60、夜の海
タケシは今までの自分の判断を疑ったことはないし、歩んできた道が間違っていたと思った事もない。
だけど今この部屋で自分がこれから行なおうとしている行為ははるか昔からの大自然の摂理や生命の神秘を冒涜するような行為であるという認識は十分にある。
本当にこのやり方が正しいのかどうかという事はもう何百回と繰り返して考えてきたが未だに自分を納得させられるきちんとした答えは見つかっていなかった。
マリの勘をまったく信じないわけではないが今は誰とも恋愛をする気がないと思っているマリであっても10年後、20年先に誰に出会うかという事はマリ自身にもわからないはずだ。その時、マリがこの選択を後悔することがないようにしてやりたい。
そうも思うが何が正解で何が間違いかは現時点では誰もわからない。
そしてマリが一番いい状態で子供を身籠る事が出来る妊娠、出産の適齢期もマリの勘に頼る以外方法はなく、そしてその責任もマリにしか負えない。
これが他人であれば自分はただ精子提供者として妊娠を希望する女性の助けに徹すればよいのだけれど相手がマリだと思うとそう簡単には割り切れなかった。
そして迷いに迷い、最後に自分の背中を押した物はもしこのことが間違いだったとしてマリの身に何かが起こったとしてもその罰を一緒に受けてあげればいいだけだという強い愛情だった。
別に恥ずかしいと思う気持ちはない。マリを安心させるためにマリにもあらかじめそう言っておいた。
頭を無にして自分のペニスを自分の手の平で包み込むとそれは完全に手の平に馴染んでしまい、まるでそこに何も存在しないかのように姿を消した。
脳が完全にリラックスして軽いトランス状態になった時、小さな夢を見た。
それは懐かしい夜の海の夢で、幼い頃の自分は小さな木の舟の中で櫂を動かし続けている。
空には億千の星が煌めいているがその星は全てどこかに向かって流れている。そしてそれは星ではなくて海中の夜光虫だという事に気付く。
自分は舟の中にいると思っていたのにいつの間にかその夜光虫の中の一つになっており、船に乗ってる何者かに櫂で掻きまわされながらも懸命に自身を光らせながらその舟に向かって必死に泳いでいる。
周りには自分と同じような者たちがその舟に近付こうと競っており、自分はなぜそうしたいのかもわからずにただその舟を追いかけ続けている。
なぜ追いかけているのかは分からないがその舟に追いつかなければ何か悲しい事が起こるというだけがわかった。
自分と同じ姿の仲間が互いをけん制し合いながら行く手を阻み、また船の櫂にもかき混ぜられて脱落していく者たちも多くいた。
タケシは櫂の動きを読み、櫂が水面に達する直前に櫂に近付いた。その時、櫂が自分を持ち上げ、そのまま夜の星空に投げ飛ばされた所で正気に戻った。
その時、カップの中に自分の精が放たれていた。
〈〈 次回、マリの妊娠。ご期待ください。〉〉
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