しながら一緒に遊んでいる。
そんなワクワクするような興奮する感情を顔に表さないように必死に抑え込みながら歩き続けた。
〈〈 次回、森でクマの親子に出くわす。ご期待ください。〉〉
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