4、生活
ユリとマリは失敗を幾度も経験しながら自分たちの生活を見付けていく。
今回のストーリー要素
サバイバル ★★★
感情度 ★★★
危険度 ★★★
ほっこり度 ★☆☆
生まれ育った場所でもあり、また母との思い出もたくさんある慣れ親しんだ土地ではあったがこのままこの場所に留まるのはやはり危険だった。
ユリとマリがいなくなった事で誰か探し始めているかもれないし、この場所に居続ければ近いうちに必ず知り合いに出会ってしまう。そのためにも早急にこの地を離れる必要があった。
そしてその日からユリとマリは自分たちの居場所を探すために放浪する日々が始まった。
知らない土地で生きていくという事は想像以上に厳しく難しいことだった。その土地を知らないということは生きるすべを知らないと同じ意味である。
寒さやさまざまな危険から自分の身を守り安全に寝られる場所を探すことも、水と食料を手に入れる事ができる場所、怖い人達に出くわさず安全に行動できる土地を何の手がかりもなく見つけ出すことは困難だった。
人目につくことを警戒して暮らしていたがあまりに人里離れた場所も不安だった。そしてただ歩きまわるだけでも子供にはいろんな制限があった。
子供2人だけで行動するには時間帯も気にしなければならなかったし、子供だけで出入りできる場所は意外に少なく、不自然に見えないよう常に気を遣って行動しなければならない。
最初の頃は良心の呵責と大人への恐怖心から物を盗むという事が恐ろしくて、なかなか手が出せずに何日も食べ物にありつけないこともあった。また幼いマリの手を引いて一日中歩きまわってもどこにもたどり着けないという日もあった。
長い距離を歩いて移動する時は幼いマリを少しでも疲れさせないために、ユリはマリに目をつむらせてマリの手を引いて歩く。
ユリを信頼し、目をつむったままユリに引きずられながら歩くマリは歩きながらも仮眠状態に入り、長い間疲れさせずに歩かせることが出来る。
歩きながらマリの首と体が何度もガクッと体制を崩すのだがそれでも歩みは止まらなかった。
そうやって街から街を渡り歩き、4日目にやっとたどり着いた最初のねぐらはこの辺りでは比較的に賑わった街の古い食品加工場だった。
ユリは最初、ここで廃棄された食品を手に入れる事ができ、また使われていない倉庫で寝泊まりもできると期待してこの場所を選んだ。
しかし、ここが以外にも警備員が交代で見回りするようなきちんとした工場だったために食品の廃棄場も厳重に施錠されており、すぐに廃棄食品を手に入れる事は不可能だという事が分かると思いっきり落胆した。
そのうえ寝泊まりしている倉庫は工場でいらなくなった物を置いておくようなクモの巣だらけの汚い場所だったにもかかわらず、そんな所でも稀に人が出入りすることもあって油断はできなかった。
安定した生活のために一番大切なねぐらは毎日出入りする場所になるので出来るだけ人目につかない場所が理想であったが街中でそういう所を探すのは困難だった。
食料や生活必需品の調達は郊外の大型スーパーマーケットを利用した。マリにお人形用のベビーカーを押させてその人形の布団の下に盗んだ物を隠し、女性客の後ろを娘を装って外に出る。
お寺や神社などではお供え物を盗んだ。墓掃除をしているように見えさえすれば誰もがやさしい笑顔を向けてくれるし、お菓子やお餅を直接手渡しでくれる人までいる。
またユリとマリは身だしなみを整えるためにときどき小学生以下は無料の市民プールを利用した。
身だしなみはユリとマリが一番気を遣う所だった。なぜなら大人たちは汚い服を着た子供が目に付くとその時だけはおせっかいをやきたがるからだ。
大人が不潔な格好で歩いていると目をそらすくせに子供がそうであった時は誰もが無意識にその子供の保護者を目で探す。
だから大人に怪しく思われないためにはきちんと髪を結い、清潔で子供らしい服を身に付けている事が必要で、そして一番大切なのが幸せそうにしていることであった。幸せそうに見えさえすれば大人たちは誰もが安心して簡単に頬を緩めた。
また市民プールは図書館や科学体験施設などが併設されていて唯一、子供だけで長時間いても疑われない場所でもあった。
ここでは携帯電話のWi-Fiを自由に使う事ができたし、また本から様々な情報も手に入る。無料のお茶と水や簡単なスナックや果物のサービスもあり、かなり充実しているが食べ物にはなるべく手を出さないように気を付けた。なぜならそこだけは大人たちの監視が他よりも厳しく感じたからだ。
妹想いで賢いユリだったが時には気分が沈んで弱気になり、何が目的で誰から逃げまわって暮らしているのかわからなくなって苦しくなる時もある。
ユリが不安でパニックに陥った時、3歳下のマリはなぜかいつも冷静でユリの頭を両腕で包み込み、ユリの耳元でわざと大きくゆっくり深呼吸をする。その長く落ち着いた吐息をユリにしっかりと聞かせた後、頭をゆっくりと撫でて大丈夫、うまくいくからと元気付けて慰めた。
ちいさくて柔らかいマリに抱かれながらマリの温かくて湿った吐息を耳元でしばらく感じていると体に貯めこんでいた我慢や不安の塊のような物がいとも簡単に溶けて流れ落ちた。
大声で泣きはらしてマリに恐怖や弱音を全部ぶつけた後は妙に頭がすっきりとした。
そしてそういう時にはいつも不思議と思いがけない幸運が舞い込んでユリとマリに味方するのだ。
そうやって幸運が定期的に訪れるという事を信じられるようになると、苦しい日はゆっくりと、そして良い事があった日は駆けるかのように時間が過ぎていき、確実に日々が一歩ずつ前進していった。
〈〈 次回、ユリとマリが落ち着く先はどんな場所なのか。そこでどんなことを学んでどう賢く成長していくか。ご期待ください。〉〉
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