表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/72

33、女性

 タケシはこの頃から自分とは違う性別の女性というものに特別な興味を持つようになっていった。

 女性という物が同じ人間でありながらも自分とは対照的な場所にいる人間で、一生かけても完全には理解できない物だと知ったのは意外にもマリの初潮がきっかけだった。


 いまだに施設内で相談相手がいないマリは自分の身体に突然起きた大きな変化に対してなんの解決策も持たなかった。

 そして唯一、心を開いているタケシに隠れて電話で相談してきた。


 マリがタケシを頼って連絡してくれたこと自体は嬉しかったが、その内容が内容なだけに気持ちは複雑だった。


 しかし今までどんな事があっても我慢強く耐えてきたマリが離れて暮らしているタケシを頼ったという事はマリにとってよっぽどの事であったはずで、しかもそれはこの時一度きりの事だった。


 それだけマリの中でも混乱があり、不安に耐えられなかったのだろう。そう思うと可哀そうでもあったし、兄としての責任も感じた。


 出来る限りマリに協力してやりたいと思ってはいたが自分の理解の限界を感じていたタケシはその時仲良くしていた女友達に思い切ってその事を正直に相談してみた。

 そして彼女に付き合ってもらってマリの為に生理用品や痛み止め、染み取りスプレー、携帯カイロまたブラジャー等を買い揃えるのを手伝ってもらった。


 その奇妙な買い物に女の子とふたりで出掛ける事はやっぱり恥ずかしくて、仲のいい男友達にも付き合ってもらい3人でデパートへ出かけた。

 その道すがら女友達に詳しい生理の説明や生理用品の使い方、生理期間中はどのように過ごすせばよいかなどのアドバイスをもらった。


 女性が生理期間にお腹が痛くなるという事はなんとなく知っているつもりであったが、女性は月のうちの半分ほどがホルモンの操作によって心や体が思い通りにならず苦しむという事はこの時、初めて知った。


 そして人によってはそう鬱状態や集中力低下、食欲不振や自己嫌悪で苦しむという事も知った。

 そしてこれから先、マリはそれを背負って生きていかなくてはならないという事が心底可哀そうに思えた。またその事をマリにどう伝えればいいのかもわからなかった。


 男女同権と謳われるこの現代社会の人生を左右する大きな分岐点の受験や就職面接などで男女が対等に戦っているものだと信じて疑わなかったのにその女性の多くは実際、当日に万全の態勢で臨めていないという事は大きなショックだった。

 その衝撃の事実にそれを隣で聞いていた友達もタケシと同じくらい青ざめていた。


 昔から言われている男は女性に対して優しく気を配らなければならないという言葉の真髄がこの時初めて腑に落ちた。

 そして本音を言えば自分が女としてこの世に生まれてこなくてよかったとさえ思った。

 

 そしてそれを聞いた時、一番最初に頭に浮かんだのはあの時のユリの言動だった。もしかするとユリはあの時から誰にも言わずに一人でその未知の苦しみに耐えていたのではないかと思った。


 あの場所でユリはタケシとマリには到底わからない苦悩にひとり悩まされていたとしたら、ユリに対してもっと歩み寄って理解してあげるべきだったし、解決策がもっとあったはずなのだ。

 タケシはユリが可哀そうでならなかった。


 女性と男性の体は生まれた時点から違ってはいるのだが、しばらくはその違いを意識せずに共に成長する。


 しかしある時点から大きく袂を分かち、最終地点では人間としてどれほど大きな開きができるのかという事を知った。

 そうなれば同じ物を見ても同じようには感じられないだろうし、善悪の分別も男女ではズレが生じるのが当然の事のように思える。

 

 またそう考えると千佳から聞いていた大人の男と女の破廉恥な色恋沙汰やトラブルもまったく自分には関係がない低俗な問題だとも思えなくなった。

 そしてその頃からタケシは女性という生き物を注意深く観察し、慎重に接するようになった。

 

