42、思春期
最近、マリがただならぬ様子であることにタケシはようやく気付いた。その様子を観察してもまったく原因がわからずただただ困惑した。
今のマリはタケシと目を合わせなくなったし、自分の洗濯物に一切触らせないようになった。
またタケシが口を付けたボトルを嫌がって飲まなくなった事に加え、一つの皿を3人でつつく事も嫌がるようになってきた。
マリはマリなりにそれを表てだって表さないようにしているようだが、今まで一緒に生き抜いてきた妹にまるで汚いもののように扱われることはかなり傷付いた。
タケシはマリがユリと同じように自分から離れていく事を恐れていた。できるだけ今まで通りのこの生活の平和を守りたかったが秀さんのアドバイスはまったく別ものであった。
「タケちゃん、それは思春期ってもんで男親、男兄弟には到底それを理解することはできまいよ。18にもなるマリちゃんがいまだに兄貴とひとつの部屋で寝てるんだからこのマリちゃんの思春期の反抗はかなり根深いかもな。
タケちゃん、よかったらこれからは夜、うちで寝なよ。俺もいつも家にいるわけじゃねえし、もちろんタケちゃんだって女の所に泊ったりする日もあるだろうよ。
昔みたいに四六時中一緒ってわけじゃなくて、時々ふたりで寝るってだけならそれほど大変でもねえから俺はかまわねえよ。」
秀さんにそう言われるとだんだんとそんな気持ちにもなってきた。
子供の頃から抱き合って寝てきた仲だったからタケシはまったく気にならなかったし、タケシは今まで遊んできた女の子たちよりもマリの方が気を使わなくて楽だとさえ思っていた。
たとえ血は繋がっていなくてもよその兄妹よりもうちはずっと仲がいい間柄なのだと自惚れていたが実際はそうじゃなかったことに落胆した。
「だけどマリちゃんを責めたらいけないよ。それが大人になるってもんなんだ。タケちゃんだってマリちゃんくらいの頃は自分の性欲をコントロールできなくて大変な時期あっただろ?女の子はそれとは違う形でまた大変だってことよ。ある意味ちゃんと成長してるってことなんだろうな。」
秀さんにそれを言われると辛い。その言葉はタケシにずっしりと刺さる。
マリがそういう形で反抗期を迎えなかった事だけでもありがたいと思うべきだ。
そう思ったら覚悟ができて、その日からタケシは夜だけ秀さんの家で寝るようになった。
週の半分は酒場で出会った女の子たちと朝まで過ごし、また半分は一人で秀さんの家で寝た。たまに秀さんと夜、顔を合わせることになると二人で照れたように笑った。
しかし、そんな生活はそれなりに楽しさも感じた。
大義名分があり、自分の欲求とは違う所でその状況を選ばされていると思うと罪悪感のような物もなく、ただ気楽で若い頃の気持ちがもう一度蘇った。
朝、家に戻って店を空け、働いて、夕飯を食べてまたよそに泊る。それに慣れてしまえばこれほど楽な生活もなかったがやっぱり気になるのはマリの事だ。
しかし、少し距離を置いたことがよかったのかマリの表情は以前よりも和らいだように見えるが問題は鈴で、鈴は前以上にマリにべったりになった。
まるでマリを自分の母親とでも思っているのか、今はマリがいないとぐずる事さえあった。
しかしそれはタケシが夜、別の家で泊まるようになった事だけが理由ではなく、以前から24時間ふたりは一緒にいたのだ。
鈴が自分の感情をうまく言葉で表すことが出来るようになってきてそれが正直に表現されるようになっただけなのだろう。
そういう所でもマリがこの家に来てくれたことは鈴にとっても正解だったのかもしれないと思った。
〈〈 次回、18になり、自動車学校に通い出すマリの回。ご期待ください。〉〉
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