67、独り身
「タケちゃんの周りの女はとことんタケちゃんから離れて行くなぁ。あんなに小さな鈴ちゃんまで出て行くだなんてこんなに色男なのに、とことん女運がなくて気の毒になるよ。」
「秀さんに気の毒がられるなんてタケシさんもダッサいよなぁ。おまけにマリちゃんは誰の子かわからない子供を産んで山奥で幸せに暮らしてるんでしょ?
目も当てられないからこれからはもっと俺たちがここに入り浸ってあげるんで元気出してくださいよ。」
そうやって遠慮なしにポンポンとものを言うのはもちろん龍馬で今夜もいつものメンバーがタケシの家に集まり、火を囲んでしょうもない話をそれぞれに持ち寄って酒を飲んでいる。
気の毒なタケシだったが、ここに集まるメンバーたちはタケシが完全に独り身になった事に軽く興奮していた。
タケシがマリの家に一か月間滞在してる間もこのメンバーは勝手にタケシの家の小さな庭に集まり、毎晩こんな感じで夜を過ごしていたという。
タケシが自分たちと同じ独り身になり、遠慮することなくこの家に入り浸る事が出来る事は誰にとっても喜ばしいことらしい。
干し肉や煮干しなんかを火で炙りながら、メンバーそれぞれの生活のうっ憤や恋愛話、時には賢そうに政治やビジネスの話などしているのを側で聞きながら酒を飲むことは正直、今が一番楽しいとも言える。
そしてこの頃からタケシの生活は少しずつ変わっていった。
理容店の営業日を週4日にして月、火、水曜日を定休日にした。そしてその3日間はマリの家に滞在して狩猟をして生活するようになる。
週4日営業になった分、夜の営業時間を延ばして今までの得意客を残さず受け入れたいところだが理容組合で定められた営業時間がある為にそれはできない。
なので今は顔剃りだけの女性客はすべて断り、気難しい男性客専門の理髪店としてさらに男くさい店に進化した。
それまでタケシに対して度々反抗的だった鈴だが、タケシと距離が出来た途端にタケシに対して穏やかな顔つきになり、タケシに自分がいなくて寂しくないかと優しく気遣うそぶりも見せるようになった。
そんな鈴の手のひらを返した態度にタケシはふっと笑いが込み上げる。
もしかしたら鈴は以前からずっとマリの側で暮すことを狙っていたのかもしれない。それが今回師子が産まれたことでそれを上手に利用したのだ。
そう思うと血が繋がっていると言っても娘とはなんと冷たいものなのか。
これが娘ではなく息子だったらどうだっただろうかと思った時、師子はいつか俺が父親だと知った時どう思うだろうかと今度はそちらも心配になった。
〈〈 次回、大イノシシが鈴を襲う。ご期待ください。〉〉
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