63、出産準備
今朝は特別、体の中からのメッセージが強く、鮮明に感じられる。
そして、朝食後にトイレに行くとおしるしもあった。
自分で自分自身を指で確認すると子宮口は2センチほど開いている。
マリには今夜、必ず生まれるという確信があった。
体が動くうちに朝炊いたご飯で小さな丸い具なしのおにぎりをたくさん作った。
いつもより少し塩みを強めに利かせて堅めに握る。
そしてシーツを新しいものに変え、庭に布団を干す。
赤ん坊用の産着とタオルケットを広げて肌触りを確認し、取っ手の付いた藤の籠に小さな布団を敷き詰めてベビーベッドを作る。
キッチンのコンロでハサミと小刀、スプーン2本と縫い針5本をさっと火で炙り、縫い針には絹糸を通しておく。
ひとりで出産するので赤ん坊の頭が出る時、会陰切開が必要になれば自分でしなくてはならず、またその後の処理でその部分を縫う必要があった。
マリはそうした行為に対してまったく恐れはない。
麻酔がなくったってそれくらいの事ならば自分でできる。見ず知らずの人に切られる事の方がずっと恐ろしかった。
マリはこれまで人間の出産についてもかなり詳しく調べ上げていた。その情報はかなり狭く、専門的で難しいものだったが豚の出産を手伝った経験から随分と詳しく理解していた。
今回、マリが出産の為に準備した器具は医療用なんかではなく、すべてどこの家庭にもある物だ。
その消毒したそれぞれの器具をガーゼの上に丁寧に並べ、針はガーゼに取りやすいように並べて刺し、その上からもう一枚のガーゼを掛けた。
スタンド型のミラーと痛みに耐える時に噛み締めれるように皮製のベルトも用意して、そのすべてを部屋の隅に一か所にまとめて置く。
これ以上やれることがないと言う所までしっかり準備と点検をし、安心して縁側に腰を下ろした途端に腹を締め付けるような軽い陣痛が始まった。
しかしまだその痛みは弱く、何事もなかったような表情を作る事が出来ている。
もうすぐ到着するはずの鈴の前ではなるべく苦しい表情は見せたくない。
そういう痛みを腹の奥で感じながらも、もうすぐタケシと鈴が来るということに安心して、うとうとと眠りの淵に落ちて行った。
〈〈 次回、いよいよ出産の山場を迎えるマリとそれを側で見守るタケシ。ご期待ください。〉〉
作品に訪問して頂き、ありがとうございます。
※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。
今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。