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45、ヤクザの自宅

 タケシは平日に一日店を閉めた。マリには高校時代の友達と旅行に行くから今日は帰らないと言って家を出た。


 その家は電車の駅からかなり離れたところにある裕福なエリアにあり、その家のだいぶん手前でタクシーを止めてもらって降りる。そしてその周辺の雰囲気を探るために近所を少し歩きまわった。


 玄関の門は赤木で大げさなほど立派に作られており、その周辺の家にわざと威圧感を与えるように高い塀で家を囲んでいる。


 庭はかなり広いのか塀からは離れた場所にある大きな樫の樹ですら塀の外から確認できた。

 しかし住居は平屋造りなのかその塀の外側からは正確な建物の位置や構造は読めないようになっている。


 この閑静な住宅街の中でこの家だけ造りが異様でその要塞のような塀と門からこの家がこの近所の者たちからも疎まれる存在であるという事が安易に予測できる。

 しかし、自分がいまから乗り込もうとする家の敷地の広さと出入口は確認できた。


 正面の屋根付きの門には呼び鈴はない。

 ただ門の右上に来た客を見下ろすように防犯カメラが設置されてるだけだ。


 そのカメラを睨みつけるように見上げる。

 するとすぐに内側から門が開けられて体の大きなスーツ姿の男が現れた。


 タケシはその男に自分の名前は名乗らず、その家の主人に会いたいとだけ言った。 

 その男が黙って歩き出すのを間をあけずに後ろから着いて行く。


 門から玄関までは花崗岩の板石が幅広くきっちりと敷かれており、大きな玄関口から入るとそこは事務所になっていた。

 住居に入るには必ずこの事務所を通り抜けなければならない構造らしい。


 事務所には6人の厳つい男たちが薄笑いを浮かべて立っていた。

 そしてその奥のソファーには若くはない良い女が座っていたがタケシにはまったく目をくれずにタバコをふかしている。


 女の目の前には喫茶店で出されるような品のいいコーヒーカップときれいな皿に用意されたケーキが置いてあったが、女はコーヒーには手を付けたがそのケーキには口を付けたくないようだ。


 男の中でも一番年長者の者がタケシの前に歩み出て立ちはだかり、タケシをまっすぐ見た。

 タケシもその眼を正面からまっすぐに受け止めると男は背広の内ポケットに手を入れた。


 その男のしぐさに周りの男たちは薄笑いでタケシを見つめたが、タケシが物おじひとつしないのを見ると男たちの目つきが変わった。


 年輩のその男は胸ポケットから名刺入れを出し、その中から一枚名刺を取り出してタケシに黙って渡した。


 タケシはその名刺を無造作に片手で受け取り、表と裏を確かめた後、その名刺を指で弾き飛ばした。

 

 その指で弾くように投げた名刺は奥のソファーの女の目の前のケーキにきれいに刺さり、名刺の表がその女の方を向いた。


 その次の瞬間、タケシの右隣にいた男が胸ポケットから銃を出してタケシの心臓に突きつけると、タケシはその男の動きの流れのままに男の手首をひねって銃を奪い取った。


 その素早く手慣れた動きに男たちは一歩も動けなかったが、慌てる男たちを目の前にタケシは冷静にグリップからマガジンを引き抜くとそこには玉は装備されていなかった。


 空のマガジンをもう一度グリップ部分に納めてその銃を男の胸元に押し当てるようにして突き返す。 

 この間、誰も動けずにいたし、一言も口を開かなかった。


 その場は緊張で凍り付いた。

 その時、ソファーの女と初めて目を合わせた。

 その女から敵意のような重たい視線を感じ取ったからだ。


 しばらくすると奥のドアから老人とその男によく似た若い男が現れた。

 事務所内で起こった一連の出来事を別の部屋から見ていたのだろう。


 そしてその老人は人差し指でタケシを奥に招き、それ以外の者が付いて来ようとするのを手で押し止めた。

 タケシはこの緊迫した状況の中であっても事務所の男たちに簡単に背後を許し、背を向けて老人について自宅の方へ入って行く。


 事務所から自宅までは暗くて長いコンクリートの通路で繋がっており、ところどころ足元に明りが灯る。壁は厚く造ってあるらしくひんやりとした空気を感じた。

 その通路を抜けるとそこは自宅の玄関に繋がっていたが、その一つ手前のドアを押し開けて男は自宅の庭に出た。


 住居は意外と平凡な造りになっており、庭には盆栽の横に洗濯物まで干してある。

 そして庭の中心には三輪車やトランポリンがあり、ここだけ見ればどこにでもある普通の生活のように見えた。


 男はタケシに縁側に座るように勧めるとタバコ盆からタバコを取り出して口にくわえ、それをタケシにも勧めた。

 タケシはそのタバコを受取ると何も言わずに吸った。タバコを吸っている間、どちらも一言も口を開かない。


 そしてタバコを吸い終えたタケシは黙って立ち上がり、何も言わずに来た道をたどって事務所を通りぬけ、門を自分で開けて外に出た。


 これですべてが終わったとは思わなかったがしばらくは大人しくしてくれるはずだった。

 もしこの先、何か動きがあったならマリと鈴を連れて別の町に移ればいい。

 家族には執着があるが町や店には特別強い思い入れがあるわけではない。





〈〈 次回、マリはタケシへの感情にやっと気付く。ご期待ください。〉〉


作品に訪問して頂き、ありがとうございます。

※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。


今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

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