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31、理容師

 タケシはこの施設で中学を卒業して高校に入学した。

 その頃からタケシは繊細な感覚を持ち合わせた職人たちの仕事に興味を持つようになる。


 今まで自分がやってきたスリや情報屋という仕事も、その分野の素人からすれば神業と思われるような鮮やかな手口ではあるのだが、世の中にはそのような高度な技術を必要とする職種が数々と存在し、それぞれにその道を究めた熟練の技術者がいる事を知る。

 

 100分の1ミリの誤差を触った感触だけで感じる事ができる能力や人より優れた匂いや味、音の違いを見分ける特別な人だけが持つ優れた感覚や能力に憧れた。

 またそのような職人たちは自分のその技術をひけらかすことなく、毎日淡々と仕事を邁進していることも格好良かった。


 あとできればいつか必要な時のために働いてお金を貯めておきたかった。

 いくつかの弟子を取る職種のアルバイトをあたっていると千佳が自分が親しくしているという床屋を紹介してくれた。


 そしてその床屋は見かけは普通の床屋のようだったがやっぱり情報屋だった。

 だからタケシの事も特別かわいがってくたし、タケシの器用さも気に入り何かと世話をしてくれた。


 床屋の仕事は情報屋としてまさにぴったりだ。男性客は施術時間の一時間、自分の事や自分の家族、会社、趣味の事を話すのが普通だ。


 その床屋は見た目はなんてことない普通の床屋に見えたが、その店には企業の役員もヤクザも警察官も医者も通った。

 だからそんな床屋の主人の元には自然と個人情報が集まる。


 床屋以外にも運転手やホステス、引っ越し業者などを蓑にして情報屋をやっている仲間も多い。

 そのそれぞれに得意分野があり、不動産土木関係に強い運転手、住宅の構造や家族構成に詳しい引っ越し業者、官僚や政治家の情報を精通にしているホステスなどこの仕事の闇は深い。


 床屋の主人は秀さんといった。秀さんは60歳くらいに見えるが本当は何歳かわからない。

 床屋としての技術は逸品でその確かな技術に惚れ込んで遠方からも多くの男性客が通って来た。


 ただ普段の生活はだらしなく女、酒、博打に溺れ、床屋の2階の住宅は足の踏み場もないくらい汚くて臭かった。しかし情報屋の仕事を長くやっていたタケシにはそれが彼の本性なのかどうかは疑わしかった。


 タケシはその店では客に触れること以外の全ての雑用全般を引き受けた。床を掃いたり、タオルを洗って畳んだりするのはもちろん、予約を受けたり会計もした。


 客のはいてきた靴を靴箱に入れる際、靴が汚れていればを磨いてあげたし、上着の埃を払ったり、ボタンが取れかかっていたら修復するのも自分から進んで引き受けた。

 そういう気が利く所を客にも気に入られてチップをもらう事もあった。


 秀さんと仲良くなると2階の住宅の掃除や料理、買い出しもしてあげるようになる。そうなれば秀さんはますますタケシを気に入り、仕事が終わると夜遅くまでタケシを連れまわして遊んだ。


 秀さんは早いうちからタケシに自分の店を持つことを強く勧め、将来の為に帳簿の付け方や仕入れまでも細かく教えてくれた。その時、タケシの中で将来の道筋みたいなものができた。


 タケシと秀さんは毎日深夜まで一緒にいることが多くなり、そのうちにタケシは施設を出て床屋の2階に一緒に住むようになった。


 店を閉めた後に床屋の技術や道具の手入れを教えてくれる事もあれば、女のいる場所に酒を飲みに連れて行ってくれることもあった。


 タケシが酒に強い事が分かると飲み屋で出会った女たちはしきりにタケシをかわいがった。秀さんは女たちにかわいがられるタケシを我が子のように喜んで周りに自慢して歩いた。


 子供の時はそういうくだらないことに大金を使う大人の社会をバカにして疎ましく思っていたはずなのに自分が少しずつそういう事の楽しさを理解する年になって来たことに驚いた。


 そしてタケシは男女の関係をそこで出会った大人の女性とはじめて体験した。



〈〈 次回、タケシに連れられてマリはキャンプに行く。ご期待ください。〉〉

作品に訪問して頂き、ありがとうございます。

※基本的に毎日更新していますので、この先のストーリーが気になるという方はブックマークをお願いします。コメントや評価を頂けると励みになります。


今日一日お疲れさまでした。明日も一緒に頑張りましょう。

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