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34、避妊

 有紀とは高校を卒業してすぐ出会った。社会人になった同級生が野球チームを作ろうと頑張っていた時、メンバー集めのために何度か合コンを開いて交友関係を広げようと躍起になっていた。その時の創立メンバーに無理やり入れられ、その合コンにも強制的に参加させられた時期があった。


 タケシは合コン自体は楽しんでいた。かわいくて明るい女の子たちと話すことは若いタケシにとってはやはり楽しい事だったからだ。

 ただ周りの男友達が人が変わったように落ち着きがなくなったり、躍起になって自分を見失う姿はどうにも見ていられなかった。


 合コンに参加した女性陣は誰もが余裕の表情なのにそれに対して、男性陣はどんなに笑わせようとしてふざけていても眼の奥が血走っており、その行動と心の中の感情がちぐはぐでそれを近くで見ていることがしんどかった。

 そしてどんなに男たちが頑張っても女性に気に入られる確率はきわめて低い。


 女の子たちに振られると男性陣は言い訳のようにチーム集めのための交流会だったと自分たちを慰めた。しかし合コンで知り合った女性から野球チームのメンバーや対戦相手を紹介してもらう事もあったのでまんざら適当ないいわけでもなかったのかもしれない。


 そんな合コンで出会った女性陣の中に県内のお嬢様学校出身の有紀がいた。 


 有紀は男性陣から特別に注目されるような華やかな容姿ではなかったが、着ている服やバックのセンスが周りの女子メンバーよりもあか抜けていて独特の存在感があった。多分それは育ちの良さであって男性陣はそういう女性も好きだった。


 その時の女性メンバーはめずらしくノリがよくて、男性陣に大いに期待をさせた。

 2次会以降も全員が出席するほどまとまりが良く、結局4次会まで続き、解散する頃には外が明るかった。


 今までどれだけ苦労しても女性にうまくあしらわれて、今一歩の所で逃げられることに慣れていた男性陣はみんな有頂天だった。そして本当に稀な事だけどそのメンバーで日をあらためてまた集まる計画まで立った。


 別れ際にグループチャットを登録して、それからもしばらくグループ全員で集まったり、野球の応援に来てもらったりして大学のサークルのような仲間意識ができていた。

 そんな時、有紀から直接連絡が来るようになり、彼女に誘われればふたりで会う事もあった。


 正直、今までの合コンでもメンバーには明かしていないが女性から隠れて連絡先をもらう事があった。なのでその時、黙ってこっそり会うことが出来る女性は片手くらいはいたと思う。

 連絡をもらって仕事の都合さえつけば彼女等と二人でお酒を飲んだり、クラブに踊りに行ったりすることくらいは大げさなことではなかった。


 そしてその娘たちと肌を合わせる事ももちろんあった。だけど誰もが施設育ちで床屋の見習いのタケシに真剣に交際を迫る事はなかった。ただ楽しい時間を過ごすのにちょうどいい適当な相手ぐらいにしか思っていなかっただろう。だからこちらも罪悪感を感じずに楽しく笑って時間を共にした。


 しかし有紀だけは最初からなんとなく重たい感じがした。

 彼女は育ちが良いからか自分の性的欲求を肯定する手段として愛情という言葉を意識して使っているように見えた。


 その言葉を使う事で自分の中に生まれた醜い感情を正当化できると信じているようで、そういう彼女の感情に付き合う事は負担だった。だから彼女には自分が施設育ちで将来性がなく、お互いの境遇が違い過ぎる事を強調して付き合った。


 だけどお嬢様育ちの彼女にはそれを言えばいうほどにそれが美しい試練か何かに感じられるのか、どんどん頑なになっていくように見えた。

 そしてある時、向こうから少し強引に迫られた。避妊具がないという理由でやんわりと断ると彼女は自分のバッグの中からゴムをだしてタケシに手渡した。


 人から手渡されたコンドームを平気で使うほど馬鹿ではない。手渡されたゴムをさりげなく確認するとかすかに指の腹に引っかかりを感じた。そうなれば有紀ときちんと顔を合わせて話をしなければならない。

 彼女の服を正してソファーに座らせて彼女の目の前に座った。

 

 彼女はその時すべてを諦めた。自分のしたことに恥じて可哀そうなほど打ちひしがれていた。 

 その顔を見るとどうしても放っておけなくなり、憐れさと慈悲の感情が芽生えた。


 彼女の手を握り、なるべく優しく穏やかに見える顔で彼女の目を見て、そしておでこにキスをした。 

 その途端に彼女は大声で泣きだした。


 それは子供のようにひきつけを起こすような泣き方で、泣いている間中、タケシはしっかりと有紀の背中を包むように抱きしめてやった。

 有紀を抱きしめている間、自分でも不思議だったがこの娘の子供を授かる事は必然だと思えた。


 タケシは家族を切望していた。

 マリは妹ではあるが血が繋がっているわけではない。そしていつタケシのもとを離れていくかわからない存在だ。


 自分が必要としてるのは自分と血のつながりがある永遠の存在だった。

 そう思い始めたら意外なことを考え始めていた。


 タケシは有紀に おれの子供が欲しいの?と聞いた。有紀はまた泣き出して何度もうなずいた。

 そして なんで今、子供が欲しいの?と聞くと有紀は泣きながら



「タケシさんとどうしても一緒になりたいのにタケシさんの周りには他にも女の子たちがいるし、親に反対されるのも分かってる。だから子供を作って強引にタケシさんを手に入れたいと思ったの。バカなことをしてごめんなさい。もうこんなバカな考えは持たないからこれからもずっと私と一緒に遊んでください。」



と言って土下座までした。タケシは有紀を抱き起し、じゃあ子供を作って結婚しようかと言った。



「だけど一つ約束して欲しいんだ。もしその約束を守ってくれるのなら君を君が望むまで大事にするし子供も大切に育てる。君の欲望と僕の欲望を両方満たせれる約束なんだ。君は愛にそんな契約みたいなものは必要ないと思うだろうけど僕にとってはとても大事な事なんだ。


 もし、君の愛情が僕に対してなくなった時や何らかの理由で僕らが別れなければならなくなった時、子供は僕に引き取らして欲しい。君は子供を作って僕と一緒になりたいと思うだろうけど僕は自分の子供が欲しいから誰かと結ばれたいと思う。

 今までの女性でこんな育ちの僕の子供を身ごもりたいと思ってくれるほど勇気のある女性はいなかった。だから僕が自分の子供を授かるのは周りが想像する以上に難しい事なんだ。」



 そういうとタケシは 結論を急がなくてもいいからゆっくり二人で考えよう。と言って有紀の隣に座り、彼女の肩に手を置いた。



〈〈 次回、タケシは親になる。そしてタケシの人生は………。ご期待ください。〉〉

作品に訪問して頂き、ありがとうございます。

※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。


今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

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