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44、付きまとわれる

 しばらくタケシとの間に気持ちの悪い違和感を感じていたマリだったが毎週月曜日の鈴とタケシとの特別な外出に慣れてくるようになるとその月曜日を心待ちで楽しみに感じるようになってきた。


 行きは鈴と一緒に後部座席に座り、鈴が保育圏で習ってきた歌を一緒に歌ったり、あやとりや手遊びをして遊ぶのだが帰りの鈴はいつも座席に座った途端に眠りに落ちる。


 鈴が寝てしまうと運転しているタケシの隣に場所を変え、運転技術の質問や自動車学校の話をする時もあればタケシが自分のお客さんから聞いた耳寄りな情報などをマリに教えてくれたりもする。


 時にはふたりとも黙って音楽を聴きながら頭の中で考え事をすることもある。

 そんな時でも自分一人の世界で考え事をしていながらも隣に温かいぬくもりや静かな息遣いを感じる時、マリは改めてタケシとの居心地の良さを実感することができた。

 

 最初は大勢で一緒にうける授業や車内では教官と二人きりというプレッシャーがマリにかなりのストレスを与え、学校に行くのが億劫になった事もあったが、この家族の週1度の外出という特別特典につられて続けているうちにそのプレッシャーを次第に受け入れられるようになっていった。


 自動車学校での技術練習や講義も最初は対人の緊張のためになかなか頭に入ってこなかったが緊張に次第に慣れてくると授業に集中できるようになり、そうなれば今度は人の感情を必要以上には読まなくなり、次第に意識もしなくなっていった。



 自動車学校の教室は学生時代の教室と違って個々が別々の社会からごく短い期間集まっているだけのコミュニティーなので、誰もがクラスメイトに対して必要以上には関心がなく特別な関わりを持たなくて済む。


 だがそんな自動車学校であっても一人だけやたらマリに絡んでくる男がいる。

 その男にマリはただならぬ嫌な物を感じた。


 常にマリと同じ講義を取り、受講の際はいつもマリのすぐ隣に座って何かとマリに話しかける。

 マリが無視を続けてもまったく怯むことなくずっと後を付けて来た。


 その男の派手な容姿と佇まいは周りの受講生たちの注目を引きつけ、自然とその隣のマリも注目されてしまう。


 このような光景は自動車学校でよくありがちな光景でいたる所で見られる行動なのだが、その男の持つ雰囲気とマリの雰囲気があまりにも違い過ぎて誰の目から見ても違和感しかない。


 自分より格下のマリに無視し続けられる様を周りの好奇な目にみられていながらも、自分のやり方を押し通そうとする必死さに狂気のような物を感じたが、まずはこの男の真の目的を探ることが先決だった。


 その目的にマリはいくつか心当たりがある。

 マリとタケシがどういう過去を持ち、どうやって生き抜いて来たかを考えればそれは十分に脅されるネタになりうるし、またマリが今やっている仕事の情報は人によっては喉から手が出るほど欲しいものでうまくそれを使えばとてつもなく大きなお金を生む。


 そういう自覚と危機感はいつだって忘れた事はないし、それに対しての対策は一応持ってはいるがもしものことを考えてタケシにだけはきちんと相談しておこうと思った。

 もし自分の身に何か良くないことが起きた時、タケシには何が起きたのか知っておいて欲しいからだ。


 タケシは帰りの車の中でマリからその話を聞いた時、マリの口調から久々の危機感を感じ取った。

 そしてすぐに昔の仲間に調査を依頼するとその男が飯田組と関わりのある新地のホストだという事を知る。


 タケシの昔の業界では飯田組が関西のいくつかの土木業や建設業界と裏で繋がっている事は周知に知れており、その分野で大きくなった飯田組がマリの会社の情報を狙ってマリに近付いたとしても辻褄が合う。


 今、その飯田組は大きくなりすぎて派閥が生じ、その中で小さな抗争が絶えなかった。

 その理由は一番のトップの親分が歳を取り、その座を巡っての政治的思惑がその周りの業界や政治家たちを巻き込んでいた。

 それだけにマリの持つ情報を握る者が大きく有利働くと考えられる。

 

 タケシは島の生活でこういう世界をたくさん見てきてそれなりにスリルや興奮を感じて楽しんでいたが島から出て一般人になると決めた時、マリの将来の為にもこういう世界と縁を切りたいと思ってまっとうな仕事を選んだ。

 

 にもかかわらず、やっぱりヤクザたちとは切っても切れない縁だったらしい。

 しかし今はちいさい鈴もいる事なのでできるだけ早いうちに不安の目を摘んでおきたかった。


 まず最初にタケシはマリには内緒でその新地のホストに会いに行った。

 知り合いの飲み屋の女に男のホストクラブに行ってもらい、アフターで連れ出させた。


 そして静かなめし屋の壁際に席を取らせ、女とその男が席に着いた瞬間、タケシはその男が逃げられないよう、追い詰めるようにその真隣に座った。

 そこで初めてその男と対峙した。


 男はマリが言うように見た目が派手で自分の男としての強さや自信を周りに対して過剰に見せることで優位に立とうとしているが所々に人の好さと寂しさも見え隠れする。

 強い者への憧れからか大きな力に簡単に巻かれてしまう性格のようだ。


 その男に小さな声でマリの名前と飯田組の名前を言うとその男はすぐに観念した。

 観念はしたが口は堅いらしく終始無言を貫き通し、男の口からはっきりと認める言葉を聞き出すことはできなかったがこちらの話に終始不貞腐れた態度をとったことでそれは明らかだった。

 黙った男とこのまま一緒にいても話にならないと思ったタケシはその男に



「近いうちに飯田組の本宅に挨拶に行く事になるだろうからお前はその事を飯田組の者に伝えろ。それともうマリにも近づくな。それだけだ。お前はお前のする事だけを考えろ。下手に動くとそれも俺たちは見てるからな。」



 とだけ言ってその男を帰らせた。



〈〈 次回、タケシはマリを守るためにヤクザの自宅に乗り込む。ご期待ください。〉〉


作品に訪問して頂き、ありがとうございます。

※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。


今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

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