 そしてタケシが慎重に丁寧に彼女らに接すればするほど女性はタケシに対して心を開いた。

 そこからタケシは男性に対する接し方とは全く違った付き合い方を女性を通して学ぶ事になる。


 女性の事を慎重に観察するようになるとタケシは自分が女から好かれる容姿であるかもしれないと思うようになった。それは今までとは全く違う種類の自信をタケシにもたらし、その自信と初めての性体験での成功が麻薬のように常にタケシの本能を狂わせ続けた。


 そしてさらに女にモテたいという欲求が強くなっていくと自分の顔立ちや体付きまでもが見るみる変わっていき、また女に好かれる仕草や振舞いが面白いように身に付いていった。 


 それはどこか動物に罠を仕掛ける仕組みと似ていた。相手の動きや行動の先手を読んで巧妙にまた不安を持たれないように上手におびき寄せ、罠に掛ける事はタケシの本来持つ性質を満足させる物だったがそれが動物などではなく大人の女性だということにとてつもなく興奮した。

 そして自分が想像以上に性欲が強い事もこの時に知った。


 それからのタケシは女性を見る時、常に彼女らの中にある性の要素を探すようになった。そしてそのような見方で周りを見渡すと性の対象者が自分の周りのいたる所にいる事に気付いて愕然とした。


 自分はもしかしたら大変態なのではないかとさえ思った。そういう事を考える時間が多くなり、もう自分が子供には戻れないと悟った。


  そんな時、千佳とも間違いを犯してしまった。

 施設に入って情報屋の仕事をしなくなってからは千佳と連絡を取ることがなくなっていた。そんな時、秀さんと行った飲み屋に千佳がいた。

 千佳はおれ達二人のテーブルに接客に着き、話は盛り上がってアフターで3人で千佳の家で飲み直すことになった。


 ここに来るまでの秀さんは軽快な足取りだったのだが、着いてすぐに酔っ払ってソファで寝息を立て始めた。しばらくは千佳とふたりで酒を飲んでいたが二人きりになると昔と違って上手に話ができない。


 しばらくすると千佳は押し入れから毛布を2枚出してきて、一枚を寝ている秀さんの上にかけてもう一枚をタケシに渡すと泊まっていくように勧めた。

 そして千佳は自室に引き上げていった。


 毛布を首までかけてソファに寝転んだ。その毛布から匂う女の香りを嗅いでいるうちに久しぶりに合った千佳が頭から離れなくなった。


 親子ほど年齢が離れていて、以前は完全に信頼し合える仕事のパートナーであったはずなのに、店で着ていた肩を出したドレスが今までの千佳と違い過ぎたし、隣に座った時に一瞬だけ触れた千佳の臀部の感覚がいつまでも手にまとわりついた。


 その悶々とした気持ちを自分の中で押さえきれなくなり、秀さんの寝息を確かめてそっと居間を抜け出して千佳の部屋のドアを開けた。そして寝ている千佳のベッドに潜り込み、千佳の背中に自分の体をくっつけた。


 千佳は最初、体をくっつけてくるタケシに強く抗ったがタケシは千佳に無理に迫ろうとはせず、千佳の頭をゆっくり優しく撫で続けた。


 その行為がいきなり体や顔に触られることに抵抗のある女性や自制心が特に強い女性に有効であるということを独自の性体験から何となくわかるようになっていた。

 それはまるで蛇の鱗を逆からしごくのに似ていて、その行為によって気の強い女性は気を失ったかのようにおとなしくなる。


 しばらくベッドで横になり無言で頭を撫で続けるといると、そのうち千佳は笑いながらタケシの動きを受け入れるようになった。

 簡単な狩りよりも少々手ごわくて時間と労力をかけた獲物の時の方が快感も大きくなる。タケシの興奮がそのうち千佳にも移り、最後には千佳の方が激しくタケシを欲しがった。

 

 事が終わって静かに居間に戻ってみるとソファーで寝ているはずの秀さんはいなくなっていた。タケシはその時、初めて自分がしでかした過ちの大きさに気付いた。

 

 それからタケシは一度も千佳と会っていない。



〈〈 次回、タケシの女性に対する思い。ご期待ください。〉〉


作品に訪問して頂き、ありがとうございます。今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